セミになりたい少女と内気な僕

ノベルバユーザー173668

 寮に帰り、僕は、とりあえず寝ることにした。しかし、セミちゃんのことが気になって眠れない。今何時か気になり、腕時計を見る。そのとき、
「お兄ちゃんと一緒に公園で遊びたかった…」
と声が聞こえてきた。今まで頑張って。聞こえないようにしてきたのに、久しぶりに聞いてしまった。忘れようと頑張ってきたのに、弟との記憶が蘇ってくる。
  僕には一人の弟がいた。弟は生まれつきの病弱で長く生きられないと言われ、いつも病院に入院していた。弟は兄の僕を慕ってくれた。僕は、小学校から帰ると、弟の病室に寄って、学校であったことや、日常で起こったことを話した。弟はその話を聞いてとても喜んでいた。そして、いつも弟は僕にこう言った。
「お兄ちゃん、いつか、元気になったら、お兄ちゃんと一緒に外に行きたい。」僕は、
「当たり前だろ。」
と言った。僕は、誰よりも弟が治るのを信じていた。根拠はないが、そう信じていたかった。
 しかし、僕が中学の時、弟の容態が悪くなり、もうながくは生きられないとと診断された。でも僕は、信じたくなく、絶対治ると思っていた。そんなある日、弟が、僕に、
「これ、お兄ちゃんにあげるよ。お兄ちゃん時間にルーズだから、役に立つと思うよ。」
と言って、3000円くらいの腕時計をくれた。僕は、「これを一体どこで?」
と聞いた。弟は、
「パパとママと一緒にネットで決めたんだ。3000円お菓子我慢して買ったんだよ。えらいでしょ。」と言った。お菓子とは、食事も思うように取れない弟の唯一の楽しみの消化の良いクッキーのことだ。すると、病院の先生がやってきて、笑顔で言った。
「お。プレゼントあげれたんだ。これは、彼が、お菓子を我慢して、貯めたお金で買った、腕時計だから、大切にしてあげてよ。」
と言った。そして、先生は小さな声で、
「彼が、どうしても自分でお金を貯めて買うと言ったんだよ。ご両親が、お金を出すっておっしゃったんだが、彼は断じて言うことを聞かなくて。」僕は、
「そうだったんですか。」
と言い。笑顔で、僕は、
「ありがとう。大切にするよ。」
と言った。3000円の腕時計だったけれど、僕にとってどんなものより価値のある宝物になった。弟が、
そんな、僕を見て、喜んでいる。こんな日がまだまだ続くと思っていた。
 そんなある日、僕が弟の部屋に入ると弟が、声を掛けてきた。
「もう。僕は、退院したい。そして、お兄ちゃん一緒に公園で遊ぼうよ。」
と言った。弟の病室からは、公園が見えて、いつも羨ましそうに眺めていた。そして、
「僕が退院したら、一緒に公園で遊ぼうね。」
といつも言っていた。僕は、
「もちろん。遊ぼうな!」
と言っていた。だから、弟が、公園で遊びたかったのはとても分かっていた。しかし、病弱の弟が公園で遊べば恐らく今よりも容態が悪くなるのは目に見えている。僕は、
「それは、できない。兄として弟の命を粗末にはできない。絶対に直るから、そしたら一緒に遊ぼうな。」
と言った。すると、弟はすこし寂しそうな顔をして、
「そうだよね。お兄ちゃん。僕はがんばるよ。お兄ちゃんと一緒に公園で遊べるように。」
  しかし、3日後弟は息を引き取った。あまりにも残酷な現実に僕は、絶望した。まだもう少し生きられると医師に聞かされていた。弟が何をしたというんだ。弟は、普通の人が経験できる、楽しめることさえもできなかった。今、のうのうと生きている自分の命さえも憎い。僕は、そのとき、命のもろさと儚さを知った。弟のベッドの下には遺書があった。まるで、もう自分の命があと少しということを知っていたかのように…僕宛の遺書にはこう書いてあった。
「お兄ちゃんへ、いつも入院している僕のために、お見舞いに来てくれてありがとう。お兄ちゃんの学校や病院の外の世界の話をしてくれて、とても楽しくて、退屈しなかったよ。まだまだ、言いたいことがあるけど書ききれないからこれぐらいにしとくよ。そして、最後に、お兄ちゃんと一緒に公園で遊ぶ約束を破っちゃってごめんね。僕は、多分もう少ししたら死んじゃうんだけど、空からお兄ちゃんを見ています。今までありがとう。」
と書いてあった。文字が震えていることから、筋肉がついていない弟が、精一杯書いたことが伝わってきた。僕はその遺書を読んで自分を殴り付けた。僕は、もう動かない弟の前で、
「さあ、一緒に公園に行こう!」
と言った。しかし、もちろん返事はない。僕は、悔しかった。誰よりも弟を愛しているつもりだったのに約束を破ってしまった。もし、タイムマシンがあるらば、僕は、それに、乗って3日前に戻って弟のお願いを承諾しただろう。しかし、そんなことができるはずではない。僕は、とてつもない後悔に襲われた。あのとき、弟と公園に行っておけば…。弟は幸せに死ねただろう…。僕は、そんな弟の思いを踏みにじった。
「うわぁぁぁぁ!!!」
 目が覚めると、そこは寮だった。体が濡れている酷い汗だ。時計をみると、もう昼の12時だった。どうやら、悪い夢を見ていたらしい。僕は、答えを決めた。僕は、急いで病院にか

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