どうやら最強の少年は平穏に過ごせない。

神依政樹

(15)城塞都市エネル

状況的にどう考えても動かざるえなかったので、オーガ達を退け、暴走状態のブラッドを止めた後は、ある程度苦戦するふりをするなどの工作したものの……僕の事を新たな英雄だ!などと、英雄視する乗合馬車の人達をブラッド達の活躍を強調する事で誤魔化したり、それが終わった後は僕が苦戦するふりをしていたのに感づいていたアゼルやサーシャに、お前何者なんだよ?と言った視線や、話をされそうになると話題を変えたりして誤魔化し、ゴブリンの死体を放置すると、魔物が魔石をゴブリンの死体から摂取して強い魔物が生まれる可能性があるらしく、その場にいた全員で魔石の回収などしたりと様々な後始末を終えた。


余談だが……回収した魔石は好きにしていいと、僕とアザル達が言うと、我先にと先程まで魔物に怯えていた人達が魔石を回収するのだから、魔物と言う危険な存在が隣り合わせにいる分、この世界の住人はだいぶ逞しいな……と僕は思った。






その後、僕達は幸い無事だった蜥蜴車に乗り森を抜けると……丁度日が沈み始め、夕焼けに染まった巨大な城塞都市エネルと、それを囲むように作られた田畑が見えた。


「綺麗……」


「はい……」


僕と同じように窓から身を乗り出して、絶妙な光陰が生み出す幻想的な景色を見ていたアリソンとルナスは感動したようで、じっと目に焼き付けるように見ている。
感動している2人を見て、エネルの住人であるサリアとディルの2人はどこか誇らしげだ。


外から見る限り城塞都市エネルは、中心に装飾などされていない無骨な城とそれを囲む城壁、住人が増えるのに合わせて増築されて行ったのか、その更に外側には巨大な都市を囲む二層の巨大な外壁が夕日に染まっていた。一番外側の外壁に一定間隔で塔が併設されているのは、防衛や物見の為だろう。


サリアがしてくれた説明によると、カルドニア公国一帯は季節の移ろいはあるものの、一年のほとんどが温暖な季節であるため四大国の中で、一番農業が盛んらしい。


そのため交易の拠点と言う役割を持つ城塞都市エネルも例外ではなく、城塞都市を囲むように田畑を作り上げ、魚や肉、香辛料などを除いた全てを基本的に自給自足で賄っているそうだ。


農業の最中に魔物に襲われないのか?農民達はどこで暮らしているんだ?と僕は考えたが、それについてもしっかりしているらしく、自警団か、雇われ冒険者が農作業中の農民を護衛し、農民は外壁の中で暮らしているらしい。


そんな風にサリアの説明を聞いていると、いつの間にか城門の前にたどり着いた。城門の前には鎧に長剣や槍で武装した者と、数は少ないが着物のような軽装で腰に刀を下げた黒髪黒目の者達に護られながら、仕事を終わりだろう農民達が談笑しながら城門に入って行く。農民達の中に笑顔の獣人や、蜥蜴人リザードマンも混ざっているのを見る限り、どうやらエドさんの言った通りこの都市では種族差別はさほど無いみたいだ。


時間も夕暮れと言うこともあり、出入りする人達はそのくらいで、馬車で入るのは僕達くらいである。
時折、気の良い農民達が手を振って来るのを返していると、最後尾に並んでいた僕達の番になった。


先頭の蜥蜴車に乗っていた護衛の半分が、不安そうな乗客達を安心させようとサリアの指示で乗合馬車に着いて言った為、通常の半分程に減った護衛達と商人が一旦降りて、検問をしていた自警団の人間に何事か話している。
驚いてような顔から、真剣な表情に変わるのを見る限り、おそらく森でゴブリンの大群に襲われた事などを話しているんだろう。僕の事は言わないか、言ってもブラッド達を手伝った位と伝えてくれと、友好的な笑顔でちょっとだけ力を込めた握手をしながら、彼らにはお願いしてあるので問題ないだろう。


と言っても人の口に戸は立てられないので、多少は僕の噂が広まるとは思う。ま、連れの2人が目立つので、治安が良さそうとは言え馬鹿な事を考える輩に対する抑止力、それと冒険者に成る上で一種の箔として噂が機能すれば万々歳だ。


問題は身分証を見せろと言われた場合か……。一応、エドさんに貰ったこの蜥蜴車に取り付けられた旗と同じ文様が刻まれた指輪ならあるけど……今出したら面倒な事になりそうだ。どうする?


