どうやら最強の少年は平穏に過ごせない。
プロローグ
この世界は不条理に、不平等に、不公平に、どうしようもなく理不尽に出来ている。産まれた国が、生まれた地域が、生まれた環境が人の人生の九割を決め、生まれ持った才能が残りの一割を決める。
結局与えられた才能や美貌はそれを発揮し、伸ばせる環境でないと意味などないのだ。
努力すれば変わる?
ーーーそもそも努力すら出来ない環境ならばどうする?畜生以下の扱いを受ける場所、本にすら手を触れられない環境、その日の糧を得るために一日の大半を費やさないといけない家庭、運悪くそのような場所に生まれた者に努力すれば……などと言うのであれば、それは傲慢を通り越して悪意以外の何物でもないだろう。
だから……僕は一人の女の子に強く、憧れた。
乾燥した空気に、肌を焼くような強い陽射しと風で舞い上がる砂塵。石油利権を狙った大国の介入や、宗教闘争が絶えない中東の小国。
父親に連れられやって来たその国は二、三日に一度は爆発音や銃声が聞こえるいつものように物騒な国だった。
そんな異国の人間に良い感情を持たない筈の国で、見るからに異国の人間である僕になぜか懐いて来た……明るくて優しくて、強かった一人の少女。
頑張って勉強していつか家族を楽にするのだと、そして、この国を平和な国に変えてみせると言っていた強い眼差しをしていた少女は……呆気なく死んだ。
そして……僕は……
†††
「っ……ぐぅ…ッ!!?」
意識を取り戻した時、僕は口いっぱいに広がる鉄の味に顔を歪め、次に全身から感じる激痛に顔を歪めた。
そして、理解した。死を避けられない程の損傷を自分の肉体は負っていると。
先ず目が片方しか見えない。目に血が入った所為なのか、それとも潰れたのか。
次に手足の感覚も全く分からない程に麻痺していた。骨もほぼ全て折れるなり、粉々だろう。内臓も辛うじで心臓と肺が動くだけで、直に動かなくなるだろうし、神経もズタズタだ。
僕の身体は普通に比べてかなり頑丈に出来ているので、こんな重傷を負う理由なんて、高い空の上から叩き落とされるくらいしか思い当たらない。
記憶が飛んでいない限り、空から落っこちるような理由に心あたりはないのだけれど……。
それに今いるこの場所にも心あたりはなかっい。
何とか見える片目に映るのは深い森だ。おそらく朝方か昼間なのだろうけど、木々が隙間無く立っているから、日の光が遮られて少し薄暗い。
日本で言う神隠しか、ヨーロッパで言う妖精にでも攫われたか?と少し夢見がちな事を考えるものの……一番現実的なのは何かがあったけど、強い衝撃を受けた所為で前後の記憶が飛んだのだろう。
しかし、僕も中々しぶといな。まだ死なない。
……ま、痛みを全く感じなくなったし、心臓の動きが遅くなってるから、もうすぐ死ぬだろう。
僕がぼんやりとそんな事を考えて、死ぬまでの暇つぶしをしていると、何の変化もない筈の目の前の景色に変化があった。
少し離れた場所からこちらを伺うように見る、神話から飛び出して来たような一匹の狼がいつの間にか居た。人を丸呑みに出来そうな大きな躰に、全てを見透かすような理知的な黄金の眼、きらきら輝やいているように見える白銀の体毛に、額には何色もの色を合わせた、虹色に見える水晶で出来たような角を持つ狼。
僕は見たことも聞いた事もない不思議な狼を見て、もうすぐ死ぬと言うことを忘れるほどに、綺麗だと、美しいというある種の感動を感じた。
ああ……悪くない死に方だと思った。
最後にこれだけ綺麗なものを見れたのだ。悪くないと、僕なんかの死に方にしては、かなり上等な死に方だと思った。
そして……薄れて行く意識の中で思う。独善的で自己満足でしか過ぎないけれど、地獄や天国があるかも分からないけれど、我が儘を言うならあの女の子に謝りたいと……僕は思った。
そして薄れいく意識の中で誰かの足音と
「……死ん……だめだよ!」
少女特有の高く澄んだ声と一緒に……暖かい何が僕を包んだような気がした。
結局与えられた才能や美貌はそれを発揮し、伸ばせる環境でないと意味などないのだ。
努力すれば変わる?
