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四人の勇者と宿屋の息子(仮)

神依政樹

悩み

夢を見ていた…。


幼い頃の夢…まだ母親が側に居た時の夢だ。


私は母親の膝に乗り、精一杯笑顔を向けて甘える。


すると美しい母は優しく微笑んで、頭を撫でてくれる。


「ねぇねぇ…?お母さん!ずっ〜と!一緒だよ〜」


母に抱きついて私はさらに甘える。


覚えている…この後「そうね…。ずっ〜と!…一緒よ」母はそう言って…少しだけ悲しそうに、困ったように微笑んでいたのを…。


「ごめんね…?一緒に居られなくなってしまったの…。私の所為で辛い事や苦しい事を強いてしまったわね」


この夢は記憶とどうやら違うようだ。


母は悲しそうに…困ったように…でも少しだけ嬉しそうに笑った。


「…これからはルナス…?あなたはアナタの為に生きなさい…。そして…愛する人を見つけて一緒に…ね」


幼い私はイヤイヤと泣きながら首を振る。
そんな人はいないと、私が愛するのは母だけだと、愛してくれるのも、母さんだけだと…だけど母は微笑んで、タダをこねる私の頭を撫でる。


「大丈夫…。大丈夫よ?あなたの側にはもう…あなたを大事にしてくれる人がいるから…ちょっと大変でしょうけどね?」


そう言って…母は少女のように悪戯ぽく微笑んでいた…。


(ルナス…。私には母の最後の思いを聞かせる事しか出来ません…。あなたの母は責任を持って…私が冥界で安息に過ごせるようにしましょう…)


最後に冷たいけど…どこか暖かい声を聞きながら…視界は白く染まり…夢は終わった。


「か…あ…さん…」


起きて…気がつくと…頬から水滴が流れ落ちていた。


窓の外は太陽が登り切り、段々と下がり始めている…。


どうやら、昼過ぎまで寝ていたらしい。


目を閉じて、手を合わせて私は祈る。「…冥界の慈悲深き女神メディアよ…。感謝いたします」


夢の最後の声は女神様のものだろう…。


何故か、何でなのかは分からないけど…今すぐに復讐しようとする憤怒も、憎悪も、心にも残っていなかった。


いや…なくなったという訳じゃないとは思う、けど…母の笑顔を見て…そして…。
そこまで考えた所で…くぅ〜!と間の抜けた音がお腹から聞こえた。


「あっ…」


顔に血液が集まっているのを感じて、頬に手を触れると…とても不快だった。


「…………」


おそらく涙が固まったのだろう。頬…というより顔全体が薄い膜に覆われたような感じだ…。


今すぐに顔を洗いたい欲求に襲われるが…設備が整った首都の高級宿でもない限り、各部屋に洗面所などついていない。


かといって…顔を洗うのに髪と顔を隠しつつ、外で洗う事も難しい。


我慢するしか…と思ってドアの方を見ると、水の張った桶にタオルが掛けられて置いてあった…。


「うっ…っ!」


それを見て、昨日宿屋の少年に抱きつきながら、泣いて…そして色々話した事を思い出した。


恥ずかしいような、申し訳ないような、嬉しいような…自分でも分からない程の感情が渦巻いていた。


とにかく話をしたい…とそう思った。


彼のあの強さは何なのか…彼はどんな人なのか…それを知りたいと…。


最初に会った時は単なる少年…次は気が利いて、美味しい料理の作る人、そしてその次は絶対の強者…そして優しくて大きな人だと思った。


まだ会った数日も経ってないのに、彼に様々な印象を抱いていた。


「考えても…仕方ない…とにかく話してみよう」


そう決意を固めると…少年が用意してくれたのだろう、桶で顔を洗った。



ランチが終わり、食器を洗って拭いていくが…


「はぁ〜」


口から出るのは、憂鬱で重いため息だ。


朝の一件以来、気がつくと…ブラッドがチラチラッとこちらの事を伺っているのだ。


その仕草は恋する乙女のようなのだが…目は獲物狙う肉食獣のソレだった。


…いや…目まで乙女のソレだとある意味今以上に嫌なんだけど…。


食器を拭き終わりしまうと、次はテーブルやイスなどを上げて掃き掃除、水拭き、乾拭きの順にしなければ…。


とりあえず…旅から帰って来てそうそう「んじゃ!ちょっとレイダーの所行ってくるわ!」と嬉しそうに…片手に日本酒ぽい一升瓶を持って意気揚々と…スキップしそうな勢いで、義父は出て行ったのだが後で絶対!絶対にっ!片付けを手伝わせよう。