と考えたのだが、サリアが「こちらの方々の身元は私が責任を持ちます。何か問題がありますか?」と笑顔で言ったうえで、護衛達のリーダーも援護射撃をしてくれ、それなりに名の知られているらしいサーシャとアザルの2人も身元を保証すると言ってくれたので、何の問題もなくあっさりと検問をくぐり抜ける事が出来た。


非常に楽である。……ま、あとからアザル達には根掘り葉掘りと色々聞かれそうな気がするのだけど。ちなみにブラッドは暴走状態で、大分体力が奪われたのか、アザルに膝枕されて寝ている。


中々の美形を持つ男が犯罪者顔の厳ついおっさんの膝の上で寝かされている……とてもシュールだ。


それと言うのもサーシャは、男に触られるとトラウマで蕁麻疹じんましんが出るらしいので除外、そりゃ抱きかかえた時に暴れるのは仕方ない事だろう。


次にアリソンとルナスは「……ん~。ヤマトが良いなら良いよ?」「……私も…ヤマトさんが良いのなら……」と言われたのだけど、此処は良いと言ってはいけないと本能が囁いたので、良いとは言わずに「ちょっとそれは嫌かな……」と僕が言うと、何故か2人は嬉しそうに笑った。


……何でだろうねぇ?


次にサリア本人は「私は構いませんよ……?」と言ったのだが、ディルに先頭の馬車に乗っていた商人や、護衛達が全力で猛反対した。言動からどうやらサリアはディルにとっては初恋の相手で、年上のおっさん達にとってはアイドル的存在らしい。


……それなりの名声を持ち、美形にも関わらずおっさんに膝枕される……ブラッドが強く生きてくれる事を祈る。






城門をくぐり抜けると、次の外壁との間には何軒かの建物が建てられていた。ここ小一時間程で、すっかり説明キャラが定着したサリアさんの話によると、外壁と外壁の間は自警団の駐屯地となっており、建物は自警団の各施設だそうだ。


自警団は交代で魔物に荒らされないように田畑を見回ったり、非常時の防衛や、都市の中で何か事件が起こった時に出入り口である門を封鎖したりするそうなので、外壁と外壁の間の空間が一番便利らしい。


それと都市内部の治安に着いては、4つある門を拠点に持ち回りで見回りが行われているそうだ。


説明を聞き終えた僕は、ここで話を聞いていてふと疑問に思った「何でではなくて自警団なの?」とサリアに聞いてみると、何でもこの都市は元々敵対関係にあったカルドニア公国と東国アリオンとの友好の証と言う役割があり、カルドニア公国にあって自治が認められている自由都市となっているらしい。
都市の運営に関しては、アリオンから2人、カルドニアからはこの辺一帯を統治している侯爵を入れて3人、都市の有力者3人の全部で8人の議会で決まるそうだ。


……ふむ。説明してくれたサリアが侯爵と言った時、ディルとサリアの2人が嫌そうな顔を浮かべたのはなんでかね?


僕には関係ないが、どうやら侯爵様は色々きな臭そうだ


そして、馬車に乗ったまま門を抜けて2枚目の外壁をくぐり抜けると……視界には整備され大きく広がる大通りが中央部にある城まで続き、左右には様々な店が立ち並んで、人々の活気で満ち溢れている。


門を抜けたすぐ横には、簡易浴場のような物が設置されており、農民達が並び服事入って行く。サリアの話によると4つある門の内、北門を除いた全ての門に、水と風で土埃と汗を流す簡易浴場が設置されているそうだ。ちなみに都市が衛生面を考えて設置しているらしく、利用料は無料で誰でも利用出来るそうで、市場や公共施設、行政施設が集中している中央部にはきちんとした公衆浴場が設置されているとか。


仕事帰りの農民を狙ってか、何軒かの酒場兼宿屋の前では出店が設置され、おそらく事前に香辛料などのタレに漬けていた串焼き肉を焼く香ばしくも、なんとも食欲を誘う匂いが漂い「中でエールと一緒にどうですか!?」と看板娘らしい若い娘がすかさず呼び込みを掛けている。


