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フェイト・マグナリア~乙ゲー世界に悪役転生しました。……男なのに~

神依政樹

幕間・エミリアの憂鬱

世の中は金が全て。


それがエミリア・グリードの信条であり、十数年の人生で得た真理であった。


母はそれなりに大きな商家に使えていた使用人。そして、父はそこの主人だった。


正確に言えば、整った容姿であったエミリアの母に主人であったギーゴ・グリードが無理矢理手を付けたと言うのが正しいだろう。


妊娠が発覚すると、妻がエミリアと母メアリーを追い出したために、身寄りのないエミリアと母のメアリーはスラムで身を寄せあい生きて行くことになった。


伝手も身寄りも技術もなく、幼い子供を抱える女に出来る仕事など限られており、重労働で擦り傷が絶える事はなく、時には花を売る事もあった。


それでもメアリーは母としてエミリアに笑顔を常に絶やさず、望んだ子ではなくとも惜しみ無い愛情を注いで育てた。


だが……エミリアが六歳の時、無理が祟りメアリーは倒れてしまう。


「お母さんっ!お母さんっ!」


「ごふっ……だ、大丈夫よ。エミリア。少し休めば…良くなるから」


血の気の失せた顔は青白く、吐血までしているのだ。


知識が無いものの、ここはスラムなのだ。幼子あっても、多くの死に触れてきた。だからこそ、このままではメアリーの命が幾ばくもないのがエミリアは分かってしまった。


どうにかしようとエミリアが考えて、脳裏に過ったのはいつか母に聞いた医者の存在だった。だが、医者を呼ぼうにも金がなければ見てもくれないと知っていたエミリアは考え、考え抜いて、会ったこともない父親に頼る事にした。


一度だけ母から聞いた話と、スラムの顔役からの情報を頼りに街を駆けて、駆けて、半日以上の時間をかけてエミリアは父親の居所を見つけ出した。


そして、エミリアが門前までたどり着いた時、丁度父親とその家族が馬車で出掛けようとしていた。


エミリアを見たギーゴはそれなりに人の情があったのか複雑な顔を浮かべ、腹違いの兄妹からは侮蔑した目を、エミリアの母を追い出した妻はどこから取り出したのかあろうことか、グラスをエミリアに投げつけて『出て行きなさい、穢らわしいっ!』とヒステリックに叫んだ。 


投げられたグラスは頭に当たり、血を流しながらもエミリアは怯まずに、父親達を睨み付けながら掠れた声で言った。


「母が……母が倒れました。どうかっ!どうか助けてください!」


半日以上走り回ったために喉は渇き、出したくともまともに声も出なかったが、一言で素直に助けて貰えると思わなかったエミリアは、必死に続けて言った。


「助けてくれないのなら……私は母と娘を棄てた外道と周囲に言いふらしてから、舌を噛んで死にましょう!」


その一言で妻は激昂し、またグラスを投げ付けようとしたが、それをギーゴが止めた。


「……分かった。メアリーの元に案内してくれ」






使用人が手配した医者、ギーゴ、エミリア、数人の護衛で母の元に向かうと、母は虫の息だった。医者がその様子を見て手の施しようがないと告げると、エミリアは泣きながら叫んだ。


「……なんでっ!なんでよっ!医者だったら治しなさいよ……!お願いだからっ!助けてよ……」


母の死を前に泣き崩れる幼い子供にかける言葉などあるはずがなく、周りは押し黙った。


「エミ…リア……」


そんな中で虚ろな声が発せられた。


「母さん……!」


エミリアは母に駆け寄り、手を力一杯握りしめた。


「エミリア……私の為に頑張ってくれたのね。ありがとう……。ごめんね。あなたが一人前になるまで一緒に居たかったけど……無理ね」


「そんなことっ……そんなこと、言わないでよ……」


「ごめんね……」エミリアの母は娘の頭をあやすように撫でながら、最後に残った命の灯火を燃やすようにギーゴに力強い視線を向けた。


「お久しぶりです。ギーゴ様……」


「ああ……メアリー。……私の事が憎いかね?」


ギーゴは今聞くことではないと思いながらも、絞り出すようにメアリーに問いかけた。


「……恨んでいないと言えば嘘になりますが、この子が生まれた事は私の人生で最大の幸福でした。……最後にお願いを聞いてくれませんか?」


「……なんだね?」


「この子を……エミリアをお願いしたいのです。お願い出来ますか?」


「……分かった。私が責任を持って育てよう」


「そうですか……感謝します。エミリア、産まれてきてくれてありがとう。幸せになるのよ……」


「やだっ!やだよ!母さんがいないと!母さんがいないと嫌だよっ……」


顔を歪め泣き叫ぶエミリアにメアリーは「困った子ね……」と、娘の頭を最後に優しく撫でて……最後まで娘の幸せを祈りながら、眠るように静かに息を引き取った。






グリード家に引き取られたエミリアだったが数ヵ月すると、奉公という形で家を出された。


理由としてはエミリアを気に入らない妻や、腹違いの兄妹からの陰湿な嫌がらせ、折檻などがギーゴがいくら止めても、仕事に行っている間に行われた事、そしてそれが日に日にエスカレートしていったからだ。