「あ〜…」


掃除をしながら思い出すのは昨夜の事だ。深夜にフェアリス…じゃなくルナスの部屋に押し入った奴らは、南にある魔道国マギアソールを治める導師様の直弟子…12使徒の下に付いてる実行部隊の一つだとか…で、導師の愛娘フェアリスの身代わりに、ルナスは母親を人質に捕られ、止むなく勇者をやっていた。


他に代理を立てれば…と思ったが聞いた話によると、四勇者はそれぞれ各国の王位継承権を持つものと、全能神により決められたらしい。


そして身代わり出来るのは、半分導師の血を引く自分くらいしかいなかったと…。


…ふぅ。らしい。聞いた話によるとばかりだな…。


正直…面倒くさいと思うが、彼女を助けた以上は、考えていかないとダメだろう。


思えば…この世界に来て、覚えた事なんて…気と初歩的な魔術の知識と、後は宿屋の仕事くらいだ。


僕も、そろそろこの世界の事を知らないとダメなのかなぁ。


そんな事を考えながら、掃除を終える…。


「あっ…」


と黒尽くめ少女が階段を降りて来た。


「おはようございます」
と挨拶すると「…おは…よう…ございます…」と消え入りそうな声で返した後、さらに顔を隠してしまう…。


…………………。


沈黙が痛かった。僕は自分から喋るタイプではないし、ルナスもそうらしい。


沈黙を破るように、くぅ〜!と可愛らしいお腹の音が聞こえた。


「あっ…あの…これは…ちがっ」


ルナスは慌てて動揺している。


「あははははっ!…ごめんなさい。今すぐに食事を用意しますね」


顔は見えなくても、容易く羞恥で真っ赤に染まった顔を想像出来た。


思わず吹き出してしまったので、料理に取り掛かる。


「あ〜…米食べれます?」


振り向いて聞くと、コクっと頭が動いた。


早速フライパンを火で温めて、油を少しだけ引く。


今日は義父が東国アリオンから、米と味噌に醤油、味醂をお土産に持って帰って来たので、ウガドリの照り焼き丼にしてみた。


鳥を二枚、皮の方からフライパンに入れて、まずは皮をパリパリに焼いていく。


香ばしくていい匂いが漂って来たところで、ひっくり返してもう片面を焼いていく。


皮はパリパリに香ばしく焼けて、美味しそうだ。


事前に醤油、味醂、砂糖を合わせて作った照り焼きタレをフライパンに入れて、焦げないように気をつけて鶏にタレを絡め続けたら、ご飯の持った丼に野菜を敷いて、メインの照り焼き鶏を乗っけて最後に半熟卵を落として完成だ。


