彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。

執筆用bot E-021番 

異世界転移について

 オークという言葉は、オレも聞いたことがある。ゲームやアニメなどで出てくるオークは、こん棒を振り回している巨人だ。エロアニメに出てくるオークは、だいたい女性の敵だ。しかし、オレの知っているオークと、彼らの姿は一致しなかった。彼らは、角とキバを生やした人間の姿をしていた。


「こっちへ、来い」
 オレの首輪から伸びる鎖を引く少女は、そう言った。


「オレ、食われるなんて。厭だからな」
「はいはい」

 少女はあどけない笑みを浮かべつつ、鎖を引っ張ってくる。それがとても少女とは思えない怪力だった。どれだけ足を踏ん張ろうとも、簡単に引きずられてしまうのだ。オレはジャージをはぎ取られて、パンツ1枚だった。靴だってはいていない。引きずられると、裸足の足のツメに土が食い込んできた。


「痛い。痛いってばッ」
「おっと。これは失礼」

 少女はパッと手を離した。
 そのせいで、オレは勢い余ってシリモチをつくことになった。


 少女はオレの頭と、足に手を回してきた。何をするのか……。オレのカラダを持ち上げたのだ。俗に言う、お姫さま抱っこ、というヤツだ。男性が女性にするのなら、まだわかる。しかし、少女にされるというのは屈辱的だった。


「大人しくしておれよ」


 近くに天幕の張られた馬車が止められていた。オレはその馬車の中に放り込まれることになった。その怪力を見せつけられると、オークだという言葉を、信用しないわけにはいかなかった。


 少女も馬車の中に乗り込んできた。
 馬車の中にはカンテラがつるされていた。ほのかな明かりがあった。


「逃げ出そうとか、抵抗しようとか考えてはいかんぞ。もしも、ホントウに逃げ出すなら、大人になるまで待たずに、食べてしまうからな」


 少女はオレの顔を覗き込んでそう言った。
 大人の女性が、年下の男子をカラカうような表情を浮かべている。が、その言葉が冗談でないことはわかった。


「なんでオレは食べられるんだよ。だいたい、ここはどこなんだよ」
 自分の家の、自分のベッドにいたはずなのだ。


「オヌシにとっては、ここは異世界ということになるんじゃろうな。セパレートという世界じゃ」
「異世界……異世界召喚ってヤツか」


 オレは読書家だ。異世界と聞いてもさほどの驚きはなかった。むしろ、今の状況を忘れて喜悦をおぼえたぐらいだ。膨大な読書量は、オレに冷静さと順応力を与えてくれたようだ。


「オークに伝わる妖術で、オヌシを招いたのじゃ。30年に1度、異世界の人間を召喚する妖術があってな」


 そして、その哀れな犠牲者がオレになったようだ。しかし、4年の間は食われないということで、恐怖が薄らいでいた。


 妙なことをしなければ、今はまだ食われる心配はないということだ。むしろ、この少女はオレのことを丁寧に扱ってくれる気配すらある。さっきの集団から救い出してくれたことは確かだ。


「このセパレートという世界は、30年に1度、月が5つ出る。今日がその日。オークの妖力がもっとも高まる日というわけじゃな」


 そう言えば月が5つ出ていたことを思い出した。あれを見たときに、異世界だと気づくべきだった。


「このセパレートとかいう世界に、人間はいないのかよ」
「おるぞ」


「じゃあ、わざわざ異世界人を召喚しなくても、そっちを食べておけばいいじゃないか」
 少女はオレの頬に手をあてがってきた。


 その手は小さくてやわらかい。腕から伸びている手の肉付きも、少女らしいものだった。この腕から、オレを抱きかかえるような怪力が発生するとは、とても信じられなかった。


 頬をやさしくナでられて、緊張した。少女のその手つきには優しさが込められていた。だが、それは女性が男性にたいする優しさではなく、飼っているペットに向けられるようなものだった。


「セパレートの人間で満足できるなら、わざわざ異世界人を召喚なんてせんわ」
「じゃあ、なんで」

 と、オレは不機嫌あらわに食い下がった。


 異世界に招かれたことはうれしい。だが、トツゼン襲われたことにたいしては、立腹もあった。その怒りがチロチロと胸奥でくすぶっていたのだった。


「異世界人は美味い」
「味がってことか?」

「それはもう、オークの舌をとろけさせて、一生その味にとりつかれるぐらいに……なぁ」


 そう言っている少女の顔がとろけて、桜色の唇からはヨダレが垂れていた。今にも、かぶりついて来そうな勢いだ。


「待て。4年だろ。大人になるまで待ってくれるんだろ」
「あ、そうであった。ついつい食べそうになってしまうわ」

 と少女は服の袖でヨダレをぬぐっていた。
 この様子だと、ホントウに4年間無事でいられるか心配だ。


「もちろん、地球に帰してくれないんだよな」
「むろん」

 当たり前だろうといった表情を向けてきた。


 父は単身赴任で滅多に家に帰ってこないからいいが、母さんには心配をかけてしまう。いたしかたない。母さんのことを考えるよりも、まずは我が身の安全を確保しなければならない。

 
 食べられるなんてゴメンだ。
 4年の猶予がある。

 その間に、逃げ出す機会はあるだろう。 


 セッカク異世界に来たんだから、こいつらから逃げ出した後は、異世界生活を楽しめばいい――と考えた。


「まずは服を着ろ。そんなカッコウでいられたら、我慢できんわ」
 少女は、はぁはぁ、と息を荒げながらそう言ってきた。


「服って言われても……」
 さっき剥ぎ取られてしまった。


「ここにある」

 上と下のつながった、ワンピースのような衣装を差しだしてきた。たしか中世ヨーロッパでも使われていた服だ。ブリオーとか言われるものだ。学校の成績にはつながらなかったが、そういった雑学は膨大な読書量によって得ていた。


「セパレートでは、こういう服が主流なのか」
「うむ」
「そう言えば、明かりもカンテラだもんな」


 セパレートの文化レベルは、あまり高くないのかもしれない。とにかく、この世界の知識をひとつでも知りたかった。そうしなければ足が地につかない。落ちつかない感覚が消えないのだった。


「ところで、オヌシ。名前は?」
 少女が尋ねてきた。

「食満幸人ケマ・ユキトだ。ユキトで構わない。そっちは?」

「クレハじゃ。いちおうオークの頭を張っておる。こう見えても、けっこうな高齢だから、子供だと思わないじゃな」


 どう見ても、オレと同い年か、あるいは年下に見える。だが、相手はオークという種族だ。300歳だとか、400歳だということもありえるかもしれない。


「何歳なんだ?」
「秘密じゃ」
 クレハは鼻に人さし指を当てて、笑った。


 女性に年齢を尋ねるのは失礼だったかと思って、「ごめん」と謝った。どう見てもオレより年下の風貌をしているので、敬語を使おうという気にはなれなかった。


「今日はもう遅いから、寝るのが良かろう。明日になったら、出発するぞ」


 こうしてオレは、オークのエサとして生きることになった。

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