どういうわけかDS〈男子小学生〉の俺は、高難易度青春ラブコメに挑んでいる。

黒虱十航

蛇の目、それは危険な目。②

『ご本人に会ってみるのがいいと思うのですが』
 文月からのメッセージを確認した。一理ある。というか、二理も三理もあるだろう。実際に会うことで突破口を見つけることができるかもしれない。今の状態を確認できるし、上手くいけば本人の希望を知れるかもしれない。
 が、今すぐ会いに行くというのは時期尚早だろう。今、俺達は完全に九重の他人。九重については、何ら情報を持ち合わせていないのだ。そんな状況で会いに行って、刺激してしまったら危険だ。他人でさえ心配してくれるのにあの人達は心配してくれないんだ、と言った具合で。
 そうなると更に状況が悪化する。だから準備が必要だ。俺達が他人として心配しに来たのではなく、学校からの使者として学校に引きずり出すために来た、と思わせられるくらいの緻密な準備が。
 そんな旨のことをもう少し噛み砕いて二人に説明すると、とりあえずいきなりの訪問に関しては諦めてくれた。
「一幡山君って、実はすごい色んなこと考えてるんだね。流石、S児」
 いちいち、棘のあることを言ってくる御告のことは無視をして、メモ帳に必要な情報を書き出すことにした。
 必要な情報と言っても、九重についてそもそも知らないので漠然としたものになってしまう。九重の人物像、人間関係など。それを分かったところで、どうにか出来るとは思えないが、ある程度人物像を知っておかなければ、学校の使者だ、と思われない。
 人物像。人間関係。過去の人間関係。高校デビューしたか否か。何か悩みを抱えていそうだったか。
 調べたいのはこれくらいだろう。最後のは、俺のいじめの件以外にも理由があったのかもしれない、という俺のエゴみたいな部分が入っているが、一応念のためだ。
「これくらいだな」
『なるほど……確かに必要な情報ですね。すごいです』
『いや、すごくはない』
 ラインでやり取りをしていると、御告が俺達を不思議そうに見ているのに気付いた。そういえば、御告は文月とラインでやり取りしているのだろうか。仮にそうならば、三人でグループを作らないと文月が面倒だろう。非常に癪だが、確認してみる。
「なあ、御告ってラインやってるか?」
「ライン? ごめん、やってない。機械系に弱くてさ」
「ふぅん、そうか」
 機械系に弱いようには全然見えない。そりゃ、得意そうな奴だけど機械系に弱いって場合だって十二分にあるだろうけれど、なんだか御告はそういうタイプじゃないように思える。というか、御告自体が偽物くらいから何も信じられないのだ。
「じゃ、どうやって文月と意思疎通してたんだ?」
『言いたいことを紙に書いていました』
 俺の質問に、御告ではなく文月が答える。御告が言うよりも先に打ち込んで送信してきた文月の超人的な指に感動しながらも、そうか、とだけ送信してから九重の問題の方に思考を戻す。
 先ほど挙げたような情報を獲得するためにどうすればいいだろう。個人の情報なんて本を読んで獲得出来るわけでもない。知る方法は、もう人に聞くしかない。
「問題は、誰ならこんなこと知っているかってことだな」
 誰かに向けて放った言葉ではなく、自分の頭を整理するために言葉を呟く。当然、答えを求めてはいない。
 御告は信用に値しないし、文月は俺以上に文月について知らない。俺ほどいじめられてはいないだろうか、それでも友達はいないはずだ。と、なれば今回は俺が一番解決に動ける。辛うじて、ではあるが。
 九重が学校に来ることに協力してくれそうな人。それが情報を得る上での必須条件だ。よって九重が所属していたトップカーストのグループに所属する奴に訊くことはできないだろう。仕草早は女子の中でトップ。男子でさえほとんどの奴を手中に収めているようないわゆる女王様のようになっている。どんなにカースト上位に君臨する男子であっても逆らうのは難しい。
 そう考えてみると俺ってとんでもない相手を敵に回したんだな。超人で有名な生徒会長を彼氏にして、男子を皆従える女王とか、怖すぎる。まあそれを知った上で頭を撫でられたときに戻っても同じことしてたけど。
