嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

帰宅

甘いもの、というのは人を少なからず幸福にさせる。いくら甘いものが苦手な人でも本当に美味しい甘いものを食べると甘いものが好きになるものだ。それは他のものにもいえることだがレベルの高いものを一度体験してみれば下位互換でも納得いくようになる。八街自身、甘いものは好きなようでどんどん食べてくれる。俺の作ったスイーツが既にレベルの高いもの、というのもあって本当に好きか分からないけれどどちらにせよ問題なくてよかった。
「師匠は、やはり料理もお上手なのですか?」
『あ、まあそうだな。昔から料理をするような機会ってものすごく多かったしどうせ料理を作るなら美味しいほうがいいからな。その流れでスイーツも食べたいなぁ、て思ったから極めた。興味を持ったらとことん極める。そうしていくと自然と能力がつく』
「なるほど。流石師匠。」
そんな会話をしながらもすごくおいしそうに食べる春と八街の姿は、俺の心にも少なからず影響を与えているであろう。影響を与えられたところで俺の心は変化するはずも無いけれど。
『そういえば八街は料理できるのか?』
「えっと・・・私は、料理は出来るには出来ます。お菓子作りとか得意だったので。ただ・・・・」
気まずげに目をそらし指をうじうじと組みながら話した。息を吸ってから言葉の続きを発する。そんな動作をみていて気付いたのだがやっぱり八街は、天才だ。俺よりも、もしかしたら天才かもしれない。けれどもその分傷つきやすくもあるのだろう。普段の俺なら別にそれをみて何か思ったりしない。けれども今回ばかりは違う。これは依頼だ。
「あの、えっと私は料理が得意ではあるんですがあまりやる機会が無いというか耳が聞こえないいのであんまりそういうことをさせてもらえないというか」
『そうか。何か地雷踏んだみたいで悪い。けど大丈夫だ。俺はがんがん料理もやらせるからな。料理が出来るのと出来ないのじゃ会話をする上での切れる手札の枚数が違いすぎるからな』
「はい。師匠」
俺が、そういうと八街は嬉しそうにしてからチーズケーキを今一度食べた。やっぱりそういう姿をみていると普通の女の子に見える。言葉を発することも出来るのだ。クラスの奴らは気付いてないかもしれない。でもいつか、気付かれるはずだ。学級委員になった以上クラスの奴らに話しかけられる事は当然の出来事だ。それはどうしても避けられない。俺にもどうしようもないし何より俺は、今、クラスに大きな影響を与えることが出来るほど大物じゃない。


チーズケーキを食べ終えて俺が洗い物をすることにして全員分の食器を回収しようとする。しかし、八街がお皿をもって離さない。
「師匠のお手を煩わせるほどのことではございません。私が洗います」
『いや大丈夫だ。それより帰りの仕度しといてくれよ。洗い物ぐらいは俺がやるし申し訳ないと思うならその分早く習得するんだな』
「承りました。では、師匠。よろしくお願いします」
洗い物をしようとしてくれたみたいだが俺にとってはお節介だ。俺がやったほうが早いしちょっと流石に俺も初日なのにやりすぎたという罪悪感があるので出来るだけ休ませてあげたい。八街は、返事をすると一度俺の部屋に戻っていった。確かバッグがあったはずだ。女の子のかばんとかあんまり触るのはよく無いと思ったので放置した。
「ねえお兄ちゃん。あの人、よくない?」
「は?どういう意味だ」
「いやいや、お嫁さん候補だよ。可愛いし従順だし」
「お嫁さんに従順さは、要らないしお嫁さんとか無理だから」
「えぇーなんで?確かにお兄ちゃんは男の娘っぽい部分があるけどカッコイイしモテるでしょ?意気地無しってわけじゃないし」
「アホか。男の娘が恋愛とかないっつうの。分かってるだろ?俺、別に恋とかする気ないってことぐらい。お前こそどうなんだよ。好きな奴とか出来たのか?出来たんなら俺が印象操作術を教えてやってもいい。」
「・・・・・え?」
俺が言うと春は、驚いた顔をする。何でそんな顔されなければいけないのか分からないんだけど。俺って何?そんなに嫌われてるんですかね。シスコン感を出した覚えは無いんだけど。
「何で驚いてんだよ」
「いや、普通なら妹が好きな人いるっていったらそいつを殺してやるとか冗談でも言うのが兄ってものじゃないの?兄っていうのは妹だけで十分な生き物なんでしょ?」
「お前、なに言ってるんだ。俺は、お前にも興味ない。お前が幸せになれないと俺の夢見が悪いんだよな。俺が能力を教えてるのに駄目駄目だったら嫌だしな」
そんな会話をしている間に洗い物が終わり俺はちょっと着替えることにした。制服のまま外に出るというのはどうにも気持ちが悪い。さっきまでは、八街がいたこともあって着替えたりしなかったけど今なら陰に隠れれば着替えるくらいは出来るだからな。いつも来ている軽装に着替える間に少しだけ体を触ってみると昔自分で傷つけた跡がすぐに分かった。着替えも慣れているもので無駄な時間をなくすためにもさっさと着替え、それが終わった頃には八街が降りてきた。八街に着替えをみられる、なんていうラノベ要素もゼロだった。やはり俺の人生は、ラノベのようにはならないのだろう。
「師匠?よろしいですか?」
『おう。俺の準備は、オッケーだ。さっさと行くか。』
「はい。じゃあ、妹君もまた」
『今度また会いましょう。流石に毎日お話は出来ないですが』
『そうだな。拓の世話もしないといけないしな。』
「拓?」
『ああ、妹。まだ赤ん坊だけどな。』
そういえば今日は、どうしているのだろうか。
「なあ、今日拓は、どうしてるんだ?」
「え?ああ、頼んだらお母さんが今日だけは、お世話してくれるって。でも明日は流石に執筆に支障をきたすから無理だって」
「だろうな」
『じゃ、いくか』
あんまり俺たちだけで話していても八街が、可哀想だ。さっさと送るに限る。親御さんも心配してるだろうしな。遅くなったお詫びぐらいはしておくか。
「はい」
まだ、若干ふらついているように見えたし聴けば分かるとおり少しからだの調子が悪い。といってもそれは全く問題ない疲労に域だがそれでも荷物ぐらいはもってやるべきだ。という考えから荷物を受け取ろうとするのだが流石に不審がられたのか首をかしげる。
『いや、疲れてるだろ?』
「・・・・・・・・流石師匠です。お優しいんですね。えと・・・・じゃあお任せしてもよろしいですか?少し疲れてしまって」
『そうなるようなメニューをやってもらってるんだ。変に気を遣う必要は無い。あと2週間でどうにかしないと駄目なんだからな』
そういってパッとかばんを受け取って進む。
『それで?家はどっちだ』
「こちらです。」
そういって案内してくれる。俺の家とそこまで距離があるわけでもなかったので疲れることも無かったが道中会話をする、といったことがあまり無いので気まずい空気ではあった。気まずさ、というのは仲良くなりたいという感情から生まれるのだというのは俺の持論であるのだがその持論にのっとると俺は八街と仲良くなりたいと思っているということになる。この仕事だけだと思っていた関係の先に進みたいのだと感じている自分がいて少し新鮮だった。

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