言葉を言葉にしたい

黒虱十航

親友だもんな!

夏花は、叫んだ。
その声は、大きくも無く小さくも無く
だからといってちょうどよいとも言えず
強い声でもなく細くも無く太い声でもなかった。
優しい声。そういってしまえば簡単だ。
しかしそれ以上の。
それよりも大きな何かがあった。
また、背中を押してもらってしまった。
サポートするとか言いながらサポートされているのはこっちだった。
「そうだよな。皆でやってれば岩崎も答えてくれるよな。
分かった。でも皆の前で全員やんないと意味無いって言ったから。だからごめん」
俺が言う。夏花は、かろうじてしゃがみ意識を保ったままメモを書いた。
「「だから、ほかの人でやっていれば
岩崎君もやってくれます。なのでお願いします。」
俺は、そのメモを読み終わる前に言う。
「もちろんやるよ。一度通した筋を曲げるわけにも行かないからな。
でも、こっちも、岩崎を参加させないとその筋曲げてるのと同じだからさ
だから、3日、3日でいいから待ってくれ。それで間に合わなかったら
諦める。だから頼む」
皆でやりたかった。初めて皆と向き合えた気がしたから
だからこそ皆と一緒に成功させたかった。
~1人だって欠けちゃいけないんだ
               皆でやんなきゃ意味が無いから
                             違う。俺が皆とやりたいから~
夏花は、こちらをただ見ていた。
~信じるから~そんなことを訴えながら・・・


全授業が終わった。
今日もまた家に帰らなきゃならない。
その前に俺は、岩崎を説得しに行った。
岩崎は、サッカー部の練習をしている。
「声出せ声!」
岩崎が真剣な声で言う。
奴が岩崎が悪い奴でないことは、知っている。
奴と同じ中学だったから。
しかも親友と言えるほどの仲だったから。
でも奴は、サッカーにのめりこんだ。
奴は、もともと俺とつるんでた馬鹿な奴らの一人だった。
でも奴は、サッカー部にスカウトされた。
始めは、乗り気じゃなかった奴も
どんどん乗り気になりいつしかサッカー部の若きキャプテンだ。
「はぁ変わっていくんだよな。」
奴の変わりようにはため息が出る。
2時間待った。岩崎は、ミーティングもするらしくやけに時間が掛かったが
やっと終わった。
俺は、岩崎が一人になるのを待つ。
半ストーカー状態だった。
踏切の前でようやく一人になる。
「なあ岩崎」
俺が声をかけると岩崎は、しまっている踏切に向いていた体を
こっちに向けた。
「なんだ?ああ吉川か。
何のようだ?もしかして合唱大会のことか?
それなら説得されてもやんねぇよ」
岩崎が尋ねてきた。
「いやそうじゃなくてさ
ちょっと話したくて。」
俺が答えると岩崎は、こちらに近づいてきた。
「あのさ、お前中学のときから変わったよな。
ま、別に変わるのはいいことだ。
でもさ、前のお前は、人のやってることを馬鹿になんかしなかった。
本気でやろうとすることには、しっかり耳向けて聞いてた。
どうしちゃったんだよ。変だよお前。
サッカーに出会ってからずっと。」
俺が言う。思ったことを全部。
「そんなの分かってる。
俺おかしいんだよ。本当の自分が
何なのかわかんねぇんだよ。
お前にこんな気持ち分かるかよ。
これ以上そんな事口にするな。いいな?」
岩崎は、そう叫ぶと渡れるようになった踏切のほうを向き歩く。
いらいらした様子で・・・
しかし、踏切の車道側で車がスリップした。
当然のごとく岩崎にあたり
岩崎は、2,30メートル程空を舞った。


俺は、急いで救急車を呼んだそして意識をなくした
岩崎を安全な場所に運ぶ。
5分ほどで救急車が着いた。
近く病院に運ばれることになり俺は、
ついて行った。


それから1時間半して岩崎は、目を覚ました。
「んん。ここは?」
尋ねる岩崎に俺は、答える。
「病院だよ。」
数分の沈黙が発生する。
「悪かったな。俺どこが悪いって?」
岩崎の疑問に俺が答える。
「足を骨折したって。あと、体中いためてるから激しい運動と
大声を出すのはNGだってさ」
すると岩崎は、言う。
「そっか。サッカー出来ないか。
俺がいけないのかな。
夏花のやろうとしたこと馬鹿にしたから。
サッカーになんか出合ったから。」
俺は、岩崎の言葉が胸に刺さる。
「違う」
無意識に声が出る。
「違うよ。お前がいけないんじゃない。
だってさ、お前頑張ってるじゃん。
お前だって必死だろ。
仲間を勝たせたい。もっと上に行かせたい。
そのせいで体も心も壊れそうなんだよ。
卵の殻みたいにガシャってさ。
だから今は休めって事だよ。
1ヶ月あれば治るからだからそれまで無理せず
俺のやりたいことやってくれないかな?」
心が勝手にしゃべりだす。
変な感じ。でもうれしい。
素直な自分が。
「そうか。
分かった。お前のやりたい事全力でやる。
親友だもんな!」
にこっと笑う岩崎は、本当の岩崎の姿だった。



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