彼女は、オレの人肉を食べて強くなる。

執筆用bot E-021番 

オークの家畜になりました

 足が、何かに捕まれている。


 夜中。


 ベッドの中にもぐりこんで、スマホをイジっていた。明日は日曜日だからついつい夜更かしをしてしまうのだ。カラダの中にじれったような、重苦しい感覚があった。解消しようとAVを見ていたときだった。 




 足首を、何かに捕まれたのだった。


 驚愕。困惑。


 いったい何が起きているのかわからない。ここはオレの部屋。オレ1人しかいない。ペットも飼っていない。部屋に置いてあるものと言えば、書籍の山ぐらいだ。


 足に何かゴミでも付着したのだろうか。最初は毛布の中で、足をジタバタを動かすぐらいだった。外れない。それはまるで、人間の手のようにガッチリと、オレの足首を捕まえているのだった。




 人……?




 そう思ったとき、はじめて恐怖がせりあがってきた。


 父さんは、単身赴任で出かけたまま家に帰って来ていない。母さんは別室でぐっすりと眠りこんでいるはずだ。まさか赤の他人が勝手にオレの部屋に入り込んでいるとも、考えづらい。




 確認してみるか……。



 毛布を開けて、自分の足を見てみればいい。そうすれば、オレの足首を捕えて離さないものの正体が、確認できるはずだ。




 毛布に手をかける。
 開けようとした。

 ダメだ。
 出来ない。

 怖い。




 もしも人だったら……と思うと、右手でスマホを握ったまま、カラダが硬直してしまった。ディスプレイの中では色の白い女優が、大きな乳房を揺らしていた。アンアンとなまめかしい声がイヤホンを通して聞こえてくる。

 ぐっ。

 と、オレの足首をつかんでいる手に、チカラがこもった。間違いなく、これは人間の手だと思った。しかし、腕なんてどこから生えてきているのか。ベッドの下に殺人鬼がひそんでいるなんてベタベタなホラーは、ゴメンだ。
 

 助けを求めるか。
 声をあげる?

 でも、もしもただゴミがついてるだけだったら、アホみたいだ。やはりまずは確認するべきだろう。


 鬼が出るか、蛇が出るか。

 AVを消して、スマホのライトを点灯させた。バクバクと心臓が鳴るなか、オレはユックリと毛布をめくってみた。


 手、だった。
 やはり手だ。
 人間の手と思われるものが、オレの足首をつかんでいるのだ。




「……ッ」


 助けを呼ばなくちゃ。
 だけど、声が出ない。


 緊張しすぎて、ノドが閉まりきってしまっていた。叫び声のかわりに、「ぴぃ」という小鳥のさえずりみたいな、変な声が出ただけだった。


 しかも、ただつかんでるだけじゃない。
 その腕は急に、オレのことを引っ張りはじめた。


「た、た、助け……ッ」


 ようやく声が出たと思った瞬間、オレは完全に引っ張り込まれてしまったのだった。ベッドから落ちるだけではなかった。まるで、高いところから落とされるような感触があった。ジェットコースターがテッペンから下るときのように。


「ぎゃぁぁぁぁッ」


 悲鳴とともに、落ちた。
 目を閉ざして、耐えた。



 いつの間にか、落下感は消え去っていた。ちゃんと背中が地面についている感触があった。パチパチパチと火の爆ぜる音がした。頬に風がよぎるのを感じた。青臭いにおいが鼻についた。

「うっ……」

 目を開ける。
 上体を起こす。


 まず目に飛びこんできたのは火だった。木を寄せ集めて、たき火を起こしているようだ。次に目に入ったのは、オレを取り囲む数十人の人間たちだ。


 人間? 


 いや、よぉく見てみると、その人たちの頭には角が生えている。コスプレ? それとも、カルト集団か何かだろうか。たき火が、その人たちの顔を照らし上げていた。


 「釣れたッ」
 イチバン近くにいた人がそう叫んだ。

 すると、「釣れた」「釣れた」「異世界人が釣れたッ」と、騒ぎはじめた。


 何かヤバい感じがする。とにかく逃げなくてはならない。しかし、囲まれていてどこにも逃げる場所なんてない。


「あ、あの……」


「あぁ。心配するな。お前はこれから食われるんだ。大丈夫、大丈夫。痛くないように首からガブリといってやるから」

 近くの男が、いかにも優しそうな声音で言った。

「は?」
 女性が、その男を跳ね飛ばして出てきた。


「いやいや。人間は鮮度が大切なんだよ。食うときは尻からだろ。尻から、内臓を食ってゆくに限る。死ぬのをギリギリまで遅らせねェと。な?」


 女性はオレに同意を求めてきたのだが、賛同しかねる。
 今度は女性を押しのけて、また別の人が意見を出しはじめた。


「何を言うかッ。山分けするんだ。叩き潰してミンチにして、公平に分配するべきだッ」


 口論が沸きはじめた。
 信じられないが、どうやらオレの食し方について言い争ってるらしい。


 マジでヤバい連中だ。カニバリズム野郎たちだ。
 とにかく、ここから逃げなければならない。


 いったい、何がどうなっているのかわからないまま、とにかくオレは、這う這うの態で逃げ出すことにした。角を生やした人たちの足のあいだをくぐり抜けて行く。しかし、もちろん、逃げられるはずもなく……。


