フェイト・マグナリア~乙ゲー世界に悪役転生しました。……男なのに~

神依政樹

ベルセル伯爵と不安の芽生え

「……カイン様の仰る通りでしたな。いやはや……感服しました。十歳の身で盗賊を捕らえるのに貢献するとは本当に素晴らしい。父上である国王陛下も大層喜ばれるでしょう。是非とも、カイン様が直接報告に向かわれるべきでは?(多少の功績は上げたのだから、余計な事はせず。子供は帰るがいい)」


「いえいえ、これも全てベルセル伯爵が鍛え上げた精兵が居てこそです。ご協力に感謝します。確かに私自らが帰って、兄上や父上と話さねばならないかもしれないですね。エルフとの軋轢があると言う話も聞きましたから……。しかし、だからこそ若輩者ですが、王族の一員として、リグ公爵全権代理としての職務を全うしたいと想います。どうか、ご指導ご鞭韃のほどお願いします(帰っても良いけど、その時はてめぇがやらかした事を報告するぞ?良いのか?噂と違って、お父様もお兄様ともそれなりには仲良いからな?大人しく言うこと聞けや筋肉達磨)」


リグ公爵全権代理として、手紙で呼び出したベルセル伯爵の手を借り、盗賊を捕らえた俺は……筋肉隆々でカイゼル髭を蓄えたベルセル伯爵と笑顔で睨み合っていた。


俺にとってベルセル伯爵はこの東方イーストの状況を悪化させる厄介な存在で、逆にベルセル伯爵にとって俺は何やら余計な事をしようしてるクソガキであり……まぁ、要するにお互いに邪魔なのだ。


更に盗賊をしていた十代から二十代の農民達の処遇についても、揉めていた。


俺は盗みをしても、暴行等はしていないのだから、貴重な労働力として馬車馬以上に働かせるべきだと主張し、ベルセル伯爵は極刑にするべきだと主張。


先ほどから言葉こそ丁寧に、笑顔で互いを威圧していると、一人の少年が俺とベルセル伯爵との間に割り込んだ。


「まぁまぁ、親父殿もカイン様も落ち着いてください」


そうして仲裁してきたのはオリオンで印象に残っていた赤毛の少年……確かクレスだったっけ?


オリオンで挨拶されたらしいのだが、考え事に集中していて全く覚えていなかった。それを正直に言うと苦笑しながら改めて挨拶された。


……や、だって考え事に集中してたんだから、仕方ないじゃないですか。


「そう言えば……カイン様。どのようにして盗賊達の居場所を割り出したので?街の衛兵や、憲兵達も動いていたと言う話ですが……」


クレスが単純に疑問に思ったのか、それとも少しでも場の雰囲気を変えるためなのか、そう質問してきた。


「……ん、ああ。衛兵達に協力して貰ってバラ撒いた幸運の人形ですよ。これには発信……じゃなくて、中に小さなゴーレムが埋め込んであるんです。で、ゴーレムを動かす時に使う魔力経路パスがあるじゃですか?それを辿って居場所を割り出したんですよ」


「……なるほど、魔力経路パスをそのように使うとは……」


クレスが驚いたように目を見開くが、発信器等の概念さえ知ってれば誰でも思い付く程度の事だ。凄いのはテスラさんや電信の実用化に成功したマルコーニさんである。


しかもテスラさんなんて、運命では星の開拓者持ちですよ。何度引いても来てくれなかったけどな!俺には正義の味方と英雄王がいたから良いんだっ!


「ほぅ、カイン様は細かい事が得意なのですな(小細工だけは得意なようで)」


「ええ、それなりに細かい事が出来ない脳筋にはなりたくないですからね(どっかの誰かさんは武力を振りかざすことしか出来ないようだけど)」


それを聞いていたベルセル伯爵が嫌みを言って来たので、同じく嫌みを返すとクレスが大きな溜め息を吐き、頭痛を抑えるようにこめかみを揉んだ。


「はぁ……親父殿はカイン様の命に従うのが不服の様子。ではこうしませんか?俺とカイン様で手合わせして、カイン様が勝てば盗賊達の身柄はカイン様に任せ、私達は心からカイン様の命に従うと言うことで」


……いやいや、何でそんな超理論に発展するんだよ。


と辺りを見渡すと、揃いも揃って脳筋なのか、ベルセル伯爵の部下達も賛成するように力強く頷く。あれぇ……ここ乙ゲー世界ですよね?一昔前のジャ○プ漫画じゃないよね?