匂いに誘発されたのか、ゴクッと喉を鳴らす音とくぅ~と可愛らしい腹の虫の声が、蜥蜴車の中でやけに響いた。


……色々あったせいで、昼食を食べれなかったのと、時間的にも夕暮れで腹が減る時間だ。皆が顔を見合わせて、どことなく苦笑する。


「お腹減ったね……」
「はい……」「うぅ~ッ!空腹にこの肉を焼く匂いとか、反則……いや!もう犯罪行為なのですよ」
「はははっ!確かにこんな匂いを嗅ぐと、焼きたての肉と一緒に冷えたエールを飲みたいですなぁ」
「うっ……恥ずかしながら私もお腹が……」
「俺もだよ。サリア……」


やはり僕を含めて皆が、皆腹を空かせているらしい。とりあえず人数分だけでも、串焼きを買って食べないか?と提案しようした所で……「サリア~~~ッ!!!」と叫びながら普通の馬とは違い、身体の部分部分に青銅の鎧みたいな物を身体に生やした白馬に乗り、大通りを爆走して誰かがやって来た。


自分を呼ぶ叫び声を聞いたサリアは「お父様…!?」と驚いたように言った。


お父様……?


僕が疑問に思った時には、ゆっくりとした速度で進んでいた蜥蜴車が止まり、御者の人が蜥蜴車から降りて、胸に手を当てて頭を下げた。それに続くように先頭を走っていた蜥蜴車も止まり、御者の人と同じように商人や護衛の人達も胸に手を当てて頭を下げた。


サリアが蜥蜴車から降りるのに合わせ、とりあえず未だに寝ているブラッドと、枕代わりのアザルを残して僕達も馬車から降りた。


サリアが「お父様……っ!!」と叫びながら駆け寄ると、青銅白馬に乗った中年の男も、馬を止めると共に飛び降りてサリアに駆け寄り、2人は抱き合った。


「おぉ……っ!サリア!無事なようで良かったっ!」


サリアの父親はサリアを愛しげに抱きしめ、心底安心したように言うと。


「……もうぉ!お父様たら心配し過ぎですよ」


サリアは苦笑しながらも、嬉しそうに答えた。


服装や顔立ち、周りの態度から見て、このバカ親……もとい親バカはどうやらかなりのお偉いさんらしい。


と言うかこんな人通りが多い馬車で抱き合っているので、周りからかなり注目されている。


アリソンは微笑ましそうに、ルナスはどこか羨むように抱き合う親子見る中、サーシャが僕の横に近づいて来て「あれは……かなりの親バカですねぇ」と小声で呟いた。


一応慇懃な態度で接する癖に、このうさみみは本当に毒舌である。ま、見下して居る訳じゃなく、素でコレらしいので好感が持てるけど。


「そろそろかと思ったけど……予想が当たったようで良かった。彼らを連れて来てくれて助かったよ。サーシャ」


そう言って大通りの真ん中で抱き合う親子に、生暖かい視線や迷惑そうな視線を向けながら、僕らを避ける人々の間から現れたのは金髪碧眼の人物だった。


現れた金髪の人物は可愛いと幼いと言う印象を残しながらも、凛々しい雰囲気を纏っていて、その整った顔の造形から人次第で美少女とも、美少年とも受け取るだろう。
短髪とまで行かない微妙な長さの金髪は、天然パーマなのかフワモコとしている。身長は160センチに届かない程で、所々に青の意匠が施した白銀の鎧に身を包み、腰には2本の小ぶりな剣を下げている。


見た目どこぞの王子様と言った外見だ……ふむ。爽やかな笑顔と良い、非常に女性やその手の趣味を持つ奴らに持てそうである。


「……ニール様!!えへへっ!サーシャ頑張ったのですよぅ?」


名前を呼ばれたサーシャは、うさみみを嬉しそうにぴょこびょこと動かすと、一体どこから出しているのか、普段とは違うどこか甘ったるい声を出し、自分称をサーシャと変えて金髪の人物……ニースに近づいて行った。


うわぁ……と僕は思わず一歩下がってしまう。分かり易すぎる変わり身だ。


「ふふふ……相変わらずサーシャは分かり易くて、可愛いわね。あら?可愛らしい子が沢山……ふふふ……」


更にそう言って何故か、アリソンとルナス見て舌なめずりしながら、ニースの後ろから現れたのは妖艶な美女だった。


ウェーブの掛かった薄紫の髪に、タレ目と色っぽい唇の右下のホクロが特徴的な整った顔立ち、紫色の大きめのローブを着ているにも関わらず分かってしまう豊満な体つきは、男の視線を集め、母性的な雰囲気と、蠱惑的な雰囲気は聖女にも、高級娼婦にも見える。