 それで思ったのだが、仕草早は九重を不登校にさせたかったのではないだろうか。自分に服従しない奴は危険だから排除する。そういう目的があった可能性がある。だとすれば九重を学校に来させる上で、仕草早をどうにかしなければいけない。それは確実だ。
「なあ文月、御告。これは、結構ヤバイ問題じゃないか?」
「え、それはそうだよ。不登校は――」
「――いや、そういうことじゃない。それ以上に面倒だってことだ」
 御告の言葉を遮って、俺は言う。それだけ今回の件はヤバイのだ、と目で訴える。蛇のような鋭い目を見つめると、御告は嫌に優しく笑った。すごく腹立たしい。
「そうだね。だから一幡山君に頼んだんだ」
「……そういうことか」
 絡み取ってくるようなその目を見て理解した。確かにそうだ。仕草早に逆らえるのは俺くらいのもの。だが、それで勝てるかどうかは別問題だ。
 俺は忙しい。仕草早と戦うほどの時間はない。九重を来させるくらいなら出来るだろうが、仕草早をぶったおすのは無理だ。どんだけ時間がかかるかこいつは分かっていないというのだろうか。
 いや、分かってはいるだろう。御告がそんなことも分からないような奴じゃないというのは目を見ればすぐに分かる。分かった上で俺に頼むなんて、性悪な奴だ、と思う。まあ今更か。
「確かに、そうだけどよ。でも、俺はいいとして文月まで巻き込むべきことか?」
「巻き込むべきだと思ったんだけど。一幡山君は主人公なんだから、救うでしょ? 二人とも」
 耳元で囁かれた言葉は、何より異様に重く、異様に鋭い言葉だった。主人公と言う言葉の真意を掴もうとして、御告を睨み付けるが、顔の筋肉を巧みに使われてしまい、掴みかねる。
「どういう意味だ?」
「さあ、どういう意味だろう」
 訊いてみても、上手く誤魔化されてしまった。これ以上問い詰めようとすれば、文月に不審に思われてしまうのは必至。離れていく御告を睨み付けることくらいしか今の俺には出来なかった。悔しいが仕方があるまい。
 どういう意味かは分からないが、そいつの言っていることが間違いじゃないのは、俺が一番知っている。俺は主人公。文月と九重はヒロイン。主人公は悩めるヒロインを救わなければならない。それが定石であり、世界のルールだ。そして、この世界は高難易度ではあるが、そんなルールには忠実なラブコメだ。正規ルートから外れれば大変なことになるから、どうしたって九重を救わなければならない。それを、俺は思い出した。
「分かった。じゃあ、ちょっと考えてみるか。情報については俺が集めてみる。時間がかかるだろうけどな」
「うん分かった。じゃあ文月さんと僕はどうしたらいい?」
 言われて一考する。御告も文月も今回の件に関しては俺の行動以上のことはできない。それは別に二人が劣っているとかじゃなくて、今回の件が俺向きなだけだ。だからと言って何も頼らない、というのはいささか効率が悪いだろう。
「あー、じゃあ分かった。御告、お前は城山と接触してくれ。あいつならもしかしたら何か分かるかもしれない」
「城山? ああ、F組のか。了解」
 御告に任せるからには、裏切られても大丈夫な仕事を頼むしかない。しかし、上手くいってくれればやりやすくなるのは確かだ。だからダメで元々くらいの気持ちで頼む。それにこうして仕事を任せておけば、御告についても分かるかもしれない。蛇のような目をじっと見つめる。
「で、文月だけどな。お前はこの状況じゃ動きにくいっていうのが実情だ。だから俺が呼び出したら来れるようにしておいてくれるか?」
「…………」
 言うと、文月は目を瞑って少し考えた後、控えめに頷いた。ありがとな、と呟こうとして、いやラインで言った方がいいだろうと思い、メッセージを送信した。
『ありがとな』
『いえ、構いませんよ』
 俺の心からの謝罪だったのに、返ってきたのは真実じゃない文月の言葉だった。偽物の匂いしかしないそのメッセージが酷く寂しく、俺の目に映った。

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