「えっと……ちなみに俺が負けたら?」


「盗賊達の処遇以外はもちろん何の要求もしませんし、出来ません。ですが、親父殿や騎士達は、心から従うことはなくなるでしょう。北方ノースは魔物が多く、帝国との最前線であった事から強いものが重んじられます。そして、私達の住むベルセル領も魔物が多く、北方ノースの血を引くものが多いのでそういう気風で、俺もです。王族に対して不敬なのは百も承知ですが……我らの上に立つ方ならば武威を示してほしいのですよ」


そう言うとクレスは困惑してる俺に近付き、小声で囁く。


何かを大きな事をやるつもりなのでしょう?ならば、こんなことくらいは……と。


……つまり、ここに居る者達すら従わせられないのなら、リグ公爵全権代理など貴方には荷が重い。と言いたいのか。こいつ。


「クレス。あんまり無茶を言うな。私と打ち合える程度・・のお前ではカイン様の相手にはならんだろう(ふん、実力差が有りすぎるわ。わざわざ恥をかくこともあるまい」


俺が黙っていると、ベルセル伯爵が言葉こそ丁寧に、小馬鹿にするように笑う。


「親父殿……一度頭から先入観を捨て、カイン様をよく見てください」


「む……」


ベルセル伯爵は唸った。いや、そんなおっさんに見詰められても困る。


「……分かりました。立ち合いましょう」


王族と言っても悪い噂しか聞こえない奴がいきなり公爵代理になって、こいつらは不満なんだろう。


ならこのまま話を続けても平行線を辿るだけだ。……アホな事をやったとは言え、労働力が欲しいし、本人達の道徳心か、頭領指示かはわからないが盗賊達こいつらは盗みはしても暴行や殺害はしていない。
見せしめの意味があるとは言え、死刑はやりすぎだろう。


それに、ここで東方イーストで大きな武力を持つベルセル伯爵達の手綱を完全に掌握出来るのは大きい。ベルセル伯爵達が素直に従ってくれれば俺に不満を持ってる他の貴族達も、内心はどうあれ、ある程度は従ってくれるだろう。


「では私も立会人となりましょう。両方から出した方が、どんな結果になろうと納得出来るでしょうからな。……それに私と伯爵様の二人でないとお二方を止めるのは難しいでしょう」


「む……良かろう」


付いてきてくれていたカンベェが前に出る。するとベルセル伯爵と中年のおっさん同士で通じるものがあったのか、ベルセル伯爵は頷いた。


「……カイン様、風と土に適性があると聞きましたが、錬成は得意ですか?」


「まぁ……可もなく不可もなくと言ったところですね」


超高純度鉄を作れないかやってるが、まだ玉鋼が精々だ。それでも良質な鋼なので充分と言えば充分なんだけど。……魔法金属?そんなのどうやって作るんだよ。ムラクモ連合国の独占技術だよ。


「ではこうしませんか?手合わせ用の武器など持ってきてませんから、互いに刃を潰した武器を錬成して、殺傷力のない魔法ありの実戦に近い試合。勝敗は勝負ありと判断した立会人に止められるか、降参するかのどちらかで。……いかがです?」


「……ではそれで」


わざわざ魔法の含めるっ事は武芸だけじゃなく、魔法にも自信があるって事か……。強いんだろうなぁ。


騎士や自分達の命運が懸かった盗賊達が遠巻きに見守る中、俺とクレスは対峙した。


クレスが錬成したのはクレスが隠れてしまいそうな程の大剣クレイモアだ。見た目は武骨な剣だが、大剣クレイモアを持つ傭兵をハイランダーと呼んで恐れたり、近代兵器にもその名が受け継がれるだけあって、その性能は折紙付きだ。


地球ならとてもじゃないが十歳程度の人間が扱えるような物じゃないんだが……ここは地球じゃ無いからな。
それにどの程度扱えるかは分からんが、構えは堂に入っている。まともに剣を受ければ、それだけで剣が折れ、下手な受け方をすれば骨折。……流すしかない。


