嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

男の娘

二人の足音が完全に消えるまで俺は第二図書室で人気投票用のはがきを書いていた。俺は実は無茶苦茶、書類系の仕事が得意だということもあって既に4分の1ほどが終わっていた。思ったよりも無茶苦茶ペースが早い。二人の足音が消えるまでの間ずっと書いていて足音が消えたあともしばしの間、考え事をしていた。というか今もしている。ただどうにも答えが出てこない。何故あのころ俺は、何のためらいも無く友達、だなんて単語を使ったのだろうか。そんなことが頭によぎる。友達を得ようにも俺にはそれが不可能だ。それに友達なんてもう、作りたくない。
「何をしているのかね?」
「え・・・・?」
「別に思春期の男には一人で考え込みたいこともあるであろうから構わないのだが先程八街と北風原が仲良さげに帰っている後姿をみたものでな。」
「そんなのよくあるんじゃないですか?北風原自体かなり人当たりのいい奴なんですし」
「・・・まあそうかもしれないが昔の君ならば二人に混ざっていただろうにな。無理やり入らされた部活となれば不平等を訴えられて周りから嫌われる心配も無く人脈を広げられるんだ。利用しないわけが無い」
まったくそうだろう。俺だって思う。あの頃の俺なら何のためらいも無く混ざっていた。それはたとえ耳が聞こえない八街相手でも同じことでむしろ部活というコミュニティが存在したのなら完全ぼっちの八街に接することが出来たはずだ。けれどもそれは仮定でしかない。
「昔は昔ですよ。何ですか?もう数学の先生になったんですし何となくそれっぽい知的な先生になってくださいよ」
「数学って言うのは人に実に似ているのだよ。答えを導き出す為に整理して考える。それがより簡単ならば良いとされ頭の回りがいいとされる。」
おお、何か語りだしたぞ。まあ、たまには語らせてやってもいいか。俺は聞き流すけど。
「それに昔も今も本質は変わらない。今も昔も私が変わりうる出来事は一度しか起こっていない」
「振られたんですか?」
「そうかもな。」
「そりゃ、大変ですね。それで独身貴族に?」
「比喩だ比喩。私は元々孤独が好きだしな」
全くこの人は変わらないのだろう。けれどほんの少し変わったと思うのは俺が変わっているから。視点が少しずれたのが原因だ。
「じゃあ、帰ります」
「そう急ぐな。少し話をしないか?」
「したじゃないですか」
「していない。」
「ぐぅ・・・」
「お前がそんな声を出すと普通に可愛い女の子に見えるから不思議だ。せめてオーラが腐りきっていればいいものをそれすらも無い。」
「そりゃまあ、ある程度、調整しているんで。あ、あと男の娘とかあんまり流行んないですよ?ほら、男の子ばれしたときのショックは結構でかいですし。むしろ女の子が男の子を装ってるって方がいいんじゃないですか?まあ、大抵勘付いてはいるんですけどねあれ」
「そうか?ああいうのも女体化などといっ」
「やめてください、気持ち悪い。そういう趣味はないんで帰っていいですか?いやむしろ帰ります。」
「命令だ。私の暇を紛らわしたまえ」
「無茶振り過ぎる・・・。何ですか?歓迎会の上司?面接官?」
ほんとに歓迎会とか開いてくれてもうれしくない。あれによって何度バイトをすることを躊躇ったことか。それでも必要ならば行くけどね。演劇の面接官とかは厳しいけどバイトの面接官は論破するくらいの事は軽く出来ちゃうし。
「いいから。」
「じゃあアニメの話?」
「部活の話」
「元国語の先生にしては文法が滅茶苦茶ですね。文にすらなっていない。主語述語修飾語が必要ですよ。人との会話なら独立語や接続語も必須かと・・。」
主語述語修飾語大事。あれが無いと本当に意味が分からない。あ、因みにあれ、それああ、あるある。とかその辺の言葉はちょっと今でも理解不能。と、考えていると睨まれる。しょうがない。話してやるか。
「ほら、先生が気にしてた八街さんっていたじゃないですか?あいつが来ましたよ。先生の差し金でしょうけど。」
「その通りだ。いっただろ?思いやり部は私の下僕と同義だ。」
「いやみた感じそうじゃなさそうですけど」
「まあ、裏の生徒会だ。裏の仕事とか時代劇っぽいだろ?」
「・・・時代劇好き何すか?」
「まあな。ドラマとかが好きだからその中にあるんだよ。」
「面倒なんですけど。あ、先生。俺って2週間たったらやめていいんですよね?許可無くてもやめますけど一応許可を貰ったほうがいいとは思うので」
「勿論だ。やり続けても構わないがな。」
「そんなことあるわけ無いでしょ」
「そうだな。帰っていいぞ」
「そうですか?じゃあまた」
「おお」
教師何だからしっかりあいさつしろよ、などということを胸の奥で思いながら俺は先生に背を向けてゆっくりと家に向かった。


「おお、我が兄よ。遂に幾千のときを越えて帰ってきたか。」
「何だその喋り方。」
「変などではなかろう。我は、漆黒に包まれようとも変わることなどないのだ」
「そうか。で?」
「いや、何か中2病が流行ってるらしい」
「流行ってない、誰から聞いたんだよ」
「なつねぇからだよ。何かなつねぇの周りで中2病のまねをしている人が増えてるって教えてくれた。そっち系のラノベが高校で流行ってるんだって」
なおねぇ?なんだ、そいつ。と心の中で思うだけにする。口で言ってもどうせネットアイドル仲間とかだろうし。それでそんな情報教えた奴誰?
「流行ってないからな?分かったな?」
「え、でもネットで中2キャラとしてライブ公開したら今まで以上の件数だったよ。」
「さいですか。俺は明日の準備とか色々あるから。あ、明日うちに多分同級生が来るからそのつもりでな」
「え?何々、彼女?いやでもお兄ちゃんのことだからかなり肉食の女子でしょ?ビッチじゃない?」
「どういう意味だ。」
「え?何、ビッチも知らないの?」
「お兄ちゃんのことだからって何だよ」
「え?だってお兄ちゃんって男の娘じゃん?」
「これでも中学の時は背も誤魔化せるレベルだったし顔も童顔でもギリギリ許されたから結構人気あったんだぞ。」
「時はって自分で言っちゃってるし」
「うるせぇ」
全く、男の娘キャラにはなりたくない。あれは、見るだけで十分だ。

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