嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

この世界は腐っている。

『今日、作戦決行するわけだから具体的な内容を説明する。良いか?』
「はい。師匠、お願いします」
この1週間半の間に俺は「同学年の女子に師匠と呼ばせてる変な趣味の持ち主」みたいな印象をもたれてしまった。まあそれでも俺と一緒に歩くよりかはよかったんじゃないかと思う。で、実際に話しかける人だが俺は、ずっと悩んでいた。個人的には出来るだけ傷つかないで欲しいから無難なグループに入って欲しい。けど無難なグループだと万が一馴染んでしまったら大変だ。そのときは馴染めても俺の教えたスキルが裏目に出て調子乗っている、とみられてしまう。かといって中心グループに話しかけるとそれはそれでまずい。確実にあいつらより優れているのだ。と、なれば調子乗ってるとみられるのは当然。
「・・・・」
『誰でもいい。話しかけやすそうな奴らに話しかけろ。』
「了解しました。師匠、私頑張ります」
結果として俺は、この1週間半育てたこいつを信じる、という愚策に出てしまったわけだ。これは俺にとって大きな選択ミスである。それは自覚していた。
「・・・・・」
ずっと無言でこちらをみている北風原が何を考えているのか分かった。俺の能力、神の耳というのは別に特殊能力ってことじゃない。本当に細かい音が聞こえるのは特殊能力級ではあるものの人の本音が聞こえるというのは俺の予想だ。俺の豊富なデータで相手の能力値を全て自分にアップデートしそのとき何を考えるのか搾り出すだけのことだ。俺に下位互換レベルの能力を持つ北風原の事は、予想するのが容易い。


とにかくそのときは解散し俺と八街は時間をずらして教室に戻った。八街のほうが早く入って俺は教室に戻ったのだが俺が教室に戻ると何故か八街が鹿渡・東浪見グループと話していた。しかも完全な受身だ。流石にあいつら会話スキルは高い。八街も負けじと頑張ってはいるのだがそれでもおされ気味だ。これはまずいな。あいつらに絡まれた以上もう、他の奴らのグループに入るのは、難しいだろう。すでにクラス中があいつらに注目している。これは本格的にやばい。読唇術も流石に始めからあんな人数で話されたら限界が来る。俺は一度教室から出て北風原にメールを送った。
『北風原、やばい。第二図書室集合』
『急すぎるわ。無理よ。クラスメイトと話してる』
『マジでやばい。八街が暮らすの中心人物に話しかけられてる。複数人のグループ連れてるから読唇術も限界が来る。何とかできないか?』
『無理よ。あなたのクラスだから東浪見さんとかでしょ?東浪見さんと私は犬猿の仲なのよ。派閥争いも厳しいし急にあなたのクラスには、いけないわ』
やばい。これは本格的にやばい。ダメージも明らかに大きくなってるはずだ。本来ならば誰かが助けられればいいのだがそれはしっかりとしたリア充でなければならない。かつての俺は確かにそうだったかもしれない。俺がどうにか出来る範囲のことだろう。けれども、今は。今は、どうしようもない。残念ながら俺にはあいつをあの場から救い出してやる事は出来ない。諦めるしかない。
「はぁ・・・・」
ため息が不意に出る。もう、どう足掻いても無駄だから俺はいつもどおりにキャラソンを聞く。でも声はほとんど耳に入ってこなかった。


リア充と最底辺非リア。普通、リア充が一方的に手を差し伸べることしか許されないのだが今回ばかりは違った。話の内容はあまり聞きたくも無かったので聞かなかったがギリギリのところで踏ん張っている。鹿渡のコミュ力は相当なものだった。戸惑っている八街を巻き込みながら会話をしている。さながらグループの中に元々いたかのような雰囲気だ。俺の思っていたよりもずっと好転しているようだ。俺としても一安心。と、言いたいところではある。でも、分かるのだ。東浪見の跳ねるような律動が何を示しているのか。どきどきか?否、怒りだ。何故怒っているのかまでは分からない。聞こえない。無意識に予測したりもしてい無いという証だ。おそらく情報が足りていない。けれどそんなことよりも問題はある。怒りの矛先は明らかに八街の方向に行っていていつか爆発する。
「ねぇ、今日卓球やっていかない?ほら、最近なんか新しいとこ出来たじゃん。町ちゃんと仲良くなる為にも行こうよ」
東浪見がそう、提案した。確かに最近、卓球が出来るおしゃれっぽいところが出来たらしい。俺もよく分からないけどグッズも全部貸し出ししてくれるそうだ。卓球も俺が、教えている。とはいえ流石に卓球とかばっかりはそこまで上達を早く出来ないのでプロ並みとかそういう圧倒的なレベルにならない。なら、願ったり叶ったりだろう。同じテニスでもテーブルテニスとテニスじゃ難易度が違うしテニスだったら結構上手くなりすぎている。
「うん、行きましょう」
俺が教えた申し出を受け入れる時の笑顔。完璧に出来ていた。




