どうやら最強の少年は平穏に過ごせない。

神依政樹

(10)プロローグ1異世界の少年

人には認識出来ない光も闇もない場所。


「つまらないなぁ……」


その場所で少年とも、少女とも判断がつかない幼さを残した中性的な声が鳴り響く。


「ああ……。退屈。ただ人の世を見るのも飽きたなぁ。どうやら引きこもって英雄達が動き出したみたいだけど、それでもなぁ……気に入った存在に加護を与えるくらいしか干渉出来ないとか、つまらない掟だよねぇ」


どこまでも退屈そうに、神と言われる存在で一番若い一柱は呟く。


そうして僅かに人の世を見るのを止めて……また見始める。結局やるべきことも、やれることもないのだ。


いくら飽きようとただ見ることしか出来ない。


「退屈だなぁ」と最近の口癖を呟いた時……偶然にも若い神は見つけた。


「ん…?異邦人か。珍しい」


異界から流れて来た哀れな漂流者に眼を向けて、ふっと若い神は考えた。


ある理由により人の世に過度の干渉、直接的な干渉は禁止されている。


だが……異界から流れ着いた異邦人はどうだ?


元々この世界の人間ではないのだ。過度と言われるほどの干渉をしても許されるのでは?


そして、過度の力を与えた存在が何かをしてしまうことは仕方ない事なのではないか?


それは子供が考えた屁理屈に過ぎないだろう。だが、それでも理屈としては通るのだ。若い神は嬉しそうに笑う。


「ふふん。ま、ちょっとした退屈しのぎにはなるよね?」


そうして……異邦人である少年に取って幸か、不幸か、若い神は少年を玩具たいくつしのぎにする事に決めた。








城塞都市エネルから少し離れた森の中で、空間を塗り潰すような黒い闇から少年が吐き出された。


「っ…!痛っ……!なんだ?ここ」


黒目黒髪、それなりには整った顔立ちで中肉中背。高校二年生になったばかりである16歳の少年、空高勇哉そらたかゆうやはズキズキと痛む頭を抑えながら、立ち上がった。


「どこだよ?ここは……夢、なんて事は絶対にないよな」


回りを見渡して決して夢ではないだろうと勇哉は確信する。
木々の間から降り注ぐ暖かい日の光、土と森の決して街中では味わえない濃い空気と匂い。


勇哉は自分がこんなに明確な夢を見るような想像力を持っていないと理解している。


ではこの状況は何だ?と前後の記憶を思い出しながら勇哉は考える。


そうだ……そうなのだ。自分はいつも通りの時間。いつも通りの通学路を歩いていて……そして。呑まれたのだ。


見えない黒くて暗いナニカに。


そこまで思い出した勇哉の中には恐怖、不安が渦巻き、混乱から口から呻き声を上げる。


「あ…ああ……っ!」


一種の恐慌状態に陥りかけた勇哉は、声を漏らして、魔物が生息する森では自殺行為である絶叫を叫びそうになった時。


『やぁやぁ。こんにちは?勇哉くん』


無邪気な声が勇哉の頭に響いた。


「ああっ!……えっ?」


突然響いた声にポカーンと口を半開きにして、間抜けな顔と間抜けな疑問の声を勇哉は上げる。


『あはは?ビックリした?ビックリした?とりあえず君の頭を覗かせて貰ったよ。で、結論から言うとかなりの高確率で、そのままだと君は死ぬ。と言うかさ?戦闘能力を持たない君が魔物達の住処になってる森で、混乱したからって叫ぼうとするとか自殺行為だよ?』


魔物の住処と謎の声に言われ、勇哉は顔を引きつらせると辺りに忙しなく視線を走らせた。


『ああ。今は結界を張ったから問題ないよ?と言うか、いい加減に落ち着いてくれないかな?僕の声には精神安定作用があるはずだけど……』


勇哉は確かめようと自分の内面に意識を向ける。すると、不思議な事に先ほどまで自分の中の渦巻いていた感情が霧散していた。


「あ、あの!ここはどこなんですか?」


勇哉は冷静な思考を取り戻すと、謎の声に質問した。


あなたは何者ですか?なんてテンプレな質問も勇哉は考えたが、例えば悪魔や邪神だろうと現状頼りになるのは声の主だけなので無意味と判断した。


『うんうん。半ば予想してると思うけど、君にとっては異世界だよ?剣と魔術のファンタジーって言えば分かりやすいかな?そこに君は迷い込んだんだ。正確には次元の歪みに呑まれたと言うのが正しいのだけどね…。それで君、チート…だっけ?欲しくない』


「欲しいです!」


勇哉は即答した。
その目は先程の混乱と恐怖で血走った目ではなく、どこかキラキラ輝く子供のような目であった。


『即答だね……?ま、いいけど…』


若い神は苦笑した。冷静で多少は頭が回る人間なら、力を与えると言われたら対価や、理由を聞くのが普通だろう……と。
まぁ、そもそもこのままでは魔物の餌にしか成りえない勇哉に選択肢などないのだけれど。 


『君の頭にある本みたいにどんな力を与えるか、考えるのや話すのがめんどくさいから、自分で決めてよ。とりあえず君の世界のゲーム?みたいにスキルポイントをあげる。それとレベルみたいな強さの基準と、ステータスを見れるようにするから、後は勝手に自由に行動して良いよ。僕はその姿を暇つぶしに鑑賞させてもらう』


「ありがとうございます!!!テンプレ異世界キタッー!!!チート最高!ハーレムだ!エロフ!ケモミミ!奴隷!ヒャッホー!」


(うわっ……)


ニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべて、浮かれてハシャぐ勇哉に若い神は引いていた。
一言で言えば気持ち悪ぃ!と思った。


勇哉は高いテンション維持し、興奮した様子で、習得出来るスキル一覧を見ている。


若い神は他人も含めステータスは大ざっぱな基準にしかならないし、自分で努力をしなければ、どれだけレベルを上げても人の【壁】を破ったような英雄クラスには勝てないとか、言語はある神が異世界から人が来ると通じるようにしてるから大丈夫とか言おうとしたが……ま、今のままの方が面白そうだしいいか。と神は結論つける。


『ま、頑張ってね?』


そう言い残して、若い神は自分の居るべき場所に戻るのだった。





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