俺は手甲を左手に錬成し、右手にはバスタードを錬成して構えた。


実戦なら刀を使うんだが……訓練である以上は殺傷は厳禁。実力差がなければ打ち合いになる。極力流すけど、耐久性と重量がないと話にならない。


準備を終えると、お互いに構えて、相手を伺う。俺も、クレスも頭の中で何十通りと動き、視線で牽制しあいながら、どのように動けば良いか予想する。


現実の時間にしてみれば数秒、体感時間にすれば数十分が経ち、最初に動いたのはクレスだった。


重量があるはずのクレイモアを棒切れのように軽々と振るい、踏み込みと一緒に横凪ぎにクレイモアを振るう。


正に暴力の塊となって迫り来る巨大な鉄塊を、ある程度余裕を持って避け、クレスが剣を振った方に風魔法で力を加える。あわよくば体勢を崩そうとしたが、クレスの軸は一切ぶれなかった。


内心で舌打ちして、側面に回り込み、剣を打ち下ろそうとする……と、クレスを覆い隠すように岩壁が地面から盛り上がった。


その瞬間、直感のままに後ろに下がりながら、バスタードに魔法で空気の層を纏い、斬撃を放つ。と、同時に岩壁が砕かれ、大剣クレイモアが襲ってきた。


剣と剣が重なる。手に強烈な衝撃。その反動を利用して飛ぶように更に後ろに下がる。俺を追うように砕かれた岩壁がつぶてとなって襲って来た。それを手甲で弾き、風で逸らして、息を吐いた。


紙一重。後ろに下がらなければ、バスタードに空気で層を作らなければ、吹き飛ばされていた。見るとバスタードはへし折られ、巻き上がった粉塵中に見えるクレスの大剣クレイモアも折り曲がっていた。


一合。それだけで分かった。……こいつ、剣技や体捌きだけならお兄様よりぞ。


お兄様はまだ実戦経験がゼロに等しく、油断してたからそこを付け込んだが……こいつには隙がない。


格闘に持ち込んでも、すぐに対応するだろう。


前世の経験あって互角とか何てチートだよ。こいつ……。


……こんなのと試合とか早まったか。実戦ならいくらでも手はある。極小ゴーレムを体内に錬成する。酸素を無くす。血液を逆流させる。相手を殺傷させる手ならいくらでもある。