身を守る為にとエミリアはグリード家と付き合いがある公爵家に預けられた。


だが、そこで待っていたのはグリード家よりは、少しはまし程度の同僚からの陰湿な嫌がらせだった。


公爵家ともなると、男爵や子爵の子女が侍女として働く事も珍しくない。そのため下手な貴族よりは余程力を持つ商家とはいえ、大した身分ではない妾の子は格好の虐めの標的だったのだ。


普通なら誰も味方がいないこの状況で、心が壊れたかも知れない。もしくはその前に自分で命を断ったかも知れない。


だけど、エミリアは聡く、強い人間だった。


「幸せになるのよ」


その母の言葉を守る為にエミリアは何が必要かと考えた。


……どうすれば幸せになれる?母さんがいないのに、どうすれば……幸せになるには何が必要なの?


ああ……そうか。お金だ……。お金さえあれば、母さんは死なずに済んだんだ。温かい食事や、綺麗な服も着れたんだ。


それがエミリアのたどり着いた結論だった。






それから数年、エミリアは持ち前の頭の良さと要領の良さで公爵家の中で力のある人間に取り入ったりして後ろ楯を得ると、同僚達と駆け引きや、交渉術などで一定の地位を築き上げた。


ある程度の給金と立場を得て、これ以上のお金を得るために、どこぞの金持ちか貴族の愛人にでもなろうとエミリアが考えていると、普段は接する機会のない雲の上の存分である公爵を通して、天上人である国王から呼び出しがかかった。


関わった事のない国王からの呼び出しに何事かと、戦々恐々としながら、エミリアが国王の元に向かうと、国王から直々に「王子の世話係になってくれぬか?」と頼まれた。


平民の自分を王太子の世話係に!?


と驚いたエミリアだったが、それが第二王子だと分かると納得した。


身を守る為にも貴族や王族達の情報収集を怠らないエミリアの耳に入って来た情報では、王妃が産んだ第一王子のアベルは四歳にして、生まれながらの聡明さを発揮しているとの話だが……平民の側室が命と引き換えに産んだ第二王子のカインは三歳になったのに未だ喋らず、ぼーっとしている痴呆うつけとの噂だったのだ。


そのため本来なら、箔付けとお手付きを狙った貴族の子女達がこぞってなりたがる王室の世話係だったが、王位継承の目が極端に低く、王妃からの不興を買う可能性のある第二王子の世話係になりたがる者はいないとの話だったのだ。


だからこそ平民であるものの、公爵家で侍女としてやって行けるだけの才覚のあるエミリアに話が来たのだ。


国王直々の話とは言え、貧乏クジ以外の何物でもない第二王子の世話係にエミリアが返事を渋っていると、国王から世話係の給金に合わせて、国王個人から謝礼を払うとの話が出た。


提示されたその二つを合わせると一般的な男爵以上の給金になる大金だった。


第二王子の世話係になった場合の面倒と、給金を天秤に掛けたエミリアは……世話係を受けることにした。






余り反応せず、生きているのか死んでいるのかも分からない第二王子の世話係になって二年。カインに時たま冗談や、不敬に当たりかねない言動をしたり、愚痴を溢しても反応のないカインに、エミリアは丸々と肥えた人形の世話をしているようだと感じていた。


いつも通りノックをして、誰も見ることもない身嗜みを整えようとエミリアがカインの部屋に入ると、今までとは違うカインがそこにはいた。


まず目には確かな光があり、その目でまるで誰が入って来たか確かめるようにエミリアを見たのだ。


いつもと違う様子に訝しむエミリアだったが、普段通り身嗜みを整えようとすると、顔を赤らめ、恥ずかしがった。さらに部屋で朝食を取るか、食堂に向かうか問うと食堂に行くとカインは言うのだった。


食堂に向かうとそこには天才と名高い第一王子のアベルと、宰相の息子であり、アベルの親友にして、将来はほぼ確実に宰相になるだろうと言われている切れ者アズマ・スメラギ・マグナリアが食事をしていた。


