嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

その名も思いやり部

俺がキャラソンを聞きながらはがきを書いていると誉田先生が教室に入ってきてそれからしばらくしてホームルームが始まった。まあ、興味の無い話だったのだがよく考えたら八街はこういうのもどうやって聞いているんだろうか。先生、ちょいちょい黒板に書いてるけどそれでも消す手間を考慮して書かないときも多い。中学校の時からそうだったし今だってそうだ。何を話してたか聞けるような奴もいないだろうし。まあ俺には興味の無いことなんだけれども。それから休み時間を挟んで授業が始まる。そんな授業を聞き流すかのように流しえた情報を右手にのみ注ぐ。そしてその右手で教師の言っていることを一文字欠かさず書き残す。速記の練習もしたことがあるのでいってる事はノートにきれいに写せる。その結果既にこの数日で各教科のノートがなくなりそうな域で特に話の多くなってしまう歴史、地理系はノートがなくなっている。これが2冊目だ。まあ、そんなこんなでぱらぱらとノートを書いてはめくり左手で頬杖をつきながら授業を聞いていた。こういう時左手ではがきを書くのも手なのだが俺はそういうことはしない。あくまで愛を示すのだ。だからそういうやり方は好まない。休み時間になったらまたキャラソンを聞きながらはがきを書く。ある程度聞き終わりドラマCDにチェンジしてまたはがきを書く。それが終わったらまた授業。そんなことを何度か繰り返しているうちに放課後になった。放課後は確か第二図書室に行くように言われていた。個人的には行きたくないんだけれど春にまで手が及んでいることを考えると難しいだろう。ならば次の策。出来るだけ働かないようにするしかない。昨日も歩いた第二図書室への道のりを歩く。すると少し後ろに足音が聞こえた。近づいてこようとしているのかかなり鼓動も早くなっている。若干走っているのに歩こうとしているのは律儀だ。まあ、八街である。何故俺を追っているのかは知らんけど今日、もう一度大に図書室に行くって言ってたしまあそれを知っていればまず八街だと分かる。そんなのは俺で無くたって情報さえもっていれば分かることなのだが不思議なのはかなり早いペースで進んでいるのに全然近づいていない。何で俺ってそんなに歩くの早いんでしょうか?正直言って戸惑っちゃうレベル。ここで止まって待っていて、俺を待っていなかったら恥ずかしいしそれを考えたらさっさと行ってしまった方がダメージが少ないように思うんだけどそれで俺に追いつこうとして追いつけなくて北風原にそのことを言われでもしたらまた五月蝿く言われてしまう。これぞ究極の選択である。だが、思うのだ。俺、別に北風原に負ける要素無くね?と。いや、実際口論になっても勝てるだろうしそれが無理でもダメージゼロぐらいには抑えられる。と、言うことでスルーしてさっさと進む。


結局、第二図書室に着くまでの間俺が八街に追いつかれることは無く第二図書室の扉を開けた瞬間、かなり鋭い目で睨まれた。一瞬満面の笑みを浮かべていたのに相手が俺だったので気分が悪かったのだろう。こいつもかなり酷いやつだ・
「猫実君?あなたは、扉から入ってこないでもらえる?」
「じゃあどうやって入ればいいんだよ」
「・・・・来なくていいわ」
「いや、行けって言われたんだけど」
「まあそうでしょうね。」
「どうしろっていうんだよ」
「めんどくさいわね。何のことを言っているのかしら」
「馬鹿か」
全く自分のミスを認めない辺りが完璧超人を目指す由縁なのだろう。けれども違う。こいつの完璧は完璧じゃない。あの程度の完璧は許せないのである。
「失礼します」
そんな口論を幸いなことに扉越しであるにもかかわらず聞けていない八街は第二図書室に入ってきた。こんな会話、聞こえてしまったら理想が壊れてしまうだろう。
「あ、えっとメモメモ」
北風原は、八街の姿をみてバッグからメモを取り出してさらさらと『どうしたの?』と書いた。
「あ、えと依頼したくて。それで誉田先生に相談したらここでどうにかするからって言われて。それで北風原さんたちに頼みたいんですがいいですか?」
『勿論。それが仕事だから』
「は?仕事?ちょっと待て。まず俺たちの会話だ。何だ仕事って。その中に俺は含まれているんだよな?だったら当事者にも説明をしろ」
『八街さん。ちょっと待ってて』
「猫実君?あなたは誉田先生によって私の元について学ぶのよ。大丈夫私の元にいる限りあなたを完璧にしてあげるわ。学習運動、人生というありとあらゆる面でね。その過程でこの部活の手伝いをしてくれればそれで十分よ」
「お前、舐めてんじゃねぇぞ。お前にやってもらわなくたって俺は優れてる。」
「優れているというのは自己満足でしょ?あなたの”優れている”なんていうのはたかが知れているわ。」
「お前」


