誑かした世界に終わりを告げて
01
この世界には数百年に一度、世界を被う結界を張り直す儀式がある。
ベレミア王国が主体となり遂行されるその儀式はとても神聖とされ、世界中が注目する。
儀式は16歳から20歳までの女性を推薦した上で厳密に選考し神子と定め、その神子に結界を張り直してもらう。
神子は一名とされ、神子に選ばれた女性は名誉と財産を手にすることができる。
このことから神子に選ばれたい女性は多い。
しかし、神子になる条件は魔力量がS+からという生まれながらの素質が必要なのだ。
神子に選ばれるのは最大のステータスになるが、勿論デメリットもある。
結界に大量の魔力をつぎ込むので良くてC、最悪の場合無まで魔力が後退するのだ。
文献には無にまで下がった者の記載はないが、恐らく過去にはいたのだろうと思っている。
隠匿されてしまっているのだろう。
神子は若い女性のみとされているのは、世界の創造主が女性神と伝えられ、神子は神の依り代とされるかららしい。
魔力量がAの私には蚊帳の外の案件のはずだが、完全に蚊帳の外とはいかない。
家柄と魔力探知の高い能力適正を見せたことから神子の選考人の一人に選ばれてしまったからだ。
魔力探知の能力は国が推薦した神子候補が薬などで魔力の増幅をしていないか等の見極めに必要とされる。
本来は20歳以上の国指定の魔力探知のプロフェッショナルが選考人にされるのだが、魔力探知自体がマイナーな魔法ということでプロフェッショナルとなると人数が少ない。
ましてや今回は名誉ある魔力探知の人物が老身により欠席することになり、深刻な人員不足になってしまった。
そこで白羽の矢がたったのが18歳になったばかりの私である。
魔力量はAで神子に推薦されることもない。家柄も文句なく、国王陛下も納得の人選ということで選考人に選ばれてしまった。
この際年齢は特例ということで国王陛下と父含め上の方々が了承してしまったのだ。
私のあずかり知らぬところで決まったことを帰宅してきた父に知らされたときは軽く殺意が沸いた。
しかし、国で決まってしまったことを覆せない。
しぶしぶ会議に参加し、とうとう当日になってしまった。
一人選考会場の王宮内の教会付近を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
振り返ると素晴らしい贅肉を腹に蓄えた丸まると小さな豚がいた。
豚はにやにやと笑いながら私に話しかけてくる。
「おやおや、浮かない顔ですな。ロズベルク嬢」
「あら、エリオ伯爵。ごきげんよう。えぇ、若輩者の私がこのような場に参加させていただくことに緊張しておりますの」
選考会の見学にきたエリオ伯爵だ。
選考会は貴族のみ一般公開されるのが慣わしなので、これを気に他の貴族に取り入りにきたのだろう。
「はははっ、若輩者など謙遜なさるな。特例で選考人に選ばれたのです。堂々となさってください」
「ありがとうございます。エリオ伯爵にそういって頂けて嬉しいですわ」
レースの手袋をはめた手を口元に持っていき笑いを隠す。
エリオ伯爵も恰幅のいい腹と重なったあごを揺らし笑う。
あぁ、楽しい。
エリオ伯爵の評判はすこぶる悪いが、こういう狸になりきれない人物との会話は馬鹿馬鹿しくて楽しい。
無駄な言葉の授受は私の生きがいだと思う。
「しかし、国王も思い切ったことをなさる。優秀とはいえ神子候補と同じ年の者を選考人になさるとは…」
「国王陛下の厚い慈悲の心に感謝しております」
お互い笑みを崩さずの応酬。
エリオ伯爵はこれが本題なのだろう。「小娘が国王陛下に取り入りやがって」といったところか。
瞳に嫉妬が見え隠れしていますよ。と言いたい。勿論言わないが。
エリオ伯爵ほどの小物など国王陛下は歯牙にもかけないだろうに。
「ヴィーラ様、お時間が押しております」
「あら、もうそんな時間?ありがとう、リアン。では時間が押しておりますので失礼しますわね」
一人脳内で悲哀の心を向けていると、どこからともなく現れたリアンに時間を指摘される。
突然現れたリアンにエリオ伯爵は驚愕の表情を浮かべているが、気にせず背を向け立ち去る。
「ヴィーラ様、遊ぶのも程々にしていただきませんと。それと当たり前のように私を撒かないでください」
「ごめんなさいね、つい楽しそうだったから」
リアンを撒いて教会近くを散策して遊び相手を探していたことに小言をもらってしまった。
折角の小物探しだったが一人で打ち切りは少し哀しいが、時間が押しているのも事実なので、後ろ髪引かれながらも選考人の控え室に向かう。
控え室に入れないリアンとは一度別れ、控え室に向かう途中神子候補らしき大きな目が特徴のかわいらしい女性とすれ違った。
随分大きな魔力だな。
控え室の扉を開くとまだ空席がある状態だった。
「先ほどはエリオ伯爵と楽しそうだったの、ロズベルク嬢」
指定された席に近づくと優しい顔立ちの老人に話しかけられる。
「少しお話していただけですわ」
「エリオ伯爵もお前に敵うわけないと学んだらいいのにな」
「いやですわ、勝ち負けなんてありません」
一度立ち止まり、好々爺に応えると今度は好々爺の向かい側から威厳に満ち溢れた中年の男性に話しかけられる。
微笑を浮かべ返答すれば微笑で返された。
選考人は5人。女性は50代の女性と私のみで、他三人は男性だ。
今居るのは私含め三人。
残りはもうそろそろで来るだろうと考えながら指定されている椅子に座る。
「そういえば先ほど神子候補と思われる方とすれ違いましたの」
「今回の神子候補は充実しているらしいぞ」
「今回といっても前の儀式は200年前のことじゃがな」
「そうですわね。とても大きな魔力を持っていましたわ。レイノと同じ位じゃないかしら」
「それは、それは…楽しみじゃの」
そう三人で笑っていると他の二人が一緒に入ってきた。
「あら、楽しそうですね」
「あぁ、なんでもロズベルク家のご長男と同じくらいの魔力をもった候補がいるらしい」
「そうなんですか!それは楽しみだなー」
親しみ深げな中年の女性と一緒に入ってきた爽やかな印象の30代の男性。
これで選考人は全員。
20歳以上とは言われてもやはり年齢層は高い。
後から入ってきた二人が指定の席に座ると選考会開始時間まであと少し。
もうそろそろ神官がきて選考会が始まるだろう。
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