彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。

執筆用bot E-021番 

都市の中へ

 都市の入口となる、城門棟。


 オレたちは水売りから奪い取った通行手形を見せた。通行手形には「この都市で商売することを許可する」といったようなことが書かれているようだった。もちろん、クレハたちオークはフードをかぶって角を隠していた。


「見ない水売りだな」
 衛兵がそう尋ねてくる。
 きっと、このフィルドランタの領主に仕えている騎士なのだろう。


「新人の水売りなんですよ。あはは」
 言わされている。


 首輪は外されていた。代わりに、ワキバラの肉をクレハが隠れてつまんでいるのだ。もしも、余計なことを言ったら、ワキバラの肉をちぎり取ってやるとのことだ。


「ホントウに水が入っているのか、樽をひとつ開けても良いか?」
「ええ。どうぞ」


 ホンモノの水売りから奪ったのだから、入ってるに決まっていた。オレはまだワキバラを囚われていた。助けを求めるべきか懊悩していた。騎士たちの装備は、チェインメイルよりもさらに薄いクロスアーマーだった。


 助けを求めたところで、騎士のほうが殺されそうだ。水売りたちを護衛していた騎士のチェインメイルを、オークの手が貫く光景が、脳裏にたちのぼっていた。


 オークのいる世界なんだから、関所の兵士たちももっと分厚い装備をすれば良いのに……と思った。しかし、分厚い装備を、常時着用しておくわけにもいかない。熱中症待ったなしだ。だからクロスアーマーという最低限の装備なのだろう。


「たしかに水だな。よし通っていいぞ」
 と、無事に都市へと入ることが出来た。


 通行手形を持っていたというのもあるが、身分をあまり調べられなかった。鎧も薄いし、普段からオークにたいして警戒しているわけではなさそうだ。


「上手くやるではないか」
 クレハはフードの奥で満足そうに笑っていた。


「もういいだろ。ワキバラから手を離してくれ」
「良かろう」


 ようやく手が離れた。


「生きた心地がしないよ」
「オヌシが逃げようとしなければ、何もせぬから安心せい。それにしてもオヌシ……」


 クレハは、ワキバラを今度は優しくナでてきた。


「なんだよ。くすぐったいな」
「肉付きが悪いのぉ。身長と体重はどんなもんじゃ?」


「えっと……。身長は170センチちょいだったかな。体重は50キロ前後だと思うけど」


 平均より痩せているほうだと思う。別にダイエットしてるわけではない。食べても太らない体質なのだ。
 それを聞いたクレハは渋い顔をした。


「せめて100キロは超えてもらわんとな」
「それは太り過ぎだろ」


「太ってるほうが食べる部分が多くて良いではないか。我は人間の脂身の部分も大好きじゃ」
 クレハは手の甲で唇をぬぐっていた。


 自分が太っていなくて良かったと、心底思う瞬間だった。 


 都市の中は石畳のストリートが伸びていた。左右には木造のものもあれば、石造りの建物もあった。そして明るい喧騒に包まれていた。


 いろんな商売人たちが行き交っている。油を売る者、魚を売る者、パンを売る者。民衆はそれに集っている。もちろん水を求める者も多く、オークたちはホントウに水売りになったかのように、商売に励んでいた。


 水売りが繁盛するということは、各家庭に水道が通っていないのだろう。その代わりに、噴水のようなものがあった。


 給水泉と言われるものだ。


 それはオレも歴史の本か何かで読んだことがある。中世ヨーロッパの人たちは、その給水泉と水売りたちから、水を得ていたのだ。セパレートでも同じらしい。


 給水泉の周囲には、桶が置かれていた。桶には衣類が山積みになっている。その山積みの衣類の上では、ネコ耳を生やした少女が、跳びはねていた。健康的な白い素足をさらしている。


「あれがケモミミ族か」
「うむ。洗濯をしておるようじゃな」


 店頭販売をしているパン屋では、耳のツンととがった少女が、「安いよ」「出来たてだよ」と、客を呼び集めていた。


「あれは、エルフか?」
「エルフは普段、森で暮らしておるが、出稼ぎに都市に来る者も多いようじゃな」


「にぎやかな都市だな」


 地球も喧騒にあふれている。だが、この都市の喧騒には、人々の活気が満ちていた。見ていて心地の良いにぎやかさだった。


「修道院に行けば、修道士がいるはずじゃ。まずはオヌシのことを診てもらうとしよう」
「修道院があるってことは、宗教があるのか」


「ティナ教とやらがあるな。そこの修道士は、癒術という人の傷を癒す魔法を使う。そのおかげか信徒も多いし、人間のなかでは頼りにされておるようじゃ」


 オークたちはフードで頭を隠しているものの、堂々と民衆の中を通過してゆく。バレたら、きっと騒ぎになるだろう。オークたちは、そんなこと歯牙にもかけていないのかもしれない。

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