嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

約束してないんですが3

その後も気まずい会話をぽつりぽつりと続けて店員さんがコーヒーを運んできてくれてからはとうとう無言になってしまった。それにしてもここのコーヒーはやっぱり苦い。甘党の俺としてはマッカン並の甘さのコーヒーが欲しいところではあるのだがまあ、苦いコーヒーでも飲めない事はないしいいだろう。そういえば生谷さんは苦くても大丈夫だっただろうか。
「んんーー。ここのコーヒー美味しいね。やっぱり高いコーヒー豆を使って自分で入れるのには敵わないけど他人が入れてるのにこの味はすごい」
「・・・・・・・コーヒー、家で飲むんですか?」
「ああ、そうだね。私んちお父さんがそういうの好きだから影響受けるんだよ。実際かなり高いコーヒー豆をしっかり使って淹れるコーヒーはすっごい美味しいよ。」
「そうなんですか。」
流石の俺でもコーヒー豆にお金をかけたりはしないのでよく分からないがやっぱり違うんだろうか。その辺は、いまいち分からん。そんなことを考えていると店員さんがやってきてパンケーキとサンドウィッチをおいていった。
「へぇ、中々おいしそうじゃん」
「ま、人気ですからね」
「そうなんだぁ。じゃ、頂きます」
それにならって俺も合掌してからサンドウィッチを口に運ぶ。シンプルな具と味付けながらかなり病みつきになる味だ。人気は無いのだが俺は気にいっている。
「んんーー、結構美味しいね。そこそこのポイントかな」
「・・・・・・そうですか」
「うん。」
若干ご機嫌ながらもやっぱりこちらを追い詰めるようにみている感覚がして折角のサンドウィッチも楽しめない。
「っていうか、さっき暇つぶしって言ってましたけどどっか行きたいところあるんですか?それなら荷物もちぐらいしますけど。」
「んー、そだね。映画館とか行きたいんだよね。あとアクセサリーかな。君は?結構行きたい所あるんじゃないの?」
「いや、特に無いですしあったとしても付き合わせちゃうのは悪いですから」
「そう。ならいいけど。」
その言葉はちょっと残念そうな声だった。まぁ、今はそんなこと無視してしまってもいい。とりあえず今日を何とかやり過ごさねばなるまい。


カフェで朝ごはんを食べた俺達は生谷さんの要望どおり映画館に向かうことにした。


都内とはいえ、神奈川県に限りなく近い田園調布、自由が丘付近は、映画館も勿論無い。武蔵小杉まで行ってしまうと結構お店はあるのだがそれでも映画館は無いのが実情だ。ならば、あとは少し遠出をするしかない。個人的にはゴールデンウィークで人も多いだろうから行きたくなかったんだが俺が思いつく映画館は、川崎にしかない。そもそも映画館には行かない主義なのだ。
「案外、行動的なんだねぇ」
「いや、まあ別にひきこもりって訳じゃないですし一人なら諦められますけど生谷さんがいますから諦められないですし」
「ふぅん。ホント、世の男子は君を見習うべきだよねぇ」
「そうですか?俺は、そう思いませんけど」
急に褒められて俺が悪態をつくと電車の空いてる席に座った生谷さんは、頬杖をついてぼそっと言葉を発してきた。
「自覚はあるんだ」
「へ?」
その言葉があまりにも急だったからまともな反応も出来ぬままスルーしてしまった。ただ、生谷さんへの恐怖だけが心の中でどんどん肥大して行ってほんとに恐ろしかった。
「そういえばさ、君、私について何にも聞いてこないよね」
「え?まあ、そうですけど」
「普通、急に家に来たんだからどうして家の場所が分かったのかとか聞いてくるでしょ?それが無くても普通の人はこういう暇なときに私について色々聞いてくるよ?初対面の場合、相手のことを知ろうとするでしょ?」
それが、人間だってことぐらい君も分かってるよね?という含みがあるように感じられる言葉が耳を貫通してからああそうかと思う。確かに、相手のことを話題にして話しを盛り上げていくのは普通の手段だろう。俺だって納得できるしよく使った手だ。けれども俺が今回それを使っていないのは何故なのか。ちょっと自分じゃ分からなかった。
「君ってさ結構可愛いよね。まつげ長いし声も女の子の声だし。もう、どうみたって女の子にしか見えないぐらい女の子っぽいよねぇ」
「よく言われます」
「でしょ?けど、普通の男の子より全然体つきもいいよね。モテるでしょ?」
「あーっと・・・まあ、昔はモテましたね」
今は、正直モテてないしそれについて話を盛り上げられる気がしないので話をそらすのが賢明だろう。っていうか俺の体を触ってないのに体つきがいいって分かるのはもう、俺と同じように相手の血流を確かめたりしてるんだろう。ホント油断ならない。
「それいったら生谷さんだって無茶苦茶女の子じゃないですか。すごい可愛いしファッションセンスもある。大抵の男子ならすぐ惚れるでしょ?」
「そうだねぇ。無茶苦茶モテたよ。でもほら、君の周りには可愛い女の子がいるじゃない。北風原さんと八街さんだっけ?あ、求名さんもか」
「・・・・よくご存知で。でもまあ、貴方そういってますけどルックス的にはあの3人以上に可愛いじゃないですか?まあ、人によって好みがあるでしょうけど可愛いさで言えば勝ってるんじゃないですか?ま、よく分からないですけど。」
「あら、ありがと。」
ああ、ほんとに疲れる。やっぱり会話が長続きしない。やっぱり俺が怯えているっていうのが大きいところだろう。きっとそうやって怯えて後手に回っているから会話が上手く行かない。




川崎駅につくと言わずもがな人が多く、正直言って爆発させたい衝動に駆られたがまあ普通に考えてそんなことしないので良い。変にはぐれるとめんどくさいし生谷さんは気にしないだろうから手を掴んでさっさと歩く。
「いいじゃんいいじゃん。普通の女の子にやったら惚れられちゃうんじゃない?」
俺も生谷さんも”普通の”とつけている辺りが自分達が普通でない自覚があるみたいに思えて恐ろしい。この人もやっぱり自覚あるんだな。
「嫌ですよ惚れられるのなんて。それに歩くの嫌だからはぐれないようにしてるだけなんで。自分のためってだけですよ」
「ま、それでもいいけど」
やっぱり俺の考えていることは、全て見透かされているんだと思うと怖い。

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