人にはスイッチがある。禁句、地雷とも呼ばれるであろうがそれらとは明らかに違う。例えばどうしても1位を取りたかった人間が2位になってそれで「頑張ったね」なんていわれたらきっと悔しくなるだろう。それは頑張ったという頑張りを否定できなくなってしまうからだ。何かにこだわりを持っている人間がこだわりについてとやかく言われようと構わない。けれども「そんなこだわりいらない」などといわれたら発狂するかもしれない。それと同じ。人には決して言ってはいけないことがある。それはいくら腐っている人間でもきれいな人間でも必ずある。俺だってそうだ。そして俺のスイッチこそが俺の努力や実力をたかが知れてるなんて言われることだ。しかも納得できない奴に。けなされたり否定されるならば別。けれども俺より劣っている奴らに未熟だ、などと言われたら俺は許さないだろう。許さない。
「お前、調子に乗るなよ?お前のほうがまだまだ未熟だ。お前よりかは俺のほうが確実に優れている。お前、この間世界の奴らは大抵程度が低いだとか言ってたよな?言っておくが俺からすればお前も含め世界の全員が程度の低い奴らなんだよ。お前が思ってる自分の優れているところをあげてみろよ。自信もアイデンデティも、全部ぶっこわしてやるから」
ついつい声を荒げてしまう。だがちょっともう脳が言うことを聞かないのだ。机をばんばん叩きトーンを一気に使って北風原に自覚させる。言ってはいけない事を言ったのだと。別に許せるのだ。自分に自身を持つ事はいいことだしそれで得るものもあるはずだから。だから人を見下すのも結構。でもな。そうじゃねぇんだよ。俺の限界を限界じゃないのだという。その厚意がむかつく。ここには大きな大きな差があるんだ。俺の”優れている”は何者にも負けないレベルであって俺自身の力を舐められるよりもむかつく。もっと頑張れるのだと、そういわれている気がするから。
「な・・・・。なら言ってあげるわ。まず始めに学習面。私は前も言ったように点数トップで合格しているわ。敵うはずが無い」
「まあそう思うかもしれない。けど違うぞ。お前何点だった?」
「5教科あわせて495点よ。敵うはずが」
「――――――――――500点だ。」
「え?」
「俺は500点。けど色々めんどくさいから隠してもらった。優れている人間は必ずちやほやされるか攻撃される。どっちにしたってめんどくさいからな。全国模試も一位。次。」
せっせと次を要求する。今は落ち着いてなんかいられない。
「運動面。中3の時からあらゆる競技で一位を・・」
「男子全国一位。その結果は既にアスリートレベルだ。これも面倒だから隠してもらってるけど。強化キャンプとかめんどくさいし」
「でもコミュニケーションは」
「小学校から中学校までずっとコミュニケーションは得意だった。お前トーンの扱いよりも明らかに俺のトーンの扱いの方が一枚上手だし話題の振り方だってやろうと思えばお前より上手い。何よりお前がほんの少しでもトーンを意図的に使ったら分かる。今だってあえて自分を強く見せようとトーンを強張らせているだろ」
図星だったのか北風原は遂にため息を吐く。まあ、こんなところでいいだろう。世界が腐っていることを断言するこいつのやりこみ具合もいらっとしてたし落ち着いたので〆の一言を。
「ゲームは?私の方があなたより」
「ライデイって知ってるか?」
「ええ。」
「俺、一位だから。はい、即証明終了」
「え?」
おそらくリア充なりにこいつも自信をもっていたのだろう。けれども俺には敵わない。俺たちのヒートアップ振りに流石の八街も引いている。
「俺は世界を極めきってるんだ。その上で世界が腐ってるって断定している。だからお前の下にいたって学ぶ事は無い」
そう〆の一言を発して依頼内容を聞こうとしたときだった。
「いいえ。あなた誰かと付き合ったことはある?」
「なんだよ。あるわけないだろ?程度の低い腐った奴らとなんか付き合う気は無い。」
「そこよ。あなたはまだ極めきっていない。恋愛というやりこみ要素をやりこむ前に諦めているじゃない。知ってる?恋は人を一気に変えるのよ。そして恋人にしか見せない一面を人は見せる。恋愛という要素も攻略しなければあなたは・・・」
そこまで言ってから北風原は息を吸って立ち上がる。
「―――――――――――――世界を極めきっていないわ。」
その言葉は明らかに世界の攻略を本気で目指している奴の言葉だった。つまり―――――――
「恋愛の攻略しなおし、か」
「そう。ここ、思いやり部で人を思い、想い、そして恋愛をするべきよ。そしてもしもそれでもこの世界が腐っているのだと思うのならそれでいいわ。」
「いい度胸じゃねぇか」
挑戦だ。いいだろう。俺は挑戦を受けてたつ。思いやり部?とかいうステージでこの世界を本気で攻略する。
「えっと・・・猫実君。何のことか分からないけど私も手伝うよ。」
八街はそういってきた。おそらく雰囲気で悟ったのだろう。
『まあ、そういうことならよろしく。俺はこの部で世界を極めきるから』
「うん。私も北風原さんも手伝う」






こうして始まったのだ。世界の極めなおしが。

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