嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

温かい

「こほっこほっ」
事務室の扉を開けた瞬間空気中に舞っている埃がのどにでも入ったのかかなり可愛い咳が出る。誰の咳かと聞かれれば勿論俺なのだがやはり、こんなに可愛い声が自分であるというのは残念だ。勿論プロである北風原やハチに勝てるわけもないがボイストレーニングもちょっぴりしたおかげでプロに近づけるレベルにはなっている。これで、地声が男声だったらよかったんだが声変わりに失敗・・・というか声変わりがしなかったことと元々女声だったことからこんな風になってしまった。
「ごほ、ごほ。これはすごいな。おーい北風原たち、一回出て来い。」
流石にかなりの埃で地下だが上から日光が入るような構造になっていたので埃が照らされやたらと美しい景色を作り出していた。しかし全て埃というゴミである。故に全て排除せねばなるまい。ただ、問題は排除の仕方である。俺が、一人で思索している間に北風原が部屋から出ていた。ユニフォームというか作業着になりつつある部活着についた埃を軽く払っている。俺より早く行ってたとしてもそこまでの時間差はあるまい。なのにかなり服に埃がついていることを見るとすごそうだ。一応ここに来るまでに俺も着替えてきたのだが最初は埃を突き抜けてブツをとればいいと思っていたんだがちょっとこの量の埃を放置すると健康面に害がありそうだ。
「先生。その持っていかないといけないものってなんですか?」
「あ、ああ。写真だ。アルバムのようなものが何冊かあるらしいからそれを全てもってきてくれればいい。ふれあい会のときの指導に使うんだ」
「なるほど。では、三人で・・・・」
先生が答えると北風原が今回の解決方法について提案してくる。
「ちょい待ち。そもそもお前、何でいるの?学級委員で、ってことだろ?」
「そうね。けれどあなたが万が一にでもハチちゃ・・さんに何かしたら後悔するもの。なら始めから一緒にいたほうがいいでしょ?」
そういってのける北風原は、体温が少しだけ上がっていた。きっと頬が紅くなっていたのではないだろうか。目の見えない俺に確かめる術は無いがハチをちゃん付けで呼ぼうとしてからさん付けに変えた辺りハチとの距離を模索のだと感じる。
「なるほどな。じゃ、先生。後はやっておきますんでお帰りください。先生もお昼と食べないとですよね?」
先生の体から食べ物の匂いが薄まっていた。これは昨日の夜、今日の朝と2食食べてない証だ。そして服に牛丼の匂いがしていることから今日はがっつり牛丼を食べる為に朝から買ってきたのだと分かる。だとすれば時間を残してあげたい。あと邪魔。
「そうか。じゃあすまんが頼む」
「うす」
「はい、お任せください」
先生を見送りながら俺は、あることに気付いた。というか普通に話しているときにも気付いたんだがまだ疑念のレベルでしかなかった。
「おい、ハチは?」
「え?ハチさんはそこに・・・・・」
そう。本来俺が共に働くはずだったハチがいなかったのである。とはいえそこまでシリアスな問題ではない。言ってしまうと気持ち悪いが俺は鼻も利くのでハチの匂いをたどって探すぐらい容易い。因みにちょっと甘いにおいがするのが特徴だ。それ以外は考えないようにしている。師弟関係だし理性崩壊なんか出来るはずが無い。


「・・・・・ぐぅ・・」
匂いと振動で中でうずくまっていることが分かったのですぐに事務室に戻りハチを事務室の外に出す。一応症状も診断してみたが結果は軽度のダストアレルギー。あんまり酷い埃なんで発症したようだ。この間の屋上でも発症しなかったとなると本当に軽度でむしろちょっと埃が苦手、程度のものでしかないようだ。少し目が充血していてくしゅん、くしゅんとくしゃみをしている。
「ま、どっちにしたって埃を放置って言うわけにもいかないし俺が掃除するまでハチと一緒に外にいてくれ。多分すぐ治ると思うから雑談でもしてくれればいい」
「いえ、私も行くわ。そこまで酷くないなら2人でやったほうが」
「お前も一応声優だろ?声は大事にしないと埃でのどがやられたりするかもしんないだろ?知らんけど」
そこまで健康オタクでもないので埃でのどがどれぐらいやられるのか分からない部分もある。けれどもなんか悪そうだし女の子を埃まみれにするというのは俺としても気分が悪い。
「あら、意外と考えているのね。なら私たちは思いやり部遠征の予定を話し合っているわ」
「それってゴールデンウィークの?」
「ええ。」
「おまえ、遠征って言うほど遠く行かないだろ?」
「そういったほうがカッコイイしいいのよ。さ、早く働きなさい。」
そういいながらも北風原は、体温が下がり落ち着いた感じになる。まあ、くしゅんくしゅんくしゃみをして目が充血してるだけでもあの埃の中じゃ大変なことに思えるし仕方が無い。
「はいよ」
そういって俺は事務室にあったほうきを使って掃除をさっさと終わらせる。雑巾は汚れていたが水道があったので洗ってきれいにする。そんなことをやること5分。俺の家事スキルのカンストを考えると今回はサボったなぁ、と思うのだが部屋の埃は既に消えなんならこの部屋はビフォーアフター並に新品の時よりきれいになった。ちょっと物の配置を換えてよりとりやすくした。おっとこういうときは、違うな。あの名台詞で始めなければ。
「流石師匠。お手並み拝見させていただきました」
俺がちょっと盛り上がっていると後ろから声が聞こえた。我が愛弟子ハチ。こういうと何か無茶苦茶カッコイイ感じがするが普通の女の子だ。俺が手を加えなければ。
「まあな。お前、大丈夫だったか?埃は声優の大敵だし無理しないほうがいいぞ?」
「はい。ご迷惑おかけしました。師匠にはなんとお礼を申し上げればいいか」
「いやいいから。とりあえずアルバム的なの?を全部とっていって帰るぞ。制服に着替えなきゃいけないから2人は、中で着替えてアルバムとってきてくれ。」
俺は、勿論廊下で。女の子にその指示をだすのは気がひけるがここには誰も通らないし自分なら全然OKだろう。因みにラノベ風にここで「キャー何してんのよ」なんていう展開が俺に起こることはない。全く世界は腐ってる。


さっさと着替え一応2人を待って廊下に立ちながら部活着の埃をとっていると部活着への力の入れように改めて感心させられる。丈夫だし埃がくっつきにくい。春夏用なのだろう。結構通気性のよい素材を使っている。そして何より一枚一枚手作りだった。このクオリティ、すでにプロ並だ。けれど温かみのある縫い目や手作りでしか出せない深み。これはどう考えても手作りだった。

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