「逃げやがった!」
「捕まえろッ」


 と、ふたたび、取り囲まれることとなった。


 女が寄ってきて、オレのことを凝視してきた。オレは中学も高校も男子校だったために、女性という生物をこれほど近くに見ることはなかった。今から食べられるかもしれないというのに、気恥ずかしい緊張を覚えた。


 オレが目をそらすと、女はオレの体重を寄せてきた。そして、熱いものをオレの頬によぎらせた。舌。ナめられたのだとわかった。女性の舌がオレの頬を這ったのだと思うと、頬がピリピリとしびれるようだった。


「あ、あの……」


 頬に触れてみると、生温かいヌメリがあった。
 女性の顔は恍惚こうこつとしていた。


「うンま――いッ」


 周囲がざわめく。

「あ。ズルいぞ。オレにも食わせろ」
「私が先よ」

 オレが着ていたジャージは、簡単に破かれてしまった。

 男も女もオレのカラダをナめようと舌を伸ばしてくる。まるで輪姦されてる気分だった。これが夢ならば、はやく覚めてくれという思いで、舌による愛撫あいぶを我慢していた。しかし、カラダを這ってゆく感触は、どう考えても夢などではないのだった。




「よしよし。味見はそれぐらいにして、とにかく、解体してゆこう」
 巨大な肉きり包丁が登場した。
 オレの身の丈ほどもある包丁だった。そんなものでカラダを切られたら、ひとたまりもない。


「ま、待ってください。オレなんか食べても美味しくはありませんよ。ほら、オレなんて背も低いし、肉付きも良くないでしょう。食べるならもっと他の人を……」


 ぜんぜん聞いちゃいない。
 地面に押さえつけられた。ものすごい怪力。手首足首をつかまれた。逃げようにも逃げられなかった。


 空が見えた。月が見えた。いや、あれは月なんだろうか。5つも見えるのだが……。


 その5つの月光を背景に、肉きり包丁が振り上げられた。ランランとした無数の目がオレのカラダに落とされていた。その目には不思議なことに残酷さや、醜悪さといったものが感じられなかった。

 何かを期待する子供のような純粋さが感じられた。今まさに人を殺そうとしているのに、どうしてそんなキラキラした目が出来るのかが不思議だった。


「じゃあ。解体――ッ」
 肉きり包丁が振り上げられた。


 しかし、その時――。


「待つのじゃッ」
 とがった声が割り込んだ。 
 群衆が割れて、1人の少女が現れた。


 瞬間。


 オレをおさえつけていた腕が一斉に離れた。チャンスだ。まだ生きれるという希望が突きあげてきた。オレは少女に駆け寄り、その小さな背中に隠れることにした。


「助けてくれ」
 と、訴えると


「うむ」
 と、少女はオレを振り返るとニコリと笑った。


 その少女が驚くほど肌の白いことがわかった。そして、瞳には銀色の輝きがあった。キレイだと思った。カワイイとか、美人だということではない。美術品のような美しさがあるのだ。


 髪は亜麻色のショートボブにしていた。その短髪によって、飾り気ない素の美しさが引き出されているように思えた。ただ、その少女にもヤッパリ角が生えていたので、このカニバリズム野郎の仲間なのだとわかった。


「オヌシ。まだ子供じゃな。年齢は?」
「16だけど」

「ならば、まだ食べるのはもったいないのぉ」
「もったいない、ってなんだよ」

「セッカクだからもう少し大きくしてから、食べなくてはな」


 どちらにせよ、オレを食べることに異はないらしい。


「オレは帰るよ。食べられるなんて厭だからな」
「じゃあ目を閉じるがよかろう」

「こうか?」
 目を閉じていると、首に何かかけられるのを感じた。


「もう良いぞ」
「ん?」

 目を開ける。オレの首に首輪がはめられていた。首輪からは鎖がつながれている。鎖の先端を少女がにぎっていた。


「なんの冗談だよ」
 首を外そうと試みてみるが、外れる気配はない。


「20歳になるまで待ってやるから、あと4年じゃ。4年間、我らオークが育ててやるからな」 


 つまり、家畜として――と少女は言い添えた。
 少女は「くははは」と笑った。その笑みの奥には獰猛なキバが生えているのが見て取れた。

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