誑かした世界に終わりを告げて
03
5人目の候補者は神官の説明を受けながら魔力測定器を持つ。
これで少しでも緊張していれば少しは可愛げがあったかもしれないが、彼女は選ばれるのを核心している。
淀んだオーラはぶれることも無く、魔力測定器に魔力を注ぎこんでいく。
その大きな魔力が他の選考人にも分かったのだろう、選考人は一様に驚愕している。
その中私の反応が他の選考人と違うことに気づいた国王陛下は一人笑っている。
いくら見学とはいえ、神子に集中してください。
またため息を吐きそうになると、彼女が魔力測定器を置いた。
資料を持ち、彼女の魔力量を記入していく。
これで薬を使ったドーピングなら嬉々として報告したのに。
私は別に性格の悪い人間が嫌いなわけではない。
エリオ伯爵のような小物のような性格の悪さなら寧ろ好きの部類だ。
言葉の応酬ができる人間が性格のいい人間というわけでもないし、私も性格が悪い。
しかし、彼女の性格の悪さは別ものだ。
他人を蹴落とし、言葉だけでなく行動すら自重しない。
なにより、言葉の応酬をしようにも他人の言葉を聞かない。
ここが一番嫌悪する理由だろう。
人の話を聞かず自分の意見を押し通す。
言葉が好きな私との相性は最悪といって良い。
できればこの選考会以降私と接触は無いことを祈りたいが、公爵家の令嬢という肩書きと年齢が近いことから神子の話相手になってほしいと教会からお達しが来ている。
実に憂鬱だ。
別に私が話し相手になる必要は無いと思うのだが、前回の儀式で神子の助けをした令嬢が居たらしくそれに倣おうとしているらしい。
はた迷惑極まりない、と先祖に悪態をつく。
控え室に戻る彼女の背中を見つめながら6人目の候補者が彼女より魔力が多いことを切実に祈った。
しかし、望みとは儚いもので…
6人目の候補者は今回の候補者のまさに平均的な魔力量だった。
実に残念。ドーピングしてでも驚かせてほしかったのに。
選考人の感じから5人目の彼女で確定だろう。
候補者が戻ると選考人は会議の為に一度先ほどの控え室に戻るように指示される。
立ち上がる前にゆっくりと瞬きをし、魔力探知の魔法をいつもの気配だけにする。
再び目を開くとオーラは見えなくなり、どっと疲れが押し寄せてきた。
思わずあ゛ーと息を吐き出したくなったがそんなことを今世でできるわけも無く、心の中でよっこらしょと呟きながらも楚々と立ち上がり、神官案内のもと控え室に向かう。
「5人目の候補者できまりかのぅ」
控え室に戻り、最初に座った指定の席に着くと好々爺は本題に入る。
時間があまりないことからだろう。
一応好々爺は今回の選考会の代表のようなものだ。
「そうですね、彼女が一番大きな魔力でしたわ」
「異論ありません。まさに神の使いのようでしたし」
「私も同意見だ。ロズベルク嬢はどうかな?」
「私も異論はありませんわ」
性格は難ありだけどとは言わない。
神官たちも異論は無く、神子は早々に決定した。
神子が一致した選考人たちは口々に彼女の魔力の多さと容姿について褒めている。
他の選考人に彼女は緊張しながらも堂々としていたとべた褒めだ。
周りからそう見えていたのか。随分役者だな。
儀式まで王宮預かりになる神子だが、王宮に不穏分子をいれてしまったかもしれない。
殿下ごめんなさい、と心ばかりの謝罪をしておく。
国王陛下に謝らないのは日ごろの行いというやつだろう。
あの容姿と演技で王宮内が荒れないと良いが。
前世のどこかで読んだ小説を思い出しながらそんなことを思う。
5人目のべた褒めは時間いっぱいまで続けられた。
容姿が良いとは得なのだな。思わず皮肉を思ってしまう。
会場に戻り、神子を発表された時も見学に来ていた貴族たちに異論はなく、満場一致で神子は5人目の女性カリーナ・リエモラに決定した。
しかし、なるほど。カリーナ嬢は己の名前を呼ばれたときのうれし泣きですら嫌味がない。
オーラが見えないと瞳の中の自信さえ隠している。
これでオーラを見ていなければ私も騙されていたかもしれない。
素晴らしい才能だ。
神子が決まると、王宮内の会場で夜会が催されるのが恒例行事だ。
新たな神子を祝福し、その年の第一王子が神子とダンスを踊る。
夜会は三大公爵家は勿論、有名貴族は強制参加。
公爵家令嬢の私も勿論強制参加だ。
正直私は舞踏会を欠席し、屋敷に帰りベッドに入りたいのだが、それもできない。
へとへとの中、我が家から来たメイドに瑠璃色と紺碧色のグラデーションが鮮やかなベルラインのドレスを着せられる。
氷を司るロズベルク家は正式な場で女性は青のドレス。男性は青のチーフを身に付けるのが慣わしとされている。
「お疲れ様でございます、お嬢様」
「ありがとう。正直もう帰りたいのだけど…」
思わずため息を零すとメイドは苦笑を浮かべることで最大の労わりをくれる。
「お次はメイクです」
労わりはくれても参加なんですか、そうですか。
メイドにメイクをされながらやさぐれた心で分かりやすく拗ねるとメイドがまた苦笑する気配がした。
メイクが終わり髪を結ってもらっていると、コンコンと借りている衣装部屋をノックされる音が聞こえてくる。
「時間的にレイノかしら?」
時計を確認するともうそろそろエスコート役のレイノが尋ねてくる頃だ。
14歳に夜会デビューをしてからは婚約者ということで毎回殿下にエスコートをしてもらっていたのだが、今回殿下は神子のエスコートをするのでレイノにエスコートをしてもらうことになっている。
側にいた手伝いのメイドに頼み、ドアを開けてもらうと案の定居たのはレイノ。後ろには着替えということでレイノの元にいたリアンも居る。
「早かったわね」
「姉上をエスコートできるのに遅刻では格好が付きませんからね」
「そんなに気負わなくて良いのよ?」
「俺にとっては大切なことです」
そう嬌笑するレイノに居心地が悪くなる。
大人顔負けどころか壮絶な色気だ。
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