その日の放課後。俺は第二図書室に顔を出した。
「大丈夫だったの?特に何か問題は聞かなかったけれど」
「あ、おう。俺の考えすぎだったみたいだ。逆に馴染んで卓球に行った。」
「今日?」
「ああ。」
「それは・・・・すごいじゃない」
「まあ、すごいな。けど・・・ちょっとな」
「ええ。スポーツにいきなり行く、というのは不自然ね」
「東浪見とかいうやつが八街へ怒りの感情をもっていたからな」
「そう。いいわ。行ってきたら?私も行くし」
「依頼だしな。」
「ええ。」
初めてとすら言っていいほどに俺と北風原の気があったのは奇跡的だった。これは・・・本格的にまずい。それは、誰でも分かるだろう。俺も北風原も心配になって見に行くというのは・・・・。


部活を切り上げて俺達は卓球場?に着いた。卓球場というほど広くは無いけれど一応そういう名称らしい。
「変に外で様子を伺ってもおかしい。ここは俺が出すからとりあえず入るぞ」
「自分の分ぐらい・・・といいたいところだけど今はしょうがないわ。後でね」
俺は二人分の使用量を払って一番離れたテーブルに行く。これでこちらからは声を聞けるがあちらからはこちらの姿をみることもできないだろう。様子を伺ってみると八街と東浪見が1対1でやっていた。コンコンと軽い音がするのだがたまにかなり強い音が聞こえる。そのたびにばたりと倒れる音がする。点数を言う東浪見のグループの奴の声を確認する。
「8対0。流石、鈴。八街さん頑張ってぇ~」
8対0か・・・・。ここまでぼろぼろにされるとまずいんじゃないか?特に八街のメンタルがピンチだ。俺が教えてきた中で最も重要視していたのが負けず嫌いの精神だ。負ける事は死に等しいとすら教えるほど重要視した。もしも本気で俺を信じているならば負けるわけにはいかないだろう。
「・・・・まずい」
「え?何が?確かに負けてはいるけれどそれはただ単に」
「気付かないか?明らかに意図的に八街を転ばせている。相当、怒ってるぞ。性質が悪い。それに八街には負ける事は何があっても許されないって教えたんだ。負けるだけでも許されない」
そんな会話をしている間にもばたんと音が聞こえた。転ぶ音だ。9対0、という声が聞こえた。俺にしか聞こえないレベルの小さな音でなくような音が聞こえる。もしかしたらまだ泣いていないのかもしれない。けれどどこかで泣いている。
「ちょ、どうしたの」
「すまん」
どうしても無理だった。俺には泣きそうな弟子を放っておくなんてことできるわけがない。一時でも師匠と慕ってくれた奴を見捨てることなんてできない。


「ちょっとやめろよ。流石に怒りをぶつけるためにグループに入れるのはやりすぎだろ」
明らかにやりすぎだ、俺が。グループのことに口を出すのはぼっちのやることじゃない。俺のやることじゃない。師匠としてもいらないことだろう。けれど俺をみた八街の目が嬉しそうな目だった。それだけで十分だ。
「な、なな何よあんた。急に話しかけてきてキモいんだけど」
「まあ、弟子がこてんぱんにされたんだ。少しはいいだろ?」
「は?」
「じゃあさ、今のこの状態から俺が試合を引き継ぐからもしそれで俺が勝ったらこいつは返してもらうってことでいいか?勿論そっちも選手の交代はオッケーだ」
返す、だなんていっても俺のものじゃなかったし俺のグループにはいっていたわけじゃなかったから何の筋も通っていない。けれど俺の言葉には信用性がある。
「は?」
「分かった。鈴、俺にやらせてくれないか?鈴より俺のほうが卓球は得意だしここで負けるのも嫌だろ?」
「・・・・・・」
無言で頷いてラケットを渡した。東浪見は俺の思ったとおり鹿渡に渡した。予想通りだ。完璧。こいつのリア充力は半端ないし確か野球部のエースで4番だったはずだ。明らかにこいつらの中じゃ卓球が一番上手い。この中で俺が勝てばそのぐるである八街も阻害されるはずだ。八街はこのグループにいるべきではない。だから嫌われてしまってもいい。


別に勝つ確証があるわけじゃないんだ。むしろ9点差をひっくり返して勝つのはかなり実力が無いと難しい。でも、世界を極めきった俺が負けるわけは無い。それは自分自身よりも八街が証明してくれた。
「師匠、頑張ってください」
その声は震えていた。でも、お説教は後だ。俺だって自分を責めるべきだし負けまで追い詰められた説教はしないといけない。


試合が開始された。鹿渡のサーブで返し地道にラリーが続く。正直俺でさえ目を見張るほどに鹿渡の運動神経はよかった。
「はぁ、はぁ」
「うぐ・・・」
俺が5点連続点をとる。だが俺が圧倒的な技術、というわけじゃない。俺でさえ予想だにしないぎりぎりな点のとりかただし運ゲーの要素も高くなっている。俺も久しぶりに動いたから体力は減っている。次に来るサーブをとろうとする、が。
「うわぁ・・・」
流石に脚がもつれて倒れそうになる。が、そんな状況でも昔見た卓球の漫画を思い出して諦めない精神をパワーアップさせて倒れそうな姿勢から打つ。そのパワーはかなり強くて流石に点が決まった。ラッキーだった。流石に責めたてるような声も聞こえてきた。けど鹿渡は全然下手じゃないし悪くない。俺という相手を前にここまでの戦いが出来るなら都大会でもいい位置にいける。でも俺が負けるはずが無い。


