どうやら最強の少年は平穏に過ごせない。

神依政樹

(17)両手に花を

「で、この状況なわけだけど……僕はラブコメの主人公か?」


僕は思わず呟いた。


結論から言うと事件と言っても大した事はない。


事件の犯人は変態マリアで窃盗とわいせつ未遂を起こしただけだ。アリソンとルナスの服を隠し、変わりにとんでもない服を置いて行ってくれ、尚且つセクハラをしようとしただけだ。……うん?よくよく考えれば、男なら僕に泣かされながら殺されても、文句は言えないレベルだぞ?


……結構本気で殺意を込めて睨み付けたから、大丈夫だと思うけど……僕は仏じゃないんだから、また同じような事をやったら覚悟してもらおう。


と、話を戻そう。僕が今寝ているのは5人くらいで寝ても、十分な余裕が有りそうなキングサイズのベッドなのだけど……。


問題は僕の寝ているそのベッドの左右には僕に密着する2人の美少女……アリソンとルナスが寝ている事だ。


そもそもな話として、何で一緒の部屋で寝ているかと言うと、変態マリアが良からぬ事を起こす可能性があり、しかも部屋を分けた場合はかなり距離が離れるとクラウディオに言われたからだった。


確かに何があるか分からない以上は、一緒の部屋の方が何が行っても対応出来ると、最終的に納得したのは僕だし、最初に床で寝ようとしたのを2人に止められ、わざわざ広いベッドで一緒に寝るまではまだ良い。だが、2人がわざわざ広いベッドで密着して来るこの状況は一体誰の陰謀でございますか?ウィルド達に余程の事が無い限り、絶対に使うなと言われた【天之叢雲アマノムラクモ】を使っちゃうぞ☆


うん……。我ながらこの状況に結構混乱してるな。変態マリアの仕業で下着と変わらない、むしろ下着であるネグリジェを着ている2人は僕の腕を抱き枕のように寝ている所為で、下手に身動きが出来ない。さすがに身動き出来ない所為で、そろそろ背中がバキバキとして来たぞ?


と言うかこの状況は色々と不味い。僕が第三者として「エロい格好をした美少女2人に挟まれて寝ていた」と聞いたら、生暖かい目で優しく肩を叩いて、ラブコメ君と呼ぶけど、僕が当事者となると話が変わる。


右に視線を向けると、白のネグリジェを着たルナスが、僕の肩に頭を乗せながらスヤスヤと言う擬音がぴったりな安らかな表情で寝ている。その上で服の上からは分かり辛いが、素晴らしい発育を遂げているボリュームある2つの柔らかい膨らみが、僕の右腕を挟んでいる。


……ちなみに僕にはエロくなるだけで、何で付けるのか意味が分からないガーターを2人共つけているよ。うん。


次に左に視線を向けると、黒いネグリジェを着たアリソンが何とも幸せそうな表情で、ルナスと同じように僕の肩を枕に寝ているが、ルナスとは違い、
ボリューム感のある感触はしない、だが……ある意味でルナスよりも不味い状態だった。


なぜならば……左手はアリソンの太ももに挟まれ、指先には薄い布越しからも分かるスベスベとした肌触りと、右腕に感じる柔らかさとはまた違う柔らかさが指先を包んでいるのだ。


仮の話として……僅かにでも指先を動かすか、アリソンが変な寝返りなどをした場合。繊細な……色々意味で危険でデリケートな部分に指先が触れる可能性があるのだ。僕は背中にじっとりした嫌な汗が流れるのを感じた。


最後に、僕は若い。別に自慢でも何でもなく単純に肉体が若いのだ。


つまり……何を言いたいかと言うとだ。寝れるかどうかは別として、このまま寝て目を覚ました場合……血液が循環して、本来は性的な興奮を覚えなければ集まらないはずの箇所に血液が集まってしまう。


それを2人に見られたとしよう……うん。非常に不味い事態だ。


「……はあ~」


僕はそこまで考えて……意味もなく深いため息と一緒に声を出す。


左右から感じる男冥利に尽きるような幸せな感触や、暖かい体温、何とも言えない甘い匂い。


……全く、僕だって健全な青少年なんだけどな。理性が保たずに襲いかかったらどうするつもりだ?


襲いかかったら……ま、いいか。
僕は考えるのをそこで止めると、ドアのいる執事に視線を向けてから、寝れるかは分からないが、目を閉じて時が過ぎるのを待つことにした。






そして……いつの間に寝たんだ?と思いながら目を開けると……視界に広がったのは大地と空があるだけで何も存在しない、まっさらな空間だった。


…………………ん?


……一体どういうことだ?僕は普通に……ではないけど、ベッドで寝ていたよな?いきなり何だ、この超展開は……。明晰夢にしても意識がはっきりし過ぎてるぞ?


