言葉を言葉にしたい

黒虱十航

人を想うということ

翌日俺は、ホームルームの時間をもらった。
そして教壇に立った。
クラスは、ざわめいている。
岩崎の骨折に対して噂が流れているからだ。
否俺が合唱大会をやんないと言った岩崎を突き飛ばしたんじゃないか
と言う噂だ。もっともあそこで岩崎を守れたんじゃないか。
そう思わなくも無い。だからこそ、自分のやろうとしている事が
正しいのか疑問に思う。
だが、俺は・・・だからこそやらなきゃならない。
「昨日岩崎がクルマに轢かれて骨折した。」
俺は、事実を話し始める。
「それで昨日俺、岩崎と居た。
轢かれるとこも見た。急に車が突っ込んできてさ
俺、岩崎を護る事も出来なくて、だから岩崎の骨折は、俺のせいだ。
それでもさ岩崎は、笑顔で俺を見て言ったんだ。
お前のやりたい事全力でやるってさ。
だから、俺やらない訳には行かないんだ。
だから頼む。昨日の話は、前言撤回。
岩崎居ないけど。でも1週間もすれば帰ってくるから。
だから前に進みたい。
クラスとしてやり始めたい。」
するとクラス中から声がする。
「いいじゃん」
「やろうやろう」
そんな声に押されて俺は、息を呑み話し始める。
「じゃあ、役割を決めるな。
作曲は、俺作詞は、夏花がやる。
それに少し話し合って手を加える。
で、衣装なんだけど自由変えていいらしいから歌の流れを教えながら
作ってもらう。ピアノは、俺が弾くって事で。
それとソロの部分をつけようと思ってるんだけどそれは、夏花で良いかな?」
俺は、半ば決定していたソロの部分の役回りについて
意見を募る。
「良いんじゃない?」
こんな声がクラス中に響く。
しかし、当の夏花は、驚いた様子で目を
ぱちくりさせる。
「え、やんないの?・・・・・」
俺は、つい声を漏らす。
うんうんと夏花は、首を縦に振る。
しかしクラス中が期待の目で見たせい(おかげ?)で
夏花は、自ら立候補した。
とはいえ、黒板に文字を書き、言葉を発しはしなかったが。
「じゃあ、衣装係だけ決めるから」
こうして俺達は、動き出した。


「1,2,3,4,5,6,7,8」
部長の奈々がカウントをする。
「どうした芽那?なんか考え事?
動きに切れがないよ」
さすがだ。奈々は、何だってお見通しなんだ。
昨日あれだけ吉川が夏花のことを想って居るのだと実感させられた。
どうしてもあんなに必死に話す吉川の姿が忘れられない。
あんなも誰かを思えるなんて。自分は、誰かを想ったことなんてないのに・・・
そう思うと自分が惨めになる。
「なんか元気ないじゃん。芽那今日は、帰りな。」
そう言われ私は、帰る。
「やっと帰るよ。」
「しっ。そんな事言っちゃだめだよ」
「大丈夫。あいつ馬鹿だから気付かないよ」
ダンス部で仲良くしてくれている加藤 伊香かとういか
宮川 翼みやかわつばさが言うのをはっきりと聞いた。
私は、手をぎゅっと握る。
やっぱり私の友達なんか居ないんだ。
あの二人と私との間に
友情なんかなかったんだ。目にうっすら涙が出る。
走って帰る。全速力で。
そんな時。後方から声が聞こえた。
「おーい。お前ダンス部の春崎だよな。
合唱大会の進行状況を教えてほしんだけど。
吉川の奴なんか困ってたか?」
骨折で入院中の岩崎が聞いてくる。
何故か私は、岩崎の元に駆け寄り大粒の涙をこぼした。
もちろんおおつぶの涙を流したのは、意図的ではない。
「おい。春崎?何で泣いてんだ?」
岩崎が声をかけてくる。しかし反応すら出来ないほどに
涙が出ていた。
「そうか。話したくないなら良いや。大声出して
泣きわめくのもたまには良いことだ。だけど・・」
ふいに岩崎は、私を引き寄せてぎゅっと抱いた。
何を?そんな疑問で胸がいっぱいになるはずだが
不思議と岩崎の意図が分かった。
否、私は、大声で泣いていたのだろう。
そして泣くところをみられたくない私の気持ちを酌み
周りに泣き声が聞こえないようにしてくれたのだ。
昨日の岩崎とは全然違う。
優しくて温かい。そして頼りがいがある。
私は、この時人を想うということを知った。
心から岩崎のことを想った・・・・・・



コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品