嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

部活服

昼休みまでの時間。ずっと虚ろな感じだった。何かが足りない、とかそういうことじゃない。むしろその逆だ。初めて俺にためらいも無く接してくれる奴がいたのだ。そして俺があそこまで本気を出してぶっ潰したのに引かないでいてくれてむしろ尊敬してくれる。俺が非リアオーラ全開にしてもしっかり話しかけてくれる。もしかしたら、これが、友達というんじゃないか。だなんて血迷ったことを考えるレベルには不思議な感じだったのだ。この感じは俺が初めてベナの声を聞いたあのゾクリとした感覚と同じだった。
「おーい。聞いてるのか?」
「え?」
そんなことを考えているうちに誰かが俺に話しかけてきたようだ。時間を確認するとまだ昼休みではなかった。3時間目から4時間目の間の休み時間だ。リア充がぺちゃくちゃと喋りこんでいた。ちょっとうっかりしていた。ノートにはしっかりと書いてあるし勉強もあらかた終わっているので問題は無いのだがそれでもここまで考えてしまうほどに衝撃的な出来事ってことである。さて、それでこの声の主が誰なのかであるが、おーい、何て言葉を俺に向けるのは俺の知る限り一人しかいない。
「先生。どうしたんですか」
「どうしたんだ?さっきからぼぅっとして。」
「思春期の男の子にはそうやって一人ぼぅっとしたいときもあるんですよ。多分」
「それを授業中にするのは如何なものかと思うのだが。まあ、君のことはどうでもいい。そんなことよりも君に頼みたいことがあってね」
「頼みたいこと、ですか?」
正直、頼みたい事っていうだけで嫌な予感しかしない。これは俺の主観とかではなく誉田先生の日ごろの行いが悪いのだと思う。第二図書室の強制清掃から始まり作文の無断転載すれすれの行動、思いやり部への強制入部。それらの全てが強引なものだし今回も明らかにそういう気のあることだといっていいだろう。
「まあ、たいしたことじゃないんだがね。ちょっと屋上で話さないか?」
「何でですか。10分しかないのに屋上なんか行ってたら間に合わないですよ。」
「朝のホームルームの話を聞いていなかったのか?今日の4時間目は担当の先生が休むなので完全な自習、自由時間だ」
「だからって屋上は鍵しまってるでしょ」
「もっているから」
そういって指でつまんだ鍵をかしゃかしゃと音を立てて見せてくる。この人。本気で俺を連れて行く気だ。この人の本気度を実感するには遅すぎるぐらいだったのだ。その辺が俺の愚かなところだといえる。
「はぁ。じゃあ行きますか」
「よし、早く行くか」
そういって俺は手をとられて屋上に向かう。


うちの高校の屋上は昼休み以外開いていない。これはサボりを防ぐ為というのもあるし危険だからという理由もあるが他にももう一つ理由がある。俺の情報獲得スピードを舐めてはいけない。そのもう一つの理由を俺はこの半月で理解している。その理由とはずばり屋上が汚すぎることである。ほこりも勿論溜まってるしポイ捨てされたゴミも多々ある。故に食事に来たリア充や非リアも屋上からかえって行く。だが誰も掃除しようとはしない。その空間にいるだけで風邪をひいてしまいそうな汚さがあるのだ。
「先生。職員室とかじゃ駄目なんですか?」
「駄目だ。屋上でやってもらうんだからな。大丈夫。先に八街と北風原は屋上に行ってはじめている。」
「・・・・掃除ですか?」
「その通りだ。」
「そうすか。」
正直、もう予想できてた。けど八街が早く行っていたのなら誘ってくれればよかったと思うんだが何故俺がこのタイミングで呼ばれているのか。
「何で俺、遅れて行ってるんですか?あいつらと一緒に行ってもよかったんじゃ?」
「だめだよ。君には2週間の活動報告をしてもらう。」
そういってから誉田先生は屋上への入り口の端にある机にノートを出した。おそらく活動日誌的なものであろう。今書けってことなのか?
「何書きはじめようとしているんだ?」
「え?何でってあいつらが掃除してる時に」
「君は主夫志望なのだろう?ならば掃除をしたまえ。それが終わっても日誌を書く時間ぐらいあるだろうからな。それで2週間と今日の活動をまとめろ。
「それなら北風原が部長なんでしょ?やらせるならそっちに・・・」
「事務処理は君の方が得意だろ?」
「あ、ああまあ確かに事務処理は得意ですね。文章を考えるのも得意ですし・・・。いや、でもそれとこれとは別でしょ?」
「書類上も君は庶務として登録されている。」
「部活の庶務って何ですか」
「思いやり部はほとんど生徒会と同じだからな。役割をもって生活してもらうようにしているんだ。とはいえ簡易的な役割分担で強制力はないがね。」
「因みに八街は?」
「彼女の役割はえっと・・・『まだまだ未熟ですので役を持つことなどおこがましいのですが皆様の茶や、茶請けの用意をさせていただきます』だそうだ。新入社員みたいだな。
「ですね。あいつらしい」
「あいつらしい、か。昔の君ならば一人にそこまで力をいれなかったと思うんだがやはり少しずつ変わっているようだな。それにしてもどうやって八街を懐かせたんだ?」
「懐かせたっていうか懐かれちゃってるだけですけどね。弟子ですよ。色々教えてあげたんで師弟関係になってるってだけですよ」
「そうか。私も彼女に気をかけては居たんだがどうやって接すればいいか分からなくてな。やはり君はすごい。人の心理を巧みに操る天才だよ」
「そんなたいしたもんじゃないですけどね。練習しただけです」
「まあ、謙遜しなくてもいい。ほら、掃除に行って来い」
「・・・まあ、いいですけど先生は?」
「やるわけ無いだろ?スーツだぞ。汚れたらどうする」
「それいったら俺だってあいつらだって制服」
「二人とも私の上げた部活用の服に着替えているよ。ほこりのつかない素材だし大丈夫だろう。」
「そんなのいつ配られたんですか?」
「先ほど」
「え。俺貰ってないんですけど。」
なんですかそれ。部活用の服とか運動部じゃないのに考えられない。ぱっと振動させてみて二人の服を確認すると普通のTシャツを着ていた。ただあの素材は払うだけで埃がきれいに取れる素材だったはず。なんていったか覚えてないけど。
「欲しいのか?」
「欲しいって言うかこのままやったら制服が真っ白になるじゃないですか」
「・・・ほら、サイズが分からなかったから大きいやつにしたんだがよかったか?」
そういって誉田先生が俺に渡した服はLサイズだった。ズボンは長ズボンだがTシャツは既に半そで。ちょっと寒いレベルだ。二人もズボンをはいていた。先生。力入れすぎたと思うんですが。
「先生。ちょっと経費の使い方が違いませんか?」
「いいのだよ。北風原が用意したんだから」
「は?」
ちょっと意味が分からなかった。あのリア充神の北風原が何故たった3人の部活の服を作ろうと思うはずがないしそんなの内々でやればいい。
「詳しくは本人に聞きたまえ。ほら、早く」
「うす」
とりあえず本人に聞くことにして俺はささっと着替えた。勿論先生にはお帰りいただいた。

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