言葉を言葉にしたい

黒虱十航

完璧じゃないということ

俺は、息を呑んだ。
「おう。任せとけ」
胸をドンとたたき俺は、言う。
頼もしい感じで言ったが俺的には、ここまで
思い入れが強い奴が居ると足を引っ張るだけなんじゃないか。
そんな恐怖を感じていた。
「じゃあ放課後教員室で。」
呪いとやらで痛がっている夏花を置いて
俺は、外に出た。
痛いならしゃべらなきゃいいのに。
一人でそう思う。


「もっと積極的にとりに行け」
「そこは、ドリブルで突破しろ!」
「周りをよく見ろ」
俺は、部長として仲間に大声でアドバイスをする。
うちの高校は、例年都の大会や全国大会で
上位に行っている。
去年俺が居たチームも先代の
部長のリーダーシップ力で仲間をまとめ
上位に食い込んだ。
そんな先輩から部長の座を受け継ぎ
俺は、1時いや今も重い責任感に
押し潰れそうになっている。
なかなかチームは、まとまらず
こないだは、格下のチーム相手に惨敗した。
そのときの仲間の目それが忘れられない。
お前なんか仲間じゃない。
お前のせいで負けたんだ。
皆言葉にせずともその目はすべてを物語っていた。
いつからサッカーへの見る目がこんなにも
変わってしまったのだろう。


昼休みが終わった。
部活の昼練の面子が戻ってくる。
夏花も席に座る。痛みは、治まったようだ。
夏花がこちらを見てくる。
こっちも様子を伺っているため目が合う。
するとわざとらしく視線がはずされる。
なんとなく赤くなっていた。
なんか俺が悪いことをした様な感じになる。
意味が分からない。
あと少しで今日の授業も終わる。


放課後になった。
俺は、夏花と共に教員室に行く。
「失礼します」
あいさつをすると田本先生が出てきた。
「おう来たか。じゃあいくか。」
自慢げに言う田本先生に尋ねる。
「どこにいくんすか」
するとこれまた自慢げに答える。
「俺の部屋だよ!」
ムカっとする。が、顔には出さず
田本先生についていく。
「さ、ついたぞ。」
田本先生が部屋とやらに入る。
ここは、体育館の裏だ。
こんなところに隠し部屋があるとは。
昼の部屋といい隠し部屋がこの学校には、多すぎないだろうか?
疑問を抱きながら入る。
するとずらっと本が並んでいる。
推定170冊。しかもすべて絵本だ。
「あ・・・」
当然あきれる。なんて自由な。
「その辺に座ってくれ」
自慢げに言う田本先生に尋ねる。
「ここは?」
するとまた自慢げに答える。
「ふふふ。ここはな、俺が頼んで作ってもらった
<青春相談室>だ。今日が初お披露目なんだ。
特にこの絵本の数々。すごいレアなんだぞ。」
このままでは、ずっと話しそうなので
話を進める。
「で、合唱大会のことなんすけど。」
すると田本先生が言う。
「おうそうだったな。なんか意見ないか?」
すると夏花がメモに書く。
「「それなんですけど、
オリジナルの曲がいいと思うんですが。」」
すると田本先生が言う。
「うんそれがいいな。
どうせやるならドンと派手に行きたいしな」
俺が口を挟む。
「でも誰が作るんですか?
合唱大会なんだからすごい良い今日じゃないと恥じかきますよ」
すると夏花がしゃべる。
「あ、あの。わ、私の。私の言葉。本当の言葉を
歌に歌にしてくださいっ。
吉川君なら歌作れると思うんで・・」
始めは、声が大きかったがすぐ小さくなる。
さらにまたしゃがみこむ。
呪いとやらが発生したようだ。
「そっか。俺、親に言われて中学までピアノとヴァイオリンと
琴を習ってたんで少しは、わかるっすけど
そんな上出来なものは、作れませんよ」
俺が、言うと田本先生が絵本の方にいった。
「たしかこの辺だったと・・
あ、あった。ほらこれ」
田本先生は、1冊の絵本を渡してきた。俺がこれは?という顔で見ると
田本先生は、話し始めた
「完璧過ぎる王様って本。完璧な王様に誰も
ついていかないって話なんだけどさ、
完璧じゃなくてもいいんじゃないか。その本読めべば分かるけど
完璧ってつまらないじゃん。
なんの問題も起こらないし。
だったらさ完璧じゃないものの方がいいじゃん。
拍手喝采受けるより拍手の一つも無くても仲間とがんばって
準備して笑えたほうがずっと良いと思わない?
二人で作ってみなよ。歌。
下手でもいいからさ」
その言葉に俺は、胸を動かされた。
いつもは、だらしないのにこんな時に。
「分かりました。やるよ夏花。」
さっきまで不安そうだった夏花の表情が
かなり明るくなった。
俺もきっと晴れ晴れしい顔をしていた。
何でか前に進めた気がする。
この先生は、仕事としてじゃない。
俺たちの仲間として活き活きしながら
サポートしてくれてるんだ。
さすがだ。かっこいいぜ田本先生。
そう心のそこから思った



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