そういえば、顔隠さないとダメなんだよな…。
「あの…!昨日はありがとうございました」


と料理が完成して、どうするかと思っているとルナスが言った。


「いやいや…たまたま助けただけですよ」


「でも…」


というか昨日泣かれながら、ありがとうと何度も言われ、何故か同じくらい、ごめんなさいと言われ続けた。


ふむ…。


「良ければ、僕の部屋で一緒に食べませんか?」


勢い良く頭を振られたので、肯定と思っていいだろう。


部屋に連れ込む事にした。
部屋に着くと、ルナスが顔を隠していたフードを取った。


美しく整った顔が現れる。


「ちょっと待っててください」と声をかけ、義父の部屋からイスを一脚持ってくる。


後は作業机を移動させてれば…食事出来る場所の完成だ。


イスを引いて、促すとルナスは遠慮がちに座った。


いただきますと言って二人で、食べ始める。


「……………」


また無言が続く。


ルナスはご飯を頬張りながら、時折チラッとこちらの方を伺っては、目を合わすと背けるのだった。


…僕以上に社交性無さそうだもんなぁ。


人と普通に話す事、それ事態になれていないのだろう。


それだけこの世界で魔族は忌むべき存在らしい。それとの間に出来た半魔族は尚更迫害などの対象だろう。


元の世界…地球で様々な国や地域を巡ったから、人が己と違うという理由でどれだけの事するのかは多少は分かる。


考え事をしながら食べていると、いつの間にか食べ終わっていた。


ルナスも食べ終わったようだ。




意を決したようにルナスが口を開いた。


「あのっ…!…その…ヤマトさんは何でそんなに強いんですか?」


「あー…とりあえず、無理に敬語使わなくていいですよ?」


明らかに敬語や丁寧な言葉使いに慣れていない様子だ。


「それじゃ…ヤマトも丁寧な言葉使いは止める」


コクっと可愛らしく頷き、ルナスは俺も普通に喋るように要求して来た。


「了解。あー…何で強いか…か。と言われても…経験と訓練の賜物…?」


あの連中が手練れなのは分かるが…レイダーさんや義父に比べれば、赤子みたいなものだしな。


「…………っ!?バカにされてる…?あいつらは冒険者ギルドのランク付けだとB相当…人に限るとはいえ暗殺者としてなら、Aランクも殺す能力!」


ちょっと怒ったようにルナスは言う。


「それが…単なる訓練と経験だけで倒せる訳がない…!」


そんな事言われてもなぁ…。
というか冒険者ギルドとかあるのか…。
オタクのお兄さんの家で、読んだ小説にあったなぁ。


「ちなみに…四英雄と四勇者は何ランクになるんだ?」


「…上からEX、SSS、SS、S、AAA、AA、A、B、C、D、Eになってて、四英雄はSSSと言われてる。四勇者は…AAAになってる」


正直、あんまり分からんな…。


「…無理に聞いたなら謝る。ごめんなさい…」
ルナスは悲しそうに下を向く。


「…や、はぐらかした訳じゃなくて、本当に訓練と経験としか言えないんだよ」


あと考えられる理由は…血筋に集積している才能?知らんけど…。


ルナスがこちらを見ても、話さないので続ける。


「僕の家系は、古くから続く傭兵の家でね…。物心ついた時に覚えたのは、世界が弱肉強食で成り立ったる事だった。親父に無人島、樹海、山奥、熱帯林と何も知らないまま放り出され、生き残る為に色々覚えた」


「その後は親父に半年ほど、銃や格闘術、そして効率よく人を殺す方法を体叩き込まれた。そして…7歳くらいで戦場に連れて行かれたな…」


ルナスが、息を呑んだような気がする。


それから三年ほど戦場渡り歩き、ある日突然親父に学校に行けと言われ、こっちの世界に来る一年は普通暮らしたな。


訓練はさらに大変になったが…


「…それにしたって…いえ、辛いことを思い出させてごめんなさい」


…生い立ちとして不幸なのはルナスの方だと、思うんだけど…。
そもそも全く辛いと思った事がないしな…。


「いや…全然辛いとも思ってないから、問題ないよ。結構時間も経ったし、戻りますか」


そう言ってルナスと食堂で別れたが、ルナスは何やら落ち込んでいるようだった。



その夜…ルナスは眠れない夜を過ごしていた。


(寝れない…。何で…昼間私はあんな余計な事を…)




ルナスとしては、ヤマトと会話をしたかっただけなのだが…話題が思いつかず、苦し紛れにした質問が、何で強いのかだった。


「…嫌われた?」


思わず口から漏れた言葉に、ルナスは羞恥心を覚え、苦笑した。


今までそんな事考えもしなかったのに、今日の自分は少しおかしいと思った。


そして、寝れない理由も今なんとなく気づいた。
恥ずかしい事に…一人なのが不安で寂しくて、寝れないのだ。


昨日犯されそうになった事も、あるんだろうけど…。





コンコンッ!


控えめにドアがノックされた。


「…ん?」


眠りかけていたヤマトは、誰だろうと訝しく思いながらも…なんとなく予想はしていた。


扉の軋む音と共にドア開けると…枕を持ったルナスが立っていた。


「…えっと…その…」
ルナスは顔を赤くしながら、視線をさまよわせている。


「…はっ!?まさか僕に夜這いを!?」


「ち、違っ!う!…その…」


さらに赤くなるルナス。
「一緒に寝てもいいですか…?」


目を見ると、泣き出す直前の子供ような目だった。


……………正直さっさと寝たい。とにかく寝たい。


「ほれ…」


そう言って僕はルナスの手を引き、部屋に引き入れる。


「うぅ〜」


ルナスは何やら、自分で来ておいて唸っている。


「ほら…寝るよ」


そう言って僕はルナスをベッドに引き入れて、眠りに落ちた。


寝る寸前…。(これってかなり美味しい状態で、その上ルナスの美しい顔立ちが数センチの距離なんだけど…そんな事より眠いから寝よう…)と思ったが…







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