現れた美女の粘つくような視線に、アリソンとルナスは怯えたのか、僕の後ろに隠れたので、僕は庇うように一歩前に出た。


アリソン達の反応に美女は「あらあら~?」と言いながら、困ったように頬に手を当てる。


……うん。この女はヤバそうなので、必ず2人だけでは接触させないように気を付けよう。


僕がそんな事を決意すると、さすがに騒がしく目を覚ましたのか……アザルに体を支えられたブラッドが、蜥蜴車から降りて来た。


「やれやれ……騒がしいと思ったら、こんな大人数が通りの真ん中で何をしている?迷惑だろうに」


うん。常識的に考えて僕も思っていた事だけど……今更だ。興味のない人はさっさと通り過ぎて行くし、女性の方々はニースに熱ぽい視線を向け、男共は危険な美女の方に情欲のこもった視線を向けている。


ちなみにアリソンとルナスに向けられる視線には、僕がちょっとだけ睨み返しているのは言うまでもないだろう。


「ブラッドッ!?一体どうしたんだい」


アザルに支えられたブラッドの様子に、ニースが心配そうに駆け寄るがブラッドはつまらなそうに鼻を鳴らす。


「ふん……気にするな、ニース。バカの自業自得だ。それよりも……」


気にするなと言ってブラッドはアザルの肩から少しふらつきながら手を離すと、僕に向き直り頭を下げた。


「ヤマト。すまない……。我の所為で手間を掛けさせた」


「……ん~。別に気にしなくても良いですよ?ただ僕が勝手にやっただけですし……」


ま、と言っても面倒事があったら、勝手に名前を使わせてもらうけどね?などと内心で思いながら僕がそう答えると、ブラッドは面食らったように目を見開き、愉快そうに笑った。


「……フハハッ!ヤマト!貴様は面白い奴よ。だが、それでは我の気がすまぬのだ。勝手で悪いが借りにさせて貰おう。それとだ……ヤマト。お前にそのような口調で話されるのはむず痒い。タメ口で構わん」


あれ?なんか気に入られた?


「……分かったよ。ブラッド。君の気が済むのなら貸しだ。でも……僕の貸しは高いよ?」


口の端を吊り上げて悪人笑いでそう言うと、ブラッドも不敵な笑みを浮かべる。


「構わん!臨む所と言うものよ」


「お話中に失礼します。私の名前はアルド・エドワードと言う者です。この度は娘や家の者達を助けていただき誠にありがとうございます」
そう言って軽く頭を下げたのはサリアの父親だった。


「ふん……。気にするな。蜥蜴車に乗せて貰った恩もある。エドワード商会の支部長殿に頭を下げられるのはむず痒い……それに、だ」


ブラッドはそこで言葉を区切ると、僕を一瞥してから肩を竦めた。


「我は大した事はしていない。隣に立つヤマトにだいぶ助けられたからな」


「ほぅ?それはお礼しなければなりませんな。ヤマト君?で良いかな?この度はありがとう」


若干口調を砕けさせながら、アルドは僕に頭を下げて来たので「僕はブラッド達を少しお手伝いしただけですよ~」と言っておく。


そこにサリアが近づいて来て、


「ねぇ?お父様。よろしければですが、我が家にブラッドさん達をお招きしてはどうでしょうか?」


と言った。サリアの提案にアルドは苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。


「……そうしたいのは山々だが、生憎とお二人の連れは目立つ容姿をしている。サリア、なぜ私が命よりも大事な娘を外に出したか……。あの豚……ゴホンッ!あの方に目を付けられては礼をするどころか、迷惑を掛けてしまうだろう?」


「……それはっ!……そうですね。確かにご迷惑をお掛けするかも知れません」


苦しげにサリアはアルドから目を逸らして頷いた。その様子を見ていたディルがなんか、悔しそうに拳を握り締め、歯を食いしばった。


「なにこの空気ー?僕分かんない~」と言ってみようかと一瞬思ったけど自重する。僕にはどうでもいい事だけど、たぶん侯爵様辺りが関係してるんだろう。


「さて、そろそろ辺りも暗くなって来ましたし、今更ですが通りの真ん中で話し込むのも迷惑が掛かる。よろしければですが、礼やお話などをしたいので、差し支えなければ明日にでも皆さんで私の家までいらしてください。場所はそこに居られるニース様のお屋敷の隣にありますので」


微妙な空気を払うように、アルドが微笑んでそう締めると僕に向けてさり気なく右手を振って来た。右手にはエドさんから貰った指輪と素材以外が全て同じ造りの指輪が填められていた。


ふーん……?


