嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

遭遇とお悩み

その姿をみれば、いいや見なくたって分かる。雰囲気だけでも伝わる非リア。女子生徒である事は間違いないのだが前髪は目が隠れるレベルにたらされているし正直あまりにも不恰好な生徒であった。彼女を女性と評すべきか一瞬悩んだレベルだ。体つきは悪くない。やせすぎず太すぎず。されどしっかりと引き締まっていたおそらくくびれも出来ているであろうレベルだ。たち方だって悪くない。堂々としている事は間違いないし表情以外は基本OKなはずだ。俺も、そして北風原もおそらくそれに気がついた。北風原は何より表情を使いこなすことに長けているし俺だって姿勢や表情を使いこなしていた。分からないはずが無い。そして俺は流石に彼女のことを覚えている。2日連続で聞いた名前だしインパクト強くなったから覚えている。今朝、職員室まででであった少女。八街町である。俺の持ちうる情報では若干のゆるふわ系の歩き方をするのとぼっちなのと空気に阻害されているのと学級委員だってことだ。後は特に印象が無い。他人についてあまり興味を持たない非リアモードの俺がここまで覚えているってすごいぞ。そんなことを考えている間にも北風原は所作を正し人気者といわれる由縁であるリア充モードに突入していた。やっぱりこいつも俺と同類の人間なんだな。そんなことを再確認しながらも俺は、何故来たのか尋ねることにした。俺マジ勇者。
「えーっと何か御用ですか?それとも先生に送られた口?」
「・・・・・・・・・・」
シカトですか。久しぶりだな。この感じ。中学3年の時ぶりだぞこの感じ。マジでシカトかぁ・・・ちょっと最近世間が俺に厳しすぎるマジで何の嫌がらせなんだろうか。ほんとに不思議。まあ、となれば俺が下がり北風原のターンである事は明確だ。
「北風原、あとはよろしく」
「・・・・。八街町さん?ようこそ。今日はどうしたの?」
「・・・・・・・・・・」
またもやシカト。いや、まさか学年の人気者である北風原にすらシカトをするだなんてこいつ中々やりおるな。くっ、これがシカトの威力か。無限アタック回避不可は伊達じゃない。そんな茶番は置いておいてこいつは何故黙り込んでいるのだろうか。
「コホン。私は北風原さんに相談したいことがあって参った所存です。相談を聞いてくださると誉田先生に促され、今日行けといわれましたので」
「・・・・・・・・・・・・・・」
やっと八街は口を開いた。だ、が。そんな事はどうでもいい。あの北風原が一気に考え込んだこともどうでもいいのだ。なにせ、その声を俺は聞いたことがあるから。


可愛らしい声、泣く演技に付随するようなトーンの乗った声。それらは完全非リアにしか見えない彼女から発せられる空気では明らかに無かった。俺はあくまでそう思う。それでもその声は聞こえた。俺がこの声を聞くのは主に癒されたい時。それこそ寝るときなんて大体聞く。癒し効果のある美しい声。それは俺があこがれ続けた声であり何より俺がこの世界でもっとも愛している声とすら言える。彼女の名は、八田町。声優は、基本的に芸名で活動する場合も多くおそらく八田町も芸名であると踏んでいた。それは事実だった。だがそれよりも問題はそれが目の前の少女ではないかと?という疑惑・・ではなく確信が存在していることにある。まさか?こいつが?こいつか・・・・・・
「「ベナ?」」
俺がつい声を出すのと同時に北風原も俺と同じ声を発した。は?嘘だろこいつもファンだって言うのか?いやでもそうでなければ見極めることは難しいだろう。俺はついつい北風原をみる。しかし、何のためらいも無く北風原は話す。
「ねぇ、もしかして、なのだけれど八街さんって声優の仕事をやっていたりするかしら。違っていたら申し訳ないのだけれども・・」
「・・・・・・・・・」
無言である。はたから見れば明らかに不気味だろう。でも、俺は違った。今度ははっきりと声が聞こえたのだ。神の耳を通して。
「マジか・・・・・。なあ、北風原」
「後でにしてくれる?今は八街さんと」
「いいから聞け」
「はぁ。だめな男ね。何?」
「えっと・・・いやこいつ耳が聞こえないらしい」
「え?意味が分からないのだけれど」
「本人に聞くのが早いだろ。」
俺は、そういって紙とペンを取り出し大きく一言書いた。
『あなたは、今、耳が聞こえていませんよね?』
その文字を読んだ八街は、はっとした表情を見せたあとで頷いた。
「どうして分かったんですか?」
八街は、しっかりと不思議そうに言ってくる。どうしてって言われてもその説明が出来ない俺としてはどうしようもないんだけどこれで全てがつながった。
「猫実くん。説明しなさい。」
「はぁ、説明めんどくさいんだけどなぁ」
「早く!」
そこまで言われてしまってはしょうがない。質問に答えるしかないであろう。でもそれは、文字でで無ければならない。ならいっそ文にしてしまうべきだろう。
「ちょっと待ってろ。説明が難しいし八街さんにも分かるように長文にする。10分しないで終わるから業者の人も来るだろうしそっちの準備と八街の相手を頼む」
「・・・・いいわ。分かった」
北風原は了承した。ならば語ってやろう。文字で。俺が何故分かったのか。誤魔化すのは容易いであろう。けれども誤魔化したものなんてすぐにばれる。いや、俺の場合はばれないだろうけど。それにどこか罪悪感というのもあった気がする。けれどそれよりも何より自分が今まで愛し続けていたものの一つの前で、嘘をつきたくない。というのが本音だろうと思う。俺がこうなった原因をこいつらに分かりやすく書いて伝えるべきだと思った。




”八街と一度出会っている”という事実を。

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