ーーーそもそも努力すら出来ない環境ならばどうする?畜生以下の扱いを受ける場所、本にすら手を触れられない環境、その日の糧を得るために一日の大半を費やさないといけない家庭、運悪くそのような場所に生まれた者に努力すれば……などと言うのであれば、それは傲慢を通り越して悪意以外の何物でもないだろう。
だから……僕は一人の女の子に強く、憧れた。
乾燥した空気に、肌を焼くような強い陽射しと風で舞い上がる砂塵。石油利権を狙った大国の介入や、宗教闘争が絶えない中東の小国。
父親に連れられやって来たその国は二、三日に一度は爆発音や銃声が聞こえるいつものように物騒な国だった。
そんな異国の人間に良い感情を持たない筈の国で、見るからに異国の人間である僕になぜか懐いて来た……明るくて優しくて、強かった一人の少女。
頑張って勉強していつか家族を楽にするのだと、そして、この国を平和な国に変えてみせると言っていた強い眼差しをしていた少女は……呆気なく死んだ。
そして……僕は……
†††
「っ……ぐぅ…ッ!!?」
意識を取り戻した時、僕は口いっぱいに広がる鉄の味に顔を歪め、次に全身から感じる激痛に顔を歪めた。
そして、理解した。死を避けられない程の損傷を自分の肉体は負っていると。
先ず目が片方しか見えない。目に血が入った所為なのか、それとも潰れたのか。
次に手足の感覚も全く分からない程に麻痺していた。骨もほぼ全て折れるなり、粉々だろう。内臓も辛うじで心臓と肺が動くだけで、直に動かなくなるだろうし、神経もズタズタだ。
僕の身体は普通に比べてかなり頑丈に出来ているので、こんな重傷を負う理由なんて、高い空の上から叩き落とされるくらいしか思い当たらない。
記憶が飛んでいない限り、空から落っこちるような理由に心あたりはないのだけれど……。
それに今いるこの場所にも心あたりはなかっい。
何とか見える片目に映るのは深い森だ。おそらく朝方か昼間なのだろうけど、木々が隙間無く立っているから、日の光が遮られて少し薄暗い。
日本で言う神隠しか、ヨーロッパで言う妖精にでも攫われたか?と少し夢見がちな事を考えるものの……一番現実的なのは何かがあったけど、強い衝撃を受けた所為で前後の記憶が飛んだのだろう。
しかし、僕も中々しぶといな。まだ死なない。
……ま、痛みを全く感じなくなったし、心臓の動きが遅くなってるから、もうすぐ死ぬだろう。
僕がぼんやりとそんな事を考えて、死ぬまでの暇つぶしをしていると、何の変化もない筈の目の前の景色に変化があった。
少し離れた場所からこちらを伺うように見る、神話から飛び出して来たような一匹の狼がいつの間にか居た。人を丸呑みに出来そうな大きな躰に、全てを見透かすような理知的な黄金の眼、きらきら輝やいているように見える白銀の体毛に、額には何色もの色を合わせた、虹色に見える水晶で出来たような角を持つ狼。
僕は見たことも聞いた事もない不思議な狼を見て、もうすぐ死ぬと言うことを忘れるほどに、綺麗だと、美しいというある種の感動を感じた。
ああ……悪くない死に方だと思った。
最後にこれだけ綺麗なものを見れたのだ。悪くないと、僕なんかの死に方にしては、かなり上等な死に方だと思った。
そして……薄れて行く意識の中で思う。独善的で自己満足でしか過ぎないけれど、地獄や天国があるかも分からないけれど、我が儘を言うならあの女の子に謝りたいと……僕は思った。
そして薄れいく意識の中で誰かの足音と
「……死ん……だめだよ!」
少女特有の高く澄んだ声と一緒に……暖かい何が僕を包んだような気がした。
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