誑かした世界に終わりを告げて
プロローグ
アスファルトに溶けていく雪とともに私の命も溶けていく。
昔から言葉が好きだった。人と関わるのも好きで息するように誇張も嘘も吐いていた。
元々家庭環境が良くなかった所為か嘘をつくことに慣れ、人を騙す事もなんとも思わなかったからか詐欺師になるのも抵抗が無い。
だからか特に大きな恨み等無かったが詐欺師が職業になっていた。
人を騙したお金で買ったお酒をぶら下げ帰宅する夜道、呼び止められたのに振り向いたのが運の尽き。
私に誑かされた被害者と思われる人間に腹部を刺された。
痛みで蹲る私。しかし被害者だと思われる人間はそれでは治まらないのか馬乗りになり、更に包丁を振り上げ何度も何度も私の体を刺す。
肩で息をしながらも滅多刺しにしする。
刺し傷が十数か所に達した頃人間は暗い光の宿らない目で私を見下ろし走り去っていった。
雪が深々と降る暗澹な小道に広がる朱。悪党にはお似合いの最後かもしれないな、と動かない唇で呟き雪とともに命が溶けた。
と、言うのが私の前世。
今世はなんとお貴族様。しかも公爵家第一位の生粋の貴族。
記憶を持ったままの転生なんて、小説にそんな設定があったな、と知識の一環として読んだサブカルチャーを思い出す。
他にも異世界トリップなんかも読んだ気がする。
趣味じゃなかったからそんなに覚えてないけどね。
「お嬢様?どうかなさいました?」
窓に黄昏ながら昔の記憶を思い出していると、メイドが話しかけてきた。
「いいえ、なんでもないわ」
やや素っ気無く返し、今度は生まれた日のことを思い出す。
***
生まれてから1年は記憶が無い。
自我なんて無いからか、そこらへんは曖昧だ。
私が記憶を取り戻したというか、元からあったというか、前世の記憶は何かの拍子に思い出したというわけでもなく、自我が芽生えるとともに自然と側にあった。
父は多忙で家に帰ってこない、母は父に取り入ることに必死なのか、私の世話は使用人にされた記憶しかない。
言葉を覚え、字が読めるようになると夢中で本を読み、この世界の知識を集めることに没頭した。
父はこの国の宰相らしい。
多忙だからか帰ってくることが自体稀。帰ってきてもいつも書斎に引きこもり、家族との会話なんてしなかった。
言葉を話すことに至高の喜びを見出す私は、使用人だけしか話す相手のいない生活に不満を抱いていた。
母は話してもつまらない人間と位置づけられたし、母も私に関心がない。
だから、父が帰ってきた時に書斎に引きこもるはチャンスだと思った。
その時読んでいる本を抱え、書斎に赴いた。
最初父は面倒そうに、首根っこを摘み追い出そうとした。
私は猫の子じゃない!
扉の外に投げ出されて扉を閉められそうになって流石に焦り、子供の体ということを忘れ、前世でセールスマン詐欺をしていた頃にやった足のねじ込みをしていた。
当然、子供の力で大人の男の力に敵うわけもなく、足は挟まれ、激痛が走る。
父は驚愕を顔に浮かべ、扉から力を抜いた。
すかさず書斎に滑り込み、「おまねきありがとうございます、おとうさま」と宣う。
後から聞けば、冷静沈着、無表情のがデフォルトの父も呆気に取られる奇行だったらしい。
ため息を零した父は今度は追い出そうとせず、取り合えず話を聞いてくれるつもりになったみたいだ。
「招いた覚えは無いが?」
「あら、とびらからちからをぬいたので、まねかれたのかとおもいましたわ」
微笑みを浮かべ、手を口元に持っていき、令嬢らしい笑い方をする。
2歳児になったばかりの子供らしくないとか知らない。
「それで、こんな暴挙までして私に何のようだ」
「おとうさまとおはなしがしたくて…。さいきんこのようなほんをよんでいますの」
不機嫌さを隠しもせず、見下ろしてくる父に、その時読んでいた中でも難解な本を一冊手渡す。
父は訝しがりながらも本を受け取り、パラパラと捲る。
ある程度読んでから本を返してきた。
「座れ。話くらいなら聞いてやる」
この日から父がたまに帰って来ると私は書斎に入り浸り、寝ろと責付かれるまで話す日々が続いた。
父との会話は中々に楽しい。宰相だけあって知識は幅広いし、日ごろ私の大好きな狸達と会う機会が多いから言葉の裏を読むのがうまい。
家に帰ってくれば狐が待っているという言葉をもらったが、褒め言葉だ。
それに父も楽しそうにしていると思うし問題ないだろう。
因みにねじ込んだ足は翌日見事に腫れました。
罪悪感があったのか、後日かわいいくまのぬいぐるみを抱え帰宅してきた父に申し訳なくも噴出しそうになったのは秘密だ。
くまのぬいぐるみを買い与えられた私を見た母は父がとられたと思ったのか、私に敵対心を抱くように私に辛辣に当たるようになった。
どこの世界も女というのは醜い。前世の母親も碌でもなかったが、今世も母親には恵まれなかったようだ。
父との会話も徐々に増えてきた3歳間近の頃、弟が生まれた。
公爵家の跡取りが生まれたからか、父は離婚を決意。
私にも情け程度にお伺いを立ててきたが、母との会話ほどつまらないものは無いので、離婚を推奨しておいた。
離婚は母が縋り付く以外特に問題なく進み、晴れて父子家庭が成立。
父は家に帰ってくることが多くなった。
ふにゃふにゃの弟は可愛く、前世ではなかった子育てに奮闘する。
まぁ、優秀な使用人のおかげでやることは弟を構い倒すだけだが。
そして現在6歳。