でもお兄様の時もだけど、試合なんだよね……これ。


へし折られたバスタードを還し、新たにバスタードを作り出す。クレスも同じく新しくクレイモアを錬成。


視線が交わり、同時に剣を振るう。


互いの剣が傷付き、剣を潰す度に即座に錬成し直し、以前より少しでも強く、頑丈で、しなやかな剣を作り、それを俺達は使い打ち合い続ける。


自分の息遣い、相手の息遣い。筋肉の動き。視線。足の動き。時折、魔法やフェイントを混ぜ、それすら互いに全てを読み切り、剣を振るい、打ち合い続ける。


極度の集中状態。コンマ一秒を刻み、少しでも相手の上回るために。互いに己を練り上げて行く。無駄な思考を省き、ただ相手を打ち倒さんと、思考が研ぎ澄まされていく。


クレスの顔を見ると、凶戦士と言う言葉が似合いそうな凶悪な笑みを浮かべていた。


だが、それは俺も恐らく同じだろう。口角がつり上がってるのが分かる。極度の集中の中で剣を打ち合い、己の限界を越えていくのは充足感が得られ、楽しいのだ。


でも、それもそろそろ終わりだ。決着を付けよう。


バスタードではダメだ。こいつを倒しきれない。刀を錬成する。


陽気の発する処、金石も亦透る、精神一到何事か成らざらん。極度の集中と意思をもってすれば金だろうと石だろうと、貫き通す。ならば斬ることも容易い。


陽石絶斬で武器と共に万物全てを尽く斬ろう。


対して、クレスも大剣クレイモアではなく。造り上げたのは習熟の難しさがあるものの、万能武器として名高い斧槍ハルバードだった。


クレスを腰を落とし、流れるような滑らかな構えをとる。ああ、そうか……。それがお前の本気か。クレス。


決着は刹那。瞬く間に終わる。……さぁ、やろう。


「「双方引けぇっ!!!!!殺すつもりかっ!」」


動こうとした瞬間、ベルセル伯爵とカンベェが、体に響く怒声と共に俺達の間に割って入った。体が硬直した。


それと同時に自分がナニをやろうとしたか理解した。


あ~…………………………うん……本気になりすぎた。


刀を下ろし。対峙するクレスに目を向けると、気まずげに笑った。俺も気まずげに笑い返す。


と言うか笑うしかない。集中し過ぎたせいで試合ではなく、死合になっていた。このまま続けたらどっちかは確実に死んでいただろう。


「……全く、我らが止めなければどうなっていたか」


「全くですな……。まぁ、私も若いときは色々したので気持ちは分かりますが……」


「う…む、若いときは己の血気に逆らえず、ままならぬものが有るからな。して……試合だが、引き分けだな。これは」


「ですなぁ。実力が伯仲し過ぎて、実戦で無ければ決着は着きますまい」


ベルセル伯爵とカンベェが頷く。……まぁ、妥当だ。これ以上は続けてもなぁ。


「うむ……。カイン様」


「はい……」


結果は引き分け。また何か言われるかと身構えると……ベルセル伯爵がいきなり深く頭を下げた。


「はっ……!?えっ…?」


「今まで数々のご無礼を働き、誠に申し訳ありません。言い訳をさせていただければ、良い噂が聞こず、まだ年若いカイン様が大きな権限を持つことに不安を感じていました。初めてリグ公爵が権限をカイン様に預けたと聞いたときは、気が狂ったかと思ったほどです」


あまりに突拍子もないベルセル伯爵の行動に、辺りは静まり、俺も呆然としていると、ベルセル伯爵は顔を上げて俺の目を真っ直ぐに見つめると続けた。


「しかし、カイン様の動きを見ればどれ程の鍛錬を積んだのかは分かります。その年でそれほどの武。才能がある前提としても生半可な努力ではありますまい。
生来の無骨者ゆえ、私には外国の農作物に駆逐されつつある今の東方イーストの産業状態をどうにかできる知恵はなく、ただ農地を広げる事しか思いつかなかった。例えそれが状況を酷くする延命処置に過ぎなくとも……」


そして、ベルセル伯爵は膝を地面に着き、腰の剣を抜き、柄を俺に差し出した。


「身勝手は承知のうえ、そしてまだ幼いカイン様に頼るしかない恥を忍んで頼みます。エルフ達の怒りを静めるのに私の首が必要ならいつでも差し出しましょう。我が命を捧げます。ですからどうかっ!どうか我らの窮地をお救いください」


身を震わせ、深く頭を垂れるベルセル伯爵。俺は差し出された剣を握る。


握ったその剣は……重かった。とてつもなく。重いのはきっと剣の重量ではない。それは命の重さだ。ベルセル伯爵達、その先には何十、何百の人がいるのだ。それを……俺は理解した。


……俺は、心の奥底でこの世界を舐めていた。どこかでゲームの世界なのだと言う認識を持っていた。もちろん、生き残ると決めたのも、絶対にディアナを死の運命から助けると決めた心に嘘偽りはない。


だが、どこかで……甘えを持っていた。ここは紛れもなく現実なのにだ。


俺は剣を振り上げ……ベルセル伯爵の首筋を狙って、周りからは首が斬れたように見えるように降り下ろした。


水面に石を投げ入れ、波紋が広がるようにざわめきが広がる。反射的だろうが、剣に手を掛ける者までいる。
へその下、丹田を意識して、そこから力を汲み上げるように声を張り上げた。


「ルーガス・ノースド・ベルセル。今までの汝の命は今ので潰えた。これからはその力をこの国の民達と、一時我が為に振るえ。そして、覚悟があるのならそれまでは死ぬ気で死なないように全力で生き抜け、死など何時かは訪れる」


「はっ……!我が家名、我が魂に懸けて忠誠を誓います」


ベルセル伯爵が更に深く頭を下げると、騎士達のみならず、その場にいた盗賊達も頭を下げた。


「「……我らカイン様に忠誠を誓います」」


そして、騎士達の野太くも凛々しい声が響く。何とか俺はベルセル伯爵達を従わせることが出来たらしい。


はぁ……やれやれだ。次はエルフの問題を解決しないとな。しかも二つだ。二つ。頑張らないとな。ははっ……。頑張らないと……。


拳を握り、歯を食い縛る。自らを奮え立たせる。そうでなければ……俺は震える足を、抑えられそうになかった。





「フェイト・マグナリア~乙ゲー世界に悪役転生しました。……男なのに~ 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • ノベルバユーザー259506

    おもしろい!

    1
コメントを書く