何故か?そんなのは簡単だ。この世界が


―――――――――腐っているから。


だから、そこに甘んじる奴らなんて腐りきっている。




卓球。テーブルテニスだなんていうとテニスのしょぼい版みたいに聞こえるがやってみると無茶苦茶難しい。激しいしテニスよりも玉が早くなるだろう。浮きだまは、直接的な命取りになる。それは、言ってしまえば頭と体のキレが悪い奴には出来ないということだ。確実に打ち返し自分のリズムにもって行く。それはとても難しかった。しかしまあ、体を動かすのは悪くない。9対9まで持ち込み制服のブレザーを脱いでも汗でYシャツと下着が透けるほどにつかれきっていた。俺も鹿渡もお互いにYシャツ状態。結構透けている。鹿渡の体格のよさが分かるだろう。俺の体格も。筋肉質だが着やせしやすい。故にちびでか細く見える。けれど俺の筋肉はかなり多い。細マッチョだが筋肉は密度が高い。常に意識しているだけでも変わるものだ。一時期の特訓で得た体型を維持するだけでいい。スタートの声が聞こえて俺がサーブをする。鹿渡は打ち返してきて何度も何度も打ち返す。だが、俺がミスをした。
「なっ」
つい声を漏らしている間に点が取られて10対9になる。
「はぁはぁはぁはぁ」
「随分息があがってるな。どうする?もうやめても皆で仲良く出来ると思うんだけど」
「駄目だ。」
「何で?」
「八街は俺の弟子だ。まだまだ学んでもらわないと誰かと仲良くなんかさせられない。」
「それは自分勝手なんじゃないの?」
「そうだとしても世界は俺の行動を責める資格は、無いんだよ。あんたのとこの女王様のところに俺の可愛い愛弟子を送るわけには行かない」
俺は、そういって早く渡すように要求した。そして、スタートされる。ピンポン球が跳んで来る。この感じは、ライデイの時と同じだ。加速していって一気に――――――。
「10対10か。どうする?2点リードでいいんだよな?」
「おう」
なれなれしくしてくるのはうざったいが体力の消費も激しい。俺が1点とると鹿渡も1点とった。お互い色んなうち方をして点をとるが決着はつかない。18対19だ。後一点。
「ふぅ」
一息ついてからサーブをする。鹿渡がすぐに打ち返してくるがその球を力をこめて打ち返す。これで終わりだ。




勝負は俺の勝利。15分ほどやり続けたがもう、へとへとだ。一応あいさつだけはしっかりやってブレザーを肩にかけて八街の手を引く。
「私は・・・先に帰るわね」
「そうだな。八街への説教を聞いててもな」
「・・・」
「じゃあまた」
少し歩いて北風原と別れ八街と二人きりになる。


「さてと。じゃあお説教だ。このままでもある程度分かるか?」
「はい。」
よほどショックだったのか口数が少ない。でもそんなことはいい。こうなる事は前々から予想できたはずだ。失敗して傷つくことぐらい。だからこそ・・決めていた言葉をあげればいい。
「よく頑張った。この数日、お前の頑張りはすばらしかったからな。でもだめだっただろ?卓球はまあどうでもいいがコミュ力でも全然負けてた。」
「その自覚はあります」
「だろ?で、お前は迷ってる。自分がここまでなんじゃないか、自分はこれからどうすればいいのか」
「はい。正直どうすればいいのか分かりません。」
「だろ?まあ今回の件は特例だけどそうじゃなくても多分いつか耳が聞こえないこともばれた。そうしたら最悪なことになってたぞ。」
「はい・・・」
「生き方だって否定されるはずだ。俺だってそうだった」
「師匠もですか?」
「おう。だから俺の特訓に耐え抜いたお前に二つ教えてやろう。まず一つ。俺の下で学べ。そうすればお前は、誰にも負けないようになるし俺の弟子なら絶対に守ってやる。」
「はい」
「そしてもう一つ。」
そこまで言ってから俺はバッグのなかから本を出す。
「アニメをみろ、ラノベを読め。お前には目があり光が見える。だからラノベが、アニメがお前に人生を教えてくれる。ラノベもアニメも人生に悲嘆した奴らが理想を描きまくってる。理想は、理想だ。でも目指せる。始めはまねでもそれが人生になる。」
何を馬鹿なことを言っているのだ。そう思うかもしれない。でもラノベを読めてアニメを見れて、それはとても尊いことなんだ。既に形作られた理想なんだ。自分で考えるより楽でいい。
「はい・・・・。師匠。よろしくお願いします」
この結末が間違いであるか否かは俺が決めることではない。


もしかしたら八街は、あのグループにいたほうがよかったかもしれない。俺の我侭でもいい。俺の中のとんでもない化け物がいっているのだ。八街を手放してはいけないと。

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