「それじゃ遠慮なく、明日に伺わせてもらいますね?」


僕が笑い返しながら、ポケットに閉まっていた指輪をさり気なく見せるように言うと、アルドは笑みを深めて「ええ……是非いらしてください」と言いながら去って行く。


なるほどね、色々とありそうだ。


去り際にサリアやディル、護衛の人達が僕達に対してを礼して去って行くと、そこにゆるふわ系美少年が寄って来た。


生憎と僕には衆道とかの趣味はないぞ?などと、ふざけた事を考えているとゆるふわ美少年は全く邪気の無い笑みを浮かべてから、僕に頭を下げた。


「えっと……ヤマトさん……で良いのですよね?ボクの名前はニース・ファン・カルドニアです。
この度はボクの友人を手助けしてくれたみたいでありがとうございました」


カルドニア……か。たぶん、いや、確実に高貴な血筋っぽいな。


とりあえず無難に「いやいや、大した事はしてないので気にしないでください」と、本日何度目か分からないような台詞返すと、目をきらきらと輝かせて「……ヤマトさんってお心の広い方なんですね!」と言った。


恐ろしいのは世辞には一切聞こず、心の底から言ってるように思えることだ。これが演技なら超一流の役者だし……演技じゃないならチョロ過ぎる天然と言うことだ。後者だった場合、誰かに美味しく食べられるぞ?


「あの……良ければ何ですけど、特に宿が決まっていないのなら、時間も時間ですからボクの所に泊まりませんか?歓迎させてもらいますよ」


「ふむ!ちょうど我も言おうとしていたところだ。どうだ、ヤマト?我達と一緒にニースの屋敷で世話にならんか?」


ニースの提案にブラッドも嬉しそうに追従して来る。


「いや、でも……」


アリソンとルナスに目を向けると、2人は頷いた。どうやら僕の判断に任せるようだ。さて……どうするか?


「……一つ言っておくが、この都市は治安が良いとは言え、カルドニア公国でもアリオンとの交易拠点として首都と同程度に発展している一大都市だ。広い以上はどうしても良からぬ輩も少なからずに居る。お前の連れは見目麗しいから、そこいらの安宿では何かしら良からぬ事に巻き込まれる可能性があるぞ?ま、ヤマトの力量なら問題ないだろうが、無用なトラブルに遭遇したくはあるまい」


「……それは確かに」


僕が頷くとブラッドは更に続ける。


「それに…だ。仮に防犯がしっかりしている高級宿に泊まるにしても、金だけではなく泊まらせても問題ないと思わせる社会地位か、もしくは紹介が必要だ。ならば断る方がおかしいと思うのだが?」


……ここまで言われて断るのはさすがにないな。


「……じゃ、お世話になります」


僕がそう言うとブラッドは愉快そうに、ニースは嬉しそうに笑った。


「フハハッ!うむ!歓迎してやる」
「あはっ!嬉しいです。ヤマトさん、歓迎させてもらいます」


「……ふーん?泊まるんですか?仕方ないから歓迎してやるのです。と言うかっ!脳筋は何を自分の屋敷に招くみたいに振る舞ってやがります」


サーシャが無い胸を張って威張ると、ブラッドの物言いが気に入らなかったのか、脳筋と言いながら指さす。するとすかさずブラッドが馬鹿にしたように鼻を鳴らすと2人は口論を始める。


ニースはオロオロと2人を止めようして、アザルは愉快そうに「はははっ!これからは更に賑やかになりそうですなぁ」と、にこにこと笑う。


僕がその様子を見ながら苦笑すると、ちょうど目がアリソンと合った。


「あはは……面白い人達に会ったね」


僕と同じように苦笑するアリソンに肩を竦めて「本当に……」と言うと、アリソンは何が嬉しいのか笑った。


そのアリソンの隣でルナスが少し戸惑っているのに気づいた僕は頭を撫で、アリソンは大丈夫だと言うように手を握る。


ルナスは驚いたように目を見開き、安心したのか笑みを浮かべて頷いた。


……横の方から「あらあら……これは嬉しい展開だわ……あのコレクションを使うチャンスね。ふふふ……」と妖艶なのに、どこか背筋が震えるような気味の悪い声を聞いて……僕は少し早まったか?と考えて、やはりあの女はヤバいと再度認識して、2人を守らねばと決意するのだった。

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