「多少時間が掛かりましたが、やっとあなたにお目通り出来ました。主様」


そんな事を考えながら僕が困惑していると、背後に気配が急に現れ、風鈴の音のように澄んだ涼やかな声が掛けられた。


振り向くとそこに居たのは、かしずいている空気の塊だった。
……何で空気の塊が目に見えるかは分からないけど、そこには確かに空気の塊としか表現出来ない存在が居た。


………えぇっ!?もうひと月位はこういう展開はお腹いっぱいで、いらないよ?


僕が嫌そうな顔すると、次は僕の腕に炎がまとわりつくよう現れた。


『きゃっ!きゃ!」


すぐさま振り解こうとしたのだけど……楽しそうな幼子の声と、炎が纏わりついているのに不思議と、暖かいと感じる程度だったのでそのままにする。
僕が何やねん?お前らと空気の塊に目線を向けると、ゆらゆらと揺れながら、どうやって声を出してるのか、口を開いた。


「も、申し訳ありません。なにぶんその子は産まれたばかりで、力は持っていても知識はまだ未発達。どうかお許しください、主様」


慌てたように言う空気の塊。


「……それは良いんだけどさ。ここはどこで、君らは何?」


僕がそう言うと空気の塊は嬉しそうに、頭らしき部分を上下に振る。なんか、シュールだ。


「はい!私は風を司る神霊です。そして、主様の右腕にくっ付いているのが炎を司る神霊です。この度は主様に名を付けていただきたく、失礼ですが深層心理内に主様をお呼び立てしました」


深層心理内ねぇ?というか、神霊とか言われても分からないが、もしかしてこの空気の塊ってあの時の?


「……もしかして、君ってハーストさんが何かやった時に突風起こして、僕の中に入って来た子?」


「はいっ!さすがは聡明でいらっしゃいます!主様」


これまた嬉しそうに、弾んだ声……いや、声帯から出てるものじゃないから、厳密には分からないけど、で空気の塊は頷く。


……となるとだ。楽しそうに僕の右手に形を変えて、まとわり付いている炎はあれかな?ウィルドにもらった不思議武器が具現化したのか?。ふむ……。


「ちなみに名前を付けるのに意味はあるの?」


「はいっ!名を付けていただく事で、私達は名に込められた意味により、存在を変化させ、主様の意志により力を振るうことが出来るようになります!主様は膨大な魔力を身に秘めているのにも関わらず、魔術を使えないご様子。私達に名を付けていただければ、魔術を使えない不自由や、主様の望みを出来る限り叶えて見せます!」


ふーん。要分からんけど、名前を付ければ魔術を使えない僕でも、魔術似たような力を行使出来ると言う事か。


そうか。なら答えは一つしかないな。……僕は出来うる限りの表情筋を駆使し、最高の笑顔を浮かべながら言った。


「うん。別にいらないから出てって貰える?」


「えっ……えぇえええぇぇぇっ!!?」






空気の塊の絶叫が辺りに響き渡る。……うるさいなぁ。僕に纏わりついている炎も、僕に同意なのか「うるさいよぅ?」とでも言うように小刻みに揺れている。
絶叫を上げた空気の塊は、よほど僕の返答が予想外だったのか、愕然としたよう震えている。


しかし……何がおまじないだ。ハーストさんも面倒臭いがプンプンする奴を押し付けてくれる。


空気の塊は落ち着いて来たのか、自らを奮い立たせるようにふるふると震えながら言った。


「な、何故ですか!?主様の戦闘力に我々の力が加われば、創世の女神に戦いを挑んだ魔王に匹敵……言え!魔王すら凌駕する力を得られるのですよ?そうすれば主様は最強の存在に……」


……創世の女神と魔王って、なんだそのファンタジー設定?いや、そもそも異世界だったな。ま、それを聞くよりも、目の前の存在に君はいらないんだよ~?とご高説を垂れのが先か。


「うん。確かにレイダーさん達には言われても半信半疑だったけど、外に出て分かった。僕は強い。君たちの力も得られば最強……とは行かなくても、個人の力が突出しているこの世界で、最強とか言われる内の1人に成れるかもね」


「で、でしたら……!」


空気の塊の嬉しそうな声を遮り、僕は続ける。


「でもさ?最強になってどうするの?仮に僕が最強クラスの1人になったとしよう。で?何か良いことあるの?この大陸に同規模の国が4つあるって事は、4カ国の間に三竦みのような絶妙なバランスが存在してるって事だ。そこに僕は強いんだぞ~!?って入ってどうするの?僕を自分達の勢力に取り込もうと画策する奴らが居るかも知れない、逆に一応保たれている秩序バランスを壊しかねないと思った強い人達が僕を殺そうとして来るかも知れない。どっちにしろ面倒な事になるだけだ」


