誑かした世界に終わりを告げて

山永

02

魔法についてはひとまずお終いにし、今度は我がロズベルグ家の話をしよう。




離婚してから父の帰宅回数は増えた。
現在は繁忙期でなければ毎日帰宅してくる。
そんな父に月に一回ほどの頻度で帰宅ドッキリをするのが私の楽しみだ。


帰宅ドッキリはその時私が思い浮かんだアイデアをレイノ、使用人を巻き込み実行する。


ある時はレイノに頼んで玄関の前に公爵家を模した氷像を建築したり。能力の無駄だと呆れられた。
またある時は使用人と協力して結界で家に入れなくしたり。普通に突破された。
その他にも玄関にcloseの看板を下げてみたり。幻覚で廃墟化してみせたり、氷の道を家の中に作ってみたり、玄関を開けると床一面に薔薇が敷き詰められてみたり等々。
本当に些細な、でも労力は使う悪戯を考えて実行しているのだ。


そもそもなんで悪戯を始めたかというと、意外に真面目な理由だったりする。
レイノの魔力量が分かった頃、魔法の先生にあることを言われたのがきっかけだった。


「魔力量の多い者は幼い内はコントロールが難しく、常に魔力が流れ出ているものなのですよ。
一つの所に留まると魔力が充満してしまい、その場所で魔法を使うと大変危険なのです。
レイノ様も例外ではないので、ヴィーラ様もその点はお気をつけくださいね」


「あら、ではレイノとあそぶときはまほうをつかってはいけないの?」


「そうですね、控えた方がよろしいかと。
レイノ様がコントロールを身につければ自ずと魔力の放出も収まるものですので、もう少し辛抱なさってください」


それを聞いて私の前々からの計画に大義名分ができた。
父の凝り固まった表情筋を動かす悪戯に弟も使用人も巻き込める大義名分が。


弟の魔力コントロールとして父に披露するのに、どうせなら驚くような事をしたいと、いかにも正当そうな理由で弟を言いくるめる。
最初使えてる主を騙す等恐れ多いと言っていた使用人は「おとうさまのひょうじょうがいえのなかだけでもゆたかになればとおもったのだけど…」と健気そうな風に言ってみたら簡単に落ちた。それでいいのか我が家の使用人たち。
今では使用人も無表情の中に楽しさが感じられるようになったけど。




しかしそれが仇になる日が来るなんて…




今回は今までになく力を入れていたのだ。


父の帰宅を察知した私は使用人を配置に付かせレイノの間合いまで詰め、今か今かと玄関が開くのを待っていた。
玄関に手がかかり、数センチ開くのを確認してからレイノに合図を送る。




使用人たちが赤いものを滴らせながら床に力なく横たわる玄関。
その真ん中で氷の剣を構えるレイノと立ちはだかる私。


「レイノ!!やめて!」


「いやだ!ねえさまなんていなくなっちゃえ!!!」


必死にな形相で説得する私にレイノはそう言って氷の剣で私に襲い掛かった。
迷いなく私の心臓を狙い、剣は私に食い込む。


一瞬、前世が思い出させるが考えを振り払い氷の剣と自身を血糊で盛大に染めながら力なく倒れる。
そして、崩れ落ちるレイノ。


中々名演技になったなと自画自賛してみる。


「ほう、今日はいつになく盛大だな」


「いやいや!ちょっとまて、リク!!」


お父様の関心した声と見知らぬ気配に声。
いや、声は実に聞き覚えが…


まさかと思い、玄関に目を向けると金糸の美しい髪が輝いていた。


金糸の髪は希少性が高く、そうそう生まれない。ましてやくすみ一つない鮮やかな金糸なんて王族の直系の代表的な特徴。
そして父と似通った体躯。そこから出る結論はつまり…
ベレミア王国、国王ライリー・ベレミア・アールトラハティー様ただ一人。


無言で立ち上がる私とレイノと使用人たち。
すぐさま普段の配置につき、正式な礼をとる。


「おみぐるしいところをお見せしました、国王へいか。
ロズベルク家長女ヴィーラ・ロズベルクともうします」


「ちょうなんのレイノ・ロズベルクです」


レイノも私に倣い4歳とは思えない淀みない礼をとる。
あまりの変わり身の早さに一瞬呆気に取られた国王陛下だが、すぐに私たちに笑みを浮かべた。


「入ってきていきなり何事かと思ったが、中々斬新なお出迎えだね」


「おはずかしいかぎりです」


俯き加減に答える。
いくら歳が同じで幼少期から共に育った父の所だとはいえ、国王がアポもなしに来るとは誰も思わないだろう。
よりによって何故今日なのか恨めしげに父を見ると珍しくも口角を上げ、こちらを見ていた。


