誑かした世界に終わりを告げて

山永

12



図書室の研究部屋とは図書室の奥にある魔法を通さない材質の石を使った特殊な部屋だ。
あまり頻繁に使われないが、レイノとの魔法練習の時にごく稀に使ったりする。


「後で神官が監査に来る魔法だ。幼い内からやる魔法でもない。それでもいいのか?」


「えぇ、構いませんわ」


「俺が言い出したことです」


彼の敬語に少し驚いたが、二人とも覚悟は決まっている。
問題はない。


見学に来たレイノと使用人たちのほうが私たちより緊張した顔をしているのが何故だか笑えた。


一度深呼吸をし、頭の中にある陣を思い出す。
研究部屋にあるチョークを持ち、魔法契約に必要な陣を床に描き始める。


途中父に訂正を受け書き直したが陣は完成し、二人で陣の中央に立つ。


「覚悟はいいかしら?」


「最初から覚悟は決まっている」


「頼もしいわね」


クスリと笑い、ナイフで指を切り魔力を込めながら陣に落とす。
血が陣に落ちた。血に反応した陣は淡い光を生み出す。
ナイフを彼に渡し、彼も指を切り血を陣に落とすと光は強くなった。


ここまで来ればもう後戻りはできない。
さぁ、前世から貴方の望んでた契約をしましょうか。


「魔法契約の元、我に契約を誓え」


「ヴィーラ・ロズベルク様に永劫の誓いを」




「よろしく、リアン」




彼の新たな名前を呼んだ。


その瞬間、陣は眩い光を放つ。
陣が光を放つ前に見たレイノと使用人たちの顔は見ものだ。あそこまで驚いてくれるとは。


光に包まれながら思い出し笑うが、ここからが難しいところだ。
気を引き締め、リアンの魔力を探る。


レイノより大分少ない魔力を見つけ、その方向に手を伸ばす。
リアンに手が触れる感覚がした。その感覚のまま体の中に手を入れるように魔力を込めると暖かな感触。
その感触に魔力を込めると陣の光は一気に弾けた。




弾けた光の眩しさに目を瞑り、思わず陣に座り込んでしまった。
目が慣れるまで暫し待ち、ゆっくり目を開ける。


「大丈夫ですか?」


「…け、いごなのね」


「契約をした以上そのほうがいいかと」


座り込んでしまった私の前に出された手をなぞると、青紫の髪、そして深緑の瞳。
新たなリアンを見つめ少し固まったが、これくらいの違いはいいかと思い、手を取り立ち上がる。


「契約は成立したの?」


この契約魔法はお互いの名前を呼んだ後からが難しい。
リアンにはあらかじめ名前を教えておいたので名前までは問題なかったが、僕側の魔力の源に己の魔力を注入し、魔力を刻み付ける工程が難易度を上げている。
失敗してしまえば僕側が怪我を負う。見たところリアンに新たな流血は見られない。
感触はあったが、不安は拭われず表情に出てしまっているのが分かる。


「成功したな」


リアンに確認したつもりだったが父が答えてくれたことで見物人の居たほうに視線を移した。


見物人の顔は実に様々だった。
父は関心したようにうっすらと笑い、レイノは苦虫を噛み潰したような表情をしてるし、使用人はそれこそ様々だ。
父のように関心したような顔もあれば、レイノのように苦い顔を浮かべている者、いつもの無表情を貫こうとしている者、尊敬の眼差しを向けるのはやめていただきたい。


「姉さま、本当にその名前でいいんですか?」


「いいのよ。この名前のほうが道を忘れずに済みそうじゃない」


「…姉さまはそうおっしゃるなら」


納得しきれていません、という顔を崩さないレイノに苦笑を浮かべてしまう。


父は勿論レイノも使用人も半年前の出来事もリアンの名前も知っている。
だからこその驚きからの心配なのだとは分かっている。


ましてや彼は彼、リアンはリアンと言ったのはさっきのことだ。それは心配になるだろう。
弟にこんなに心配されてしまうとは、駄目な姉かしら。


レイノの元に歩み寄り、不安を拭うように頭を撫でたら抱きついてきたレイノを抱きしめかえした。


「これでリアンはヴィーラの従者になったわけだが、配属はヴィーラの護衛に回していいな?」


「承りました」


レイノを抱きしめている後ろで見学していたエーリクに確認している父。
リアンの配属は私の護衛部隊に決まったようだ。


翌日、やはり神官が我が家に監査に来た。
契約者が私とおおよそ10歳らしいリアンだと分かると驚愕していたが、面談の後問題なしと見なされ、晴れてリアンは私の従者になった。






「懐かしいわ」


「なにがですか?」


「貴方が来た頃を思い出してただけよ」


「それはまた懐かしいですね」


いつかの日のように椅子に腰掛け、窓を見ていた私の独り言に応えるのはメイドではなくリアン。
あれから丁度10年。
私は18歳、リアンは20歳。レイノももう16歳になった。


今世に生まれて18年はなんともあっという間で、でも前世の生きていた時より充実していて。
けれども…その時間もあと少しなのだろう。




『罪は罪。でも猶予期間をあげるよ』


あの契約まであと少し。



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