弱いか、強いかのどちらが良いかと、聞かれれば僕は強い方が良いと答える。それは僕だけじゃなく、大多数の人がそうだろう。


それは弱肉強食という、ごく自然な生物としての理だ。


単純に暴力としての強さだけを言うわけじゃなく、知力や見た目や内面の魅力、努力出来るか、出来ないかの意志の強弱、運などいった生まれた環境なども含めての話。


強いだけなら問題は全くないし、生きていくうえで良いことだろう。ただし……それは常識というをはみ出さない範囲の話だ。


枠をはみ出した存在がどうなるかなんてのは、考えるまでもない。


まだ、この世界の常識は分からないけど、目の前の空気の塊などは確実に一般的な枠を超える存在だろう。


ま、別に僕はどこぞの救世主みたいに、非暴力主義じゃないから、僕や僕の周りの人に手を出されたら、自分の力を抑えて反対側の頬を差し出すなんて事はせずに、むしろ殴られる前に二度と殴ろうと思わないくらい、圧倒的な力で叩きのめすけどね。


空気の塊は僕の言葉がショックだったのか、ただ揺れている。


「ぐずっ……ひぐぅっ!」


いや、と言うか泣いていた。子供のように泣き出していた。


……いやいや、泣くなよ。年齢の概念があるのか怪しい存在だけど、さすがに僕より年上だろう?泣くなよ。


僕は空を見上げ、諦めのため息を吐くと、誰かが見たら苦虫を噛み潰したようなと表現するだろう表情で、空気の塊に言う。


「分かったよ。分かりましたよ。名前付ければいいんでしょ?」


「ひぐっ……?名を付けて、契約をしてくださるのですか!?」


「……付けるよ。で、その前に聞きたい事と必ず守って貰いたい事が一つあるんだけど……」


「はいっ!何でも答えます。何でも守ります!」


空気の塊はまるで人懐っこい犬のように、僕との距離を縮めて来た。


「はぁ……先ずは質問。代価はなに?契約と言うからには代価が必要でしょ?」


「え~とですね?」


空気の塊の精霊とはそもそも~などの長い説明を要約よると、存在を維持するために魔力エネルギーが普通の精霊の数十倍必要だが、それを世界から取ると問題があるらしいので、強い魔力を持つ存在に力を貸す代わりに、魔力を貰う契約を結んで存在を保つそうだ。予測の範囲内である。


「なるほどね、で守って貰いたい事だけど……」


「はいっ!」


……目があったらキラキラ輝いてそうだな。


「本当に君らみたいな存在は邪……今の僕には必要ないから、大人しく、存在を誰かに気づかれないようにしててくれる?」


「今!今、邪魔って言いませんでした!?」


「……はははっ?契約しなくていいの?」


「ま、守ります!お願いですから契約してください!」


「……まず、空気の塊はエンリル。腕に纏わりついている君は天之火神姫あまのかじひめでどう?」


僕がため息混じりにそう言った瞬間……眩い光が視界を覆う。眩しさに数秒ほど閉じていた目を開けると、目の前には2人の人型がいた。


1人は小学生になったか、ならないかくらいの幼女だ。艶やかな黒髪に所々、本当にえる炎髪とでも言うべき髪に巫女服。整った顔立ちに、子供らしい無邪気な雰囲気と神聖な空気の両方を纏っている。


もう片方は僕よりも背が高いモデル体型に、透き通るような緑髪を持つ涼しげな空気と神秘的雰囲気を纏った美女だ。


前者が天之火神姫あまのかじひめ、後者が空気の塊改めエンリルだろう。


……エンリルは見た目が神秘的な美女なのに、もう残念な人としか感じないのだから、第一印象とは大事なものだ。


2人?は僕に跪くと、エンリルが厳かな雰囲気を出しながら口を開いた。


「この度は主様に名を付けていただきありがたき幸せ。我ら二柱は主様が生きる限り、付けていただいた名に誓い、絶対の忠誠を捧げます」


「うん。分かったから、とりあえずそろそろ此処から出してくれない?」


僕は一切空気を読まずに、素の状態で告げた。


「ええっ!?ち、ちょっと待ってください!ここ大事!ここ大事な場面ですよ!?私達の忠誠と、主様の……」


冷静沈着そうな見た目に違い、エンリルが慌てたように言うけど、僕の知った事ではない。


「うん。いい加減出さないと僕、怒っちゃうよ?」


「ひぃっ……!?だ、出します。出すと言うかちゃんと目覚めさせます。だから、許してください」


笑顔で言っただけなのだけど、エンリルはプルプルと生まれたての子馬のように震え、涙目で必死に首を縦に振っている。


残念の一言だ……。


呆れの視線をエンリルに向け、横の天之火神姫あまのかじひめ……長いから天姫に目を向けると、天姫はニコッと笑って言った。


「お兄ちゃん、また……遊んでね?」


「うん……?うん。また、会ったらね」


そう返すと天姫は嬉しそうな笑みを浮かべた。


意識の覚醒が近いのか、重くなった目蓋を閉じる。


「うぅ……っ!私と!私と扱いが違い過ぎる!」


残念美女の声を聞きながら、僕の意識は霧散した。





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