本当に何故今日なのですか、お父様。


ベレミア国王と言えば世界の代表とする方だ。
特に現国王ライリー・ベレミア・アールトラハティ様は25歳という若さで国王に就任されてから様々な功績を挙げ賢王と名高く、麗しいお姿だけでなく、フェミニストで紳士と国民からの支持も高い。
王族特有の曇りない緩く癖のかかった金糸を襟足まで伸ばし、長めの前髪を横に流したシックな髪型に涼しげな目元と朝露を浴びたような淡い緑の瞳。
優しさを感じる顔立ちの中にある威厳。
非の打ち所はなく、建国以来の賢王と云われているこの方との初対面がこんな形になるとは。


恥ずかしい以上に初対面が悪戯現場だというのがプライドを刺激する。
初対面とは第一印象が決まるところ。
人と接する上で最も肝心なものだ。そして前世で私が一番重要としていた事柄でもある。
それを他人に崩されるのはどうにも許せない。


悔しそうな雰囲気が分かったのか父はより一層口角を上げながら国王来訪の理由を口にした。


「ライがカナリアに会いたいと言って来てな、急遽連れてきた。
国王ではなく私の友人としての招待だからそこまで畏まらなくてもいい」


「そういうことだ。いつも通りにしてくれてかまわないよ」


無理があります、お父様。
しかし、我が家の優秀な使用人たちはその言葉で各自仕事に戻っていく。
私も使用人たちを見習い、悔しさを隠すことにした。


国王陛下も父も晩餐がまだということで、食堂に案内する後ろに私とレイノが続く。


玄関が未だ血糊で悲惨なことになっているが、掃除は使用人に任せよう。
普段は汚した私も少し手伝うようにしているのだが。


それにしても、カナリアに会いにきたということはもしかしなくても私のことですか。
王宮でもそう呼ばれてる事に顔に血が上るのがわかった。


私にも羞恥心というものはあるんですよ、お父様。


食堂につけば、晩餐が丁度並べ終わったところらしく、すぐに食事にが始まった。


毎日のことだが、貴族のトップの家ともなると食事はとても豪華だ。
新鮮な野菜を使ったサラダにコクのあるスープ。毎日焼きたてのパン、柔らかく焼かれた肉に濃過ぎず味付けされた魚。食後のデザートは毎回手が込んでいる。


ロズベルク家お抱えの料理人たちが作る旬の食材を使った料理は絶品で私を飽きさせないが…
前世はそこそこ稼いでいたとはいえ、所詮庶民。それも埃まみれの庶民だったからか、どうにもこの豪華絢爛な食事と暮らしが6年経っても慣れない。


たまに無性に安っぽいものが食べたくなるのは元庶民の性だろうか。


途中途中会話を挟みながら晩餐は残すところデザートのみとなった。
デザートが運ばれてくるのを待っていると、国王陛下はおもむろに私に会話を振ってきた。


「ミス・ロズベルク。いや、ヴィーラと呼んでもいいかな?」


陛下の提案に微笑みを浮かべ了承をする。


「こうえいにございます、国王へいか」


「硬いなー。流石リクの子と言ったところか?
国王陛下ってのも堅苦しいし、俺のことはライリーと呼んでもらおうかな」


6歳児らしくない返答だったのだろう、苦笑を浮かべた後とんでもない提案をされてしまった。


「もちろんレイノも呼んでくれてかまわないよ」


私の隣で大人しくしていたレイノに微笑みを向ける陛下。
まだ幼いレイノは困惑の表情を浮かべ、私に視線で助けを求めてくる。
かわいい弟の視線と国王陛下の楽しげな視線に負けて、私は口を開く。


「ごこういありがとうございます。ではお言葉にあまえてライリー様と、およびさせていただきますわ」


「うん」


子供に名前を呼ばれて何が嬉しいのやら、輝く笑顔を浮かべる国王陛下改めライリー様。
後ろに後光が差してるのは光魔法の恩恵か幻覚だと思いたい。


そんな会話をしているとデザートが運ばれてきて、その後は特に無茶振りをされることなく晩餐は終わった。





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