誑かした世界に終わりを告げて

山永

08



「そういえばヴィーラ、貧困街の改革は大分順調みたいだね」


国王陛下の一言で場が凍った。
レイノかお父様が氷魔法を使ったのかと思うほどカチンと凍ったのだ。


国王陛下と父の傍にいたテオドルも、給しをしていたメイドも、食事をしていたレイノも、殿下も。そして勿論私も。
発言元の国王陛下と父以外の食堂にいた人間が見事に固まったのだ。


一瞬硬直したが、すぐに気を取り戻す。
ばれているのは分かっていたが、場所がいただけない。
何故今、この場でばらしたのか。国王陛下の顔を軽く睨みながら表情を伺うと、愉快そうに周りの反応を見ている。
そういうことか、畜生。


周りの人間が知らないから殿下もいるこの場でばらした…
本当にこの人は性格が悪い。
ここで知らぬふりをしても真実である限り嘘は長続きしない。
前は気を反らせる材料があったが今はない。つまり言い逃れが難しい。本当に憎たらしいな。


「ここで恨み言一つ漏らしても私はいいのでしょうか」


「君の恨み言は精神にきそうだな」


嫌悪の表情を浮かべ遠まわしに肯定すると周りの視線が私に刺さった。
周りの反応に国王陛下はより楽しそうに笑う。


「ヴィー…どういうことだ?」


「そのままの言葉だよ、セス。ここ数年の貧困街の発展はヴィーの尽力のおかげなんだ」


殿下の問いに答えたのは私ではなく陛下。その言葉に無表情がデフォルトの使用人は驚愕を浮かべ、レイノと殿下は言葉を失った。


「最近では貧困街、いや元貧困街の住人の作る物は質が良いと市場で引っ張りだこらしいじゃないか」


「その件は住人たちが率先してやっていることですわ」


「それでも知恵をあげたのは君だろう?」


父と国王陛下の尋問に苦笑いしか浮かばない。
書斎ならいざ知らず、この視線の中で戸惑いなく答えられるほど図太くはない。
レイノの泣きそうな顔が視界に入る。今まで私が抜け出し、どこに行っているか知らなかったのだろう。
騙していたわけではない、言わなかっただけだ。


「姉さま…なんてところに!!」


「落ち着きなさい、レイノ。危険なことなんてなかったわ」


「そういうことじゃないだろう!」


「大丈夫です、殿下。私はいつもレイノと魔法訓練しているのですよ?」


「それでも、お前は女性でまだ子供だろう!!」


「そうです!なにかあったらどうするつもりですか!!」


「なにかあっても潜り抜けられるだけの狡賢さは持っているつもりです」


レイノを皮切りに今度はレイノと殿下の尋問が始まった。しかし、私の狡賢さの発言に一瞬周りに納得の空気が流れたのは気のせいではないはずだ。
国王陛下なんてうんうんと頷いている。


しかしそれでも納得がいかないのか、レイノと殿下は言葉を探している。


「旦那様発言をしてもよろしいでしょうか?」


「あぁ」


少しの沈黙の後テオドルが珍しく発言の許可を父に乞うた。


「お嬢様、城下町までなら我々も黙認してきました。しかし、いくらお嬢様の尽力で治安がよくなったとはいえ、これからも元貧困街に赴くのならば護衛をつけられてはいかがでしょう」


「テオドル!!!」


「坊ちゃま、我々は知っているのです。お嬢様が屋敷のそこかしこに抜け道を作っているのを。その数は我々も把握しきれていません。庭師も分からないと申しております。その数が把握しきれていない以上お嬢様の外出を制限をすることが出来ません。そしてお嬢様は一度も勉学の時間に穴を開けておりません。最低限をこなされていらっしゃるので我々はもうなにも言えないのでございます」


流石うちの優秀な使用人だ。抜け穴まで知られているとは。
テオドルの言葉に周りがまたも沈黙する。
いや、国王陛下の押し殺した笑い声以外に…と付け足しておこう。


「ここまで要領がいいと恨み言も小言も続けられないな…」


殿下の独り言に納得の空気が流れる。


こうして私の8歳の誕生日に特殊部隊、別名お嬢様のしかたなく護衛部隊が発足したのだ。






***


「それじゃあ護衛の意味がないんですがね」


過去を思い返していると、護衛部隊長のエーリクが苦言をもらした。


エーリクは普段執事副長を務めている。しかし、テオドルが優秀なのでそれほど仕事が回ってこないらしい。
齢35歳。一見地味に見える見える容姿をしているが、良く見ると二重でパッチリとした目が特徴のやや童顔の容姿をしている。
この若さで公爵家の執事副長を務めるだけあってとても優秀だ。子供のお守りなんて雑務を押し付けられてかわいそうに。


「ごめんなさいね、さて帰りましょうか。申し訳ないけれど、明日もお願いするわ」


「了解しました」


エーリクは両手を顔まで上げ、やれやれといった風に呆れる。


エーリクは童顔の見た目の割りに豪快な性格をしており、我が家の使用人にしては表情を良く出すし、砕けた口調をする。
私はそれがとても好ましい。


私が見えたと同時に魔法で連絡を取ったのだろう、他の護衛が戻ってきたのを察知して私たちは歩きだした。



「誑かした世界に終わりを告げて」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く