公爵家の暮らしは充実しています。
昔から言葉が好きだった。人と関わるのも好きで息するように誇張も嘘も吐いていた。
元々家庭環境が良くなかった所為か嘘をつくことに慣れ、人を騙す事もなんとも思わなかったからか詐欺師になるのも抵抗が無い。
だからか特に大きな恨み等無かったが詐欺師が職業になっていた。
人を騙したお金で買ったお酒をぶら下げ帰宅する夜道、呼び止められたのに振り向いたのが運の尽き。
私に誑かされた被害者と思われる人間に腹部を刺された。
痛みで蹲る私。しかし被害者だと思われる人間はそれでは治まらないのか馬乗りになり、更に包丁を振り上げ何度も何度も私の体を刺す。
肩で息をしながらも滅多刺しにしする。
刺し傷が十数か所に達した頃人間は暗い光の宿らない目で私を見下ろし走り去っていった。
雪が深々と降る暗澹な小道に広がる朱。悪党にはお似合いの最後かもしれないな、と動かない唇で呟き雪とともに命が溶けた。
と、言うのが私の前世。
今世はなんとお貴族様。しかも公爵家第一位の生粋の貴族。
記憶を持ったままの転生なんて、小説にそんな設定があったな、と知識の一環として読んだサブカルチャーを思い出す。
他にも異世界トリップなんかも読んだ気がする。
趣味じゃなかったからそんなに覚えてないけどね。
「お嬢様?どうかなさいました?」
窓に黄昏ながら昔の記憶を思い出していると、メイドが話しかけてきた。
「いいえ、なんでもないわ」
やや素っ気無く返し、今度は生まれた日のことを思い出す。
***
生まれてから1年は記憶が無い。
自我なんて無いからか、そこらへんは曖昧だ。
私が記憶を取り戻したというか、元からあったというか、前世の記憶は何かの拍子に思い出したというわけでもなく、自我が芽生えるとともに自然と側にあった。
父は多忙で家に帰ってこない、母は父に取り入ることに必死なのか、私の世話は使用人にされた記憶しかない。
言葉を覚え、字が読めるようになると夢中で本を読み、この世界の知識を集めることに没頭した。
父はこの国の宰相らしい。
多忙だからか帰ってくることが自体稀。帰ってきてもいつも書斎に引きこもり、家族との会話なんてしなかった。
言葉を話すことに至高の喜びを見出す私は、使用人だけしか話す相手のいない生活に不満を抱いていた。
母は話してもつまらない人間と位置づけられたし、母も私に関心がない。
だから、父が帰ってきた時に書斎に引きこもるはチャンスだと思った。
その時読んでいる本を抱え、書斎に赴いた。
最初父は面倒そうに、首根っこを摘み追い出そうとした。
私は猫の子じゃない!
扉の外に投げ出されて扉を閉められそうになって流石に焦り、子供の体ということを忘れ、前世でセールスマン詐欺をしていた頃にやった足のねじ込みをしていた。
当然、子供の力で大人の男の力に敵うわけもなく、足は挟まれ、激痛が走る。
父は驚愕を顔に浮かべ、扉から力を抜いた。
すかさず書斎に滑り込み、「おまねきありがとうございます、おとうさま」と宣う。
後から聞けば、冷静沈着、無表情のがデフォルトの父も呆気に取られる奇行だったらしい。
ため息を零した父は今度は追い出そうとせず、取り合えず話を聞いてくれるつもりになったみたいだ。
「招いた覚えは無いが?」
「あら、とびらからちからをぬいたので、まねかれたのかとおもいましたわ」
微笑みを浮かべ、手を口元に持っていき、令嬢らしい笑い方をする。
2歳児になったばかりの子供らしくないとか知らない。
「それで、こんな暴挙までして私に何のようだ」
「おとうさまとおはなしがしたくて…。さいきんこのようなほんをよんでいますの」
不機嫌さを隠しもせず、見下ろしてくる父に、その時読んでいた中でも難解な本を一冊手渡す。
父は訝しがりながらも本を受け取り、パラパラと捲る。
ある程度読んでから本を返してきた。
「座れ。話くらいなら聞いてやる」
この日から父がたまに帰って来ると私は書斎に入り浸り、寝ろと責付かれるまで話す日々が続いた。
父との会話は中々に楽しい。宰相だけあって知識は幅広いし、日ごろ私の大好きな狸達と会う機会が多いから言葉の裏を読むのがうまい。
家に帰ってくれば狐が待っているという言葉をもらったが、褒め言葉だ。
それに父も楽しそうにしていると思うし問題ないだろう。
因みにねじ込んだ足は翌日見事に腫れました。
罪悪感があったのか、後日かわいいくまのぬいぐるみを抱え帰宅してきた父に申し訳なくも噴出しそうになったのは秘密だ。
くまのぬいぐるみを買い与えられた私を見た母は父がとられたと思ったのか、私に敵対心を抱くように私に辛辣に当たるようになった。
どこの世界も女というのは醜い。前世の母親も碌でもなかったが、今世も母親には恵まれなかったようだ。
父との会話も徐々に増えてきた3歳間近の頃、弟が生まれた。
公爵家の跡取りが生まれたからか、父は離婚を決意。
私にも情け程度にお伺いを立ててきたが、母との会話ほどつまらないものは無いので、離婚を推奨しておいた。
離婚は母が縋り付く以外特に問題なく進み、晴れて父子家庭が成立。
父は家に帰ってくることが多くなった。
ふにゃふにゃの弟は可愛く、前世ではなかった子育てに奮闘する。
まぁ、優秀な使用人のおかげでやることは弟を構い倒すだけだが。
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