嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

小説

「っていうか話を引き伸ばすなら明日、出直してきてもらうぞ」
「くっくっく。さてさて。では我が依頼を授けるとするかの」
そういって微笑むと求名は、縄の入っていたバッグから文庫本を取り出した。何度も何度も読まれたのかページの端が折れている。
「・・・・・これは?」
「よくぞ聞いてくれた。これは我の書いた恋愛小説だ。」
「なるほど・・・。これを読んで感想を教えろってことか?」
「うむ。もし好評なら自費出版しようかと思ってな。」
正直言って文学の天才といえる求名の書いた本だ。ちょっと読むのが楽しみなのだが生憎俺にはこれを読む術が無い。母さんに読んでもらってもいいのだが今は忙しそうだし春に読めって言ったってこの量だと時間が掛かるのは火をみるより明らかだ。そうなれば拓の面倒を見たりするのに時間が掛かって後回しになってしまう。
「読む分には俺としては構わないしむしろお前の書いた小説なら楽しみなんだけどな。俺、文庫が苦手なんでパソコンかなんかで見れるようにしてほしいんだけど」
「ほう。中々物分りのいいやつ。怖いくせに中々頭が柔らかいな。よかろう。メモリーカードに原稿がある。それを読みたまえ」
そういって求名は図書室においてあるパソコンからメモリーカードを取り出した。
「ちょっと待て。まさか、これって学校で書いてたのか?」
「勿論であろう?我とて暇じゃない。」
「・・・・まあいい。じゃあ、明日までに読めばいいか?」
「うむ。そうであるな。そこの2人はどうする?」
「私は読むわ。同年代の子が書いた小説は気になるもの。」
「私も読ませていただきます。師匠が楽しみだと思う理由を知りたいので」
「え?いや、それは普通にこいつが文学の天才ってだけだぞ?なんとなく察したってことじゃない。まあ、匂いと色、仕草をみればこいつが創作の才能に富んでいることぐらい分かるけどな。」
「ふむふむ。愚民にしては物分りのいい連中だ。吸血鬼の書いた恋愛小説だ。面白くないはずが無かろうぞ。」
「文学の天才?」
「何、知らないの?こいつ、天才脚本家兼天才監督兼天才歌人だぞ」
「なるほど・・・。」
どうやら2人とも本気で求名の偉大さを知らなかったようだ。まあ、さっきから中2病臭しかしないしそんなにも偉大な奴には見えないからしょうがない。
「まあ、我が血眼の力をもってすればあの程度のこと容易い」
そうなのだろうか?俺的には求名の詠む歌は、大抵が脆くて切なく壊れやすいような美しい言葉で出来ていて自分への自信なんてもっていないように聞こえる。それこそ幼子が親に愛を与えてくれるように願うかのような可愛げがあった。
「ま、じゃあ今日はこれ食べたら解散だな。明日からは俺も菓子作ってくるから三人でお茶でも飲みながら時間を潰すか」
そういってからクッキーにも口をつけてしばしの甘いひと時を堪能した。やはり北風原は料理も上手い。だがそれも俺並じゃないみたいだな。けどまぁ、人に作ってもらう料理やお菓子はどこか温かみがあっていいものである。


時間が経ち、俺達は解散という運びになった。北風原たちは仲睦ましげに帰り求名はちょっと前に帰ったので俺はメモリーカードの中のデータをスマホに移動して少しずつ読み時間を潰した。北風原たちが学校を出たであろう時間になって俺はようやく下校し始めた。


その日の夜。料理を作って食べ終わりゲームという一連の作業が終わってから俺は、スマホで小説を読んでいた。が流石にこれだけだと暇なので読みながら走ることにした。光の動きで読んでいるので歩きスマホせずとも出しているだけでも読める。少しづつ速度を上げていきマラソンと呼べるレベルには速度が上がったところで中盤に小説は中盤にたどり着いた。その物語のベースは童話などでよく知られる赤頭巾だった。しかしベース、というだけで跡形も無い出来だった。
町にはイケメンで、野生的な色男のオオカミがいた。その男は愛を求め日々を過ごしていた。そんなある日、純粋な少女赤頭巾に出会う。まだ愛も知らない赤頭巾だったが次第にひかれ従順で何も求めない純粋な愛をオオカミに向けた。しかし町一番の美女、色っぽく自分にも自身のある猟師の少女がオオカミを狙う。彼女の愛は純粋ではなくむしろ見返りを求める快楽愛。色欲であった。オオカミを誘うように幾度と口付けをし、オオカミの愛は彼女に向けられる。猟師の少女の自信はとんでもなくて自分がこれほどまでの愛を受けられるのが当然だと思っていたのだ。そんな自信満々の彼女に赤頭巾が勝てるわけが無い。けれど赤頭巾の純愛にオオカミは気付きオオカミと赤頭巾が結ばれる。
やはり、求名の詠む短歌と同じで脆く切なく弱々しく、それでいて優しい恋愛小説だった。内容だけ聞けばとても面白い。思うことのある小説だった。けれど俺は不思議でならない。何故にここまで残念な小説がかけるのか。あの、天才脚本家が何故こんな小説を書くのか理解できない。確かに脚本と小説はかなり違う。けれど脚本が小説と勝手が違うのは分かるのだ。でも、いまどき脚本家が小説を書くなんて事は珍しくなくそれだってクオリティが低いとは言えないから売るのだ。だが、求名の書いた小説は端的に言ってつまらなかった。ストーリー自体は悪くない。脚本化すれば多分面白い作品が作れる。でも違うのだ。求名の書くストーリーは、歌があって完璧なものになる。胸に届くものになる。でも歌が無ければ読んでいても苦痛だ。何より情景描写の美しさにキャラの言葉が伴っていない。それがなければ作品は一気に質を落とし心を掴む事は難しくなる。だが、情景描写の美しさは壊してはいけない。けれどこれに匹敵する言葉にはあげられない。結論を言うと求名蜜は天才脚本家であり天才監督であり天才歌人であるけれど小説を書く才能はなかった。それどころか平均以下といってもいいレベルだった。


そんなことを考えながら俺は、家に帰り風呂にはいっていた。今日だけでも30キロは、走っただろうか。結構疲れたがそれでも茶葉を買ったり人気投票のはがきをポストに出してきたりしたのでいいだろう。あとはとりあえずさっきの味を再現してメロンパンを作ってみる。明日はちょっと早めに起きたほうがいいのでとりあえずその日は眠った。俺のかいた小説を読ませられる日が来るのだろうか、などと考えながら・・・・・。まったく、俺の書く小説が誰かの心を動かせるわけなんて無いのだ。腐った世界に見限ったあの日から恋愛感情を捨て去った俺だ。ラブコメなんてかけるはずが無い。

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