アベルやアズマ付きの侍女達からの優越感と嘲笑、そして僅かに憐れみのこもった視線を受け流し、弱味を見せないようにいつも以上に所作に気をつけてエミリアは壁際によった。


エミリアがカインの方を見るとアズマに誘われるままにフラフラと、アベル達の方に近づいて行ってしまった。


その様子に何事もしないでくれ、と言うエミリアの願いは虚しく、案の定と言うべきか。アズマの口から物騒な話が飛び出た。


そもそも話の内容も理解しているか怪しいカインが下手な言葉を発すれば、只でさえ悪い立場が更に悪くなる。そんなエミリアの心配を余所に、五歳にしてカインは充分過ぎる程の返答をして見せた。


そのカインの様子にエミリアは驚きながらも一安心した。


……ただ、アズマの目の色が変わったのには誰も気づけなかったが。






心臓に悪い食堂でのやり取りが終わると、エミリアにカインは図書室の場所を尋ねて来た。


やはり、朝から様子の違うカインを訝しみかつつも、エミリアが場所を教えると、カインは五歳児にしては重そうな体で、とことこと部屋を出ていった。


本来なら専属のお付き兼、世話係のエミリアは、付いて行かねばならぬのだが……その日は疲れもあり放置した。


その夜、カインが帰って来たのを見てエミリアが夕食を持っていくと、急にカインが前傾姿勢で頭を地面に擦り付け、エミリアに文字を教えてくれと頼んできた。


皆に出涸らし扱いされ、カイン自身と言うよりカインの立場を忌避して近づいたり、望んで関わる人間がいないとは言え、さすがに王族に頭を下げられたエミリアは慌てて文字を教える事を了承した。






翌日からエミリアはカインに文字を教え始めたが、カインの呑み込みの早さに驚いた。てっきり覚えるのにかなりの時間が必要なのでは、とエミリアは思っていたが、三週間ほどで読むだけなら問題ないほどに覚えたのだ。


……それと何故かはエミリアには分からないが、見たことのない文字のような物をエミリアが教えた字の横に必ず書いていたが。


賢王の息子にして、天才の弟なのは間違いないほどには優秀なようだった。






側にいなければならない義務もあり、エミリアはカインの様子を観察していたが、朝晩は体を動かし、空いた時間は図書室に通いつめ、時たま第一王子の稽古を盗み見て、それを模倣する姿にエミリアは驚いた。


さらに偶然見たのだが、皆が寝静まった時間に独学で覚えたらしい魔法の訓練をしているようだった。






カインが何らかの目的を持って鍛練と勉強を初めてから一年の月日が経った。五歳になるまで全く動かなかった為に弛んだ体だったが、一年の運動で引き締まった体になっており、兄には及ばないものの、なかなかの美少年になっていた。


一年ほぼ変わらない毎日を過ごしていたカインだったが、その行動に変化があった。厨房にこそこそと通い出したのだ。


何を考えているのか、見たことのないお菓子を厨房で作って、エミリアや、厨房のコック達に味見させ始めたのだ。


昔に比べ、庶民でも手に入るようになったとは言え、砂糖などは高級品の部類に入る。


エミリアも女性の例に漏れず、甘いものは好きだったが倹約の為に余り食べなかった。なので美味しく、無料で食べれるカインが持ってくるお菓子を密かに楽しみにしつつも、カインが何故お菓子を作り、食べた感想をわざわざメモに取るのか、疑問に思っていた。


「カイン様。なんで、お菓子を作るのですか?美味しく、無料で食べれるので私としては大歓迎ですが……」


なのである時、エミリアはカインに直接聞いた。仮に将来料理人になりたいと考えているのなら、早めに諦めるように言ってあげようと思ったからだ。子供で趣味の範囲でやるのなら未だしも、王族が料理を作るなど、王族全体が軽んじられる行為だからである。


「……あー、将来の飯の種?かな。まだ色々情報やら、足りないものが多いけど……一つ聞きたいんだけど、エミリアはいくら出せば俺個人に雇われてくれる?」


「おませですね。カイン様。愛人ですか?んー……最近は将来に期待が持てますが、私は高いですよ?」


「いやっ!違うからっ!色々手伝って欲しいんだよ」


何か企んでるらしいカインに、いつもの冗談を言ってからかうと、エミリアは現実的な金額を伝えた。その額にちょっとショックを受けてから、何事か考えるカインを見ながら


(まぁ……どうせ専属として側に居ないとダメなのだから、多少はこの努力家の王子様を手伝ってもいいかな?何となくお金の匂いもするし……)と思うエミリアだった。









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