嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

得るもの

何度も言うように、この世界は腐りきっている。それは俺の人生十数年で得た結論であり揺らぐことは無いはずだ。何、俺が言うんだ、間違いない。まず俺は、リア充の中でもリーダーになるために労力を使った。その間に中間の立場も経験した為、その視点からみた世界についても確認済みだ。そしてリア充の中心になった俺は次に転校した中学でぼっちになった。そのための言動を駆使して完全なぼっちになった。その間に得た世界もまた、データに入っている。その間に少しは友達のいるぼっちなど段階を踏んだ為それもデータに入っている。全てデータに入っている。あらゆる立場の人間と友好関係を開いた。そこまでしてそれでもこの世界は腐っていると断言できる。少なくともアニメみたいな作り物の世界で無ければ腐っているだろう。だから、俺はこの世界を見限った。


それでも、俺は何も得なかったわけではない。むしろ極める為に得なければならなかったものも多かったのだ。だから多くのスキルを得た。例えば前から言っているような声のトーンの調整もその一つだし表情の調整もまた同じことである。聴覚や嗅覚の発達というのもそうだろう。この世界には俺と同等の世界に立つ資格は無いがそれでも俺に与えた4つの能力については、俺と同レベルに役に立つといえるだろう。1つ目が神の耳。全く中2臭い名前なのだがまあそれについてはおいておいて実際に神と呼べるほどの聴覚があるのは確かだ。例えば、5キロ離れたところで普通に会話しているレベルの声がなっていたら俺は聞こえる。今も勿論聞こえている。でも、俺に与えられた俺の得た能力というのはそういうものではないのだ。それを超えた聴覚。端的に言ってしまうならば俺は、人の本音を聞くことが出来る。こういうと自意識過剰に聞こえるだろうが本当に聞こえるのだ。例えば普段、教室で話している奴らの会話。その会話が薄っすらと聞こえていると大抵その言葉が本音に変換されて聞こえて”しまう”のだ。何も好き好んで得た能力じゃない。元々は耳がよくなってくれれば話が聞きやすいと思って鍛えただけなのだ。でも、それがいつしか進化して俺は神の耳を手に入れた。かつてはそれも便利だった。だが、こうして集団から阻害された生活を望んで過ごす今となっては、ただ邪魔なだけだ。2つ目の能力、というのは触覚のこと。神の触覚。五感の中の1つだな。どういう意味かって言うと例えば相手を触れる。すると体のどこかで流れている血液の動きか分かる。どこで起きたかまで明確に。まあ、それはサブ要素でこの本来の効果は体中の神経が敏感になり相手が何かをしている時にその人間の周囲に渦巻く本音を感じることが出来る。嘘をついていたらそういった動きが体に出てほんの少しの振動で俺は気付く。これもいつもだから厄介だし邪魔だ。3つ目の能力が視覚だ。髪の目。ここまで来たら大体分かるだろうが俺の目は異常だ。基本色は2色のみ。白と黒だ。そしてそれに色をつけるように見えるのがその人間の本性。その人間の考えていることが色になって俺の目に映る。その色がどう意味かは俺にも明確に分かっているわけじゃないがこの腐った世界は大体紫や青、赤や黒ばかりだ。腐っているという事実が前面出ているので勿論絶望の色なんだろうと分かる。そしてもう1つの能力が嗅覚。神の鼻。嘘の匂い、絶望の匂い、そういったありとあらゆる感情の匂いを感じることが出来る。血の匂い、空気の匂いを嗅げば大抵その言葉が嘘かどうか、虚ろかどうかが分かる。これも同じく常時発生。端的に言えばこの4つの能力は常に発生する訳で俺の体を蝕んでいた。むしろそれがあまりにも酷くなって気持ち悪かったから人と関わらなかったのかもしれない。


そんなことを何故確認したのか。その理由を説明するのは一文だけで事足りる。目の前の、第二図書室に居たその少女は何故か俺の4つの能力の全てに”過敏に”反応したのだ。これがどういうことか。分かるか?存在自体が虚飾であろうこの世界で、この4種が反応するのは当然だ。でも、俺がここまで驚いている。それだけで分かるだろう。ここまで。ここまで過敏に反応したのは初めてなのだ。まだ言葉を発していないけれどそれでも吐息だけで分かる。彼女の、この吐息が作り物であると。別にそれは作るのが下手なんじゃない。むしろ俺以外には見抜けないだろう。誉田先生でさえ。だが、俺の神の耳があったからこそ見抜けた。おそらくこれは俺と同種類のものだ。彼女を取り巻く空気も確実に嘘の動きをしている。何より偽ろうとしていることすら偽っている。ここまで偽っている人間を自分以外にみたことが無い。視覚だってそういっている。歪んでいるレベルに嘘だといっているし何より紫色に染まりきっている。その姿はむしろ美しいレベルだ。匂いもする。勿論女子特有の匂いもする。けれどそれ以上に匂いがするのだ。嘘、絶望、虚ろの匂いが。びんびんする。それこそ自分でも不思議なほどに。ごくり、と息を呑む。するとそれに気付いたのかその少女がそれに気付いたのかじーっとみられてしまう。やばい。この眼力、本気でやばい。何がやばいってとにかくやばい。
「せ、先生。この方は?」
「ああ、君と同じ学年なんだし名前ぐらい覚えて欲しいものなんだが。ほんとにどうやったら人はここまで変わるんだろうな。あの頃は必ず初日には名前を全暗記していただろう」
「当然ですよ。俺だって名前は覚えてます。流石に」
「じゃあ、何故聞いた?」
「ほら、顔までは知らないじゃないですか」
事実である。あの頃は必要に駆られていた為入学式の時に顔まで全暗記した。でも今は必要ない。ほんとに必要性が無いんだし同学年どころか同クラスも基本覚えん。
「はぁ・・全く。すまんな。彼女は北風原菜月。1年A組の生徒だ。」
「はぁ、そうですか。えーっと北風原さん?初めまして」
一応、名前と顔を一致させておこう、だってこの人危なさそうだし。もう、俺は一生この人に会いたくないなぁ。北風原?
「初めまして、ではないわ猫実涼くん。」
「は?」
「は?ではないわ。人に物を尋ねる時にはしっかりとした言葉を使いなさい。今回の場合、私が目上なのだからより、しっかりとすべきだわ」
「意味が分からん。何で初対面のお」
「だから初対面では無いといっているでしょ。それともし初対面だと思っているとしたらお前、では無く貴女、と呼ぶべきではないかしら?」
見事に言葉でフルボッコされている。だが、そんな事はどうでもいいのだ。一瞬のうちに、俺の感じていた異常が消え去ったのだ。聴覚視覚、触覚に嗅覚。それらの神の部位が全て反応しなくなった。おそらく偽るのをやめた。俺と同種の人間だという確信が一気に高まった。
「分かった。北風原さん。悪いけどどうしても思い出せないんだ。北風原さんとどこかで会ってるなら教えてもらえないかな?」
「数年前」
「は?」
「だからひ」
「分かった分かった。どういうことですか。」
「同じ言葉を使うならばトーンを上げなさい。」
「うっせぇ。数年前・・北風原北風原・・・・」
そんな思考に入るのであった。

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