言葉を言葉にしたい

黒虱十航

好き

俺が目を覚ましたのは、夏花が料理を作り終えてからだったそうだ。
心に少しの迷いが出来る。迷いを振り払い食卓に座る。
「「メニューはシチューとハンバーグなんですけど嫌ですか?」」
夏花がメールで尋ねてくる。
夏花の作ったシチューは、外見からして美味しそうだ。
いわゆる「よだれがたれるほど美味しそう」
というのは、こういうことなのだろう。
「いやシチュー好きだし。んじゃいただきます」
俺は夏花の問いに答え手を合わせてあいさつをした。
それに続き夏花も手を合わせる。声は出さないがあいさつしているようだ。
スプーンでシチューをすくう。少しの量を口に入れる。
口に入れた瞬間口全体に滑らかな味が広がる。
否一言で言うなら「旨い」
「うん。美味しい。夏花料理上手いんだな。」
俺は、夏花をこめる。味も美味しいのだが
何より温かい心のぬくもりを感じる。
愛情などおそらくこもってはいないだろうが
それでもこれほど心のこもったものいつから食べていないか。
少しずつゆっくりと飲み込む。
次にハンバーグをゆっくり切って口に入れる。
中から肉汁がたっぷり流れてくる。
そもそもこんな立派なもの食べたことがあるだろうか
そういえば母に連絡しなければ
いやそんなこと今は考えまい。
ただただ料理を味わおう。
食事を口にすればするほど心が浄化される。
30分ほどで食べ終わる。
「美味しかった。久しぶりだなこんなに食べたの。
いつもは、全然美味しく感じないのにな。
なんか夏花の料理優しい感じがするな。
なんというか思いがこもってるって言うか
まあ気のせいかな」
俺がつぶやく。すると夏花からメールが来る。
「「いえ気のせいじゃないです・・・
頑張って作りましたから・・・・・・」」
なんとなく気まずくなる。理由は定かでないが。
「えっとじゃあ洗い物はするよ。」
何とか気まずい雰囲気を打ち破る。
食器を回収しキッチンにある水道で洗う。
洗い終わると俺は何故か挙動不審になっている
(いつもそうと言えばそうだが)夏花に声をかけた。
「えっとじゃあやろっか。ピアノはどこにある?」
すると夏花は、歩き出す。俺もついて行く。
階段を上りすぐ目の前の部屋に入る。
そこには、ピアノがあるだけだった。
「「母がピアニストで私にもその道を歩ませようとして
ピアノだけは置きなさいって言うので・・・」」
夏花からメールが来る。
俺は、ピアノに触る。
「よしじゃあやろうかじゃあまず第1シーンから」
俺が言うと夏花は、メールを送ってくる。
「「あのその前にピアノ聞かせてもらって良いですか?
やる前に聞いておきたくて」」
そのメールを見て俺は言う。
「分かったけどそんなに上手くないぞ
じゃあ曲のベースをなんとなく作っていきながら弾くから
まあ夏花は聴いてくれればいいよ」
俺は、なんとなくさっき送られてきた物語をイメージして
音を鳴らす。作曲をしたことなんかない。
でもあの物語をイメージすると指が体が勝手に動く。
いやあの物語をイメージしているんじゃない
夏花と合唱大会の担当になって悔やんで
いろんな人巻き込んでそれで今曲を作ろうとしている。
そんな事に感謝を。ううん。感謝を越えて何かを捧げたい。
この感情は難だろうただただ涙がこみ上げる。
苦しい。でもうれしい。
そう思うたびに感情が爆発する。頭の中には
楽譜が現れ続けどんどんと記録されていく。
もっと。もっと強い感謝を。それを越えた何かを。
涙を我慢するたびにその分の感情が指にこもる。
いままで俺がやったこと。全部への悔い。
ううん。そんな感情じゃない。もっと大きくて。
もっと優しい。約束を守るだけじゃない。
何だろうこの気持ち。
何だろう。何だろう。何なのかわかんないけど
でもうれしい。もしかしてこれこそが
こ・・・い?
いやそんなはずはない。だってだってだって。
あれ言い訳できることがない。
考えれば考えるほどそうなんじゃないかって
思ってしまう。でも好きになんかなったら。
そんなことしたら・・・・
目の前が真っ暗になる。
そして余韻が過ぎ去りピアノを弾き終えた。

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