嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

真実と第二図書室

かっこよく言ってみたもののすぐに業者の人がやってきて俺は壁紙が張り終わるまで外で作文を書いていた。マジでちょっとほんとにダサい。まあ、作文というか文なのだが。それにしてもやっぱり文字は心地いい。文字からは声は聞こえないし安心できるものだ。ふと、書いている小説を思い出す。既に原稿用紙では、3000枚を明らかに超えていてけれども誰かに見せた事は一回も無い。もしも、彼女らが、俺のことを理解できるのならばそのときには見せてもいいのではないだろうか。そんなことがふと脳裏に浮かぶがすぐに消える。俺を理解できるなんて事はまずありえない。だってあいつらには理解できない世界に俺は澄んでいるのだから。それはいくら俺と同じように努力して世界を極めようと変わらないのである。


俺は一度、八街町に出会っている。北風原菜月と、中学時代に出会ったことのあるように八街町も中学時代に出会った少女だ。しかしそこには大きな差が存在する。それが、場所だ。北風原とは千葉の中学で出会っているのに対し八街町とは東京で出会っている。ここまでで分かるように北風原と八街の見た”俺”という人間は明らかに違う。俺自身も違う。千葉にいたときは俺は、クラスのことにも学校のことにも無茶苦茶関心があった。時に失敗したりとかそういうことも勿論あったがそれでも完璧な人間として君臨し、失敗を見せることで友好度を上げようとした。そしてリア充の中心として学校のトップに立った。その証拠に生徒会長選挙ではかなりの差をつけて当選したし告白やラブレターの数だって多かった。逆に東京にいたときは全然学校のことにもクラスのことにも関心は無かったし孤立を目指していた。そのための練習もした。そして使えるものは何でも使った。その使えるものの中には八街町という人間も存在していたのだ。彼女は、俺と同じクラスだった。そのときはまだ、孤立できていなくて結構目立ってしまっていた。そんな時一通のラブレターが届いたのだ。そしてそのとき俺は、それを武器としようと考えた。だってものすごい適当な武器だろう?その証拠に俺が、ラブレターを見せしめとして見せびらかした時一気に俺の人気は消えた。勿論暴言も吐きまくったしやっとぼっちになれた。けれど問題はさらにそれを送ったのは誰か?という方向に移ったのだ。「あいつ最悪」などという俺への敵意のほかに「何であんな奴にラブレターを送ったの?馬鹿じゃん」みたいな空気になったのだ。哀れみでもきついであろうが何より馬鹿にしている声。それがクラス中に響いていてその頃からだった。俺が聞こえて見えて感じて嗅げるようになったのだ。そして何よりそのラブレターを送った本人も俺は分かった。分かっていたのだ。それがいつも無言でぼっちだった八街だったから逆に暴言を行使した。ただ、しばらくしてラブレターを送ったのが八街だとわかってしまった。そこからは不思議なもので俺と八街を囃し立てるような空気になったものの俺を敵とみなす空気にはならなかったのだ。それもそのはず。八街はそのころも非リアオーラ全開で俺は非リアモードだったのだ。むしろならないほうがおかしいっつぅの。でもそれにも手を打っていてその策というのが八街の机に落書きをして呼び出しては暴言を吐くというものだった。みるみるうちに悪人に転身していった。けれどもそれでも八街は律儀に呼び出せばやってきて書いた落書きはきれいに消して動じることもなかったのだ。そんな姿に気持ち悪いなんていう勝手な題名をつけた奴らが八街をいじめ始めた。そして始まったのだ。俺は阻害され続け八街は勝手な悪戯心を向けられる日々が・・・・。


そんな内容をずらずらと文字化した。勿論俺の企みとかは、全く書かず中学の時に同級生で何となく勘付いていた、ということにしたのだが。それを書き終わりかなり時間がたつと壁紙の張替えが終わり業者の人にお金を渡して俺達は第二図書室に戻る。そのタイミングで俺も二人に作文的な文を渡す。
「基本的には八街さん用だけどお前に話すのも面倒だし二人で読め」
「そうするわ。それとさっき預かった作文。返しておくわ」
そういって北風原はおれの渡した作文を返してくる。何か交換みたいで感無量だ。しかし案外御二方はそうではないようでこちらをまじまじと見ている。
「えーっとどうか致しましたか?」
「あなた、あの作文どれぐらい本気?」
「ああ、そうだなぁ。何か先生には文句言われたけど結構面白かっただろ?俺的にはいい感じに洒落を入れられてこれ、きた、みたいな感じだったんだけど」
俺が言うと北風原はため息を吐き八街は、どこか悲しげな顔をする。何を言っているのか明確に聞き取るのは難しいがそこで役立つのが神の耳。二人の心の声を聞く。するとその声は驚くべきことに俺を心配し哀れみ八街のほうなんかは泣いているレベルだった。ガチで涙が一筋流れていたレベルだから意味が分からない。そこまで面白かったのか?
「意味が分からんのだけど。八街とかなんで泣いてるの?そこまで面白かったか?俺だって泣くほど面白いとは思わなかったんだが」
「あなた馬鹿なの?八街さんは。あなたのことを心配して」
「いや、そこが意味分からん。何故心配されるんだ?先生もそんな感じのこと言ってたけど意味が分からないんだよマジで。」
「分からないの?随分と人の感情を読み取るのが下手なのね。」
「読み取るのは出来てる。でも理解できないんだ」
本当に理解できない。聞こえるのと理解できるのはまったく別のことなのだ。そして俺のデータ内には何故こいつらが悲しみ心配するのか、記録が無い。生憎、俺のデータに無い情報はこの世界に存在しないのと同義なのだ。つまりこいつらの感情は何かの間違いでけれども確かに存在しているのだ。だったら俺の得た情報は明らかに足りないということになるだろう。人の感情を理解できないという事はまだ、攻略に欠陥があるということなのだろうか。
「まあ、お前らが何でそんな風に思うのかはどうでもいい話だ。お前らが俺をどう思おうと俺には関係ないしな。それよりこれを読めよ。作ってやったんだから」
攻略に欠陥がある。そんな事は認められるはずも無いことで尚のこと俺はその事実を認めるわけにはいかなかったのだ。これまで否定した世界に敗北してしまいそうだから。

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