どういうわけかDS〈男子小学生〉の俺は、高難易度青春ラブコメに挑んでいる。

黒虱十航

リンチとかキツイって。

まずいことになった。非常にまずいことになった。これは本気で焦ってしまう。どうしよう、どうしようと思って視線を巡らせるが打開策が一向に思いつかない。ありとあらゆるところに見えるのは闇。ただそれだけだった。
 こうなったのはきっと、あの日、間違った行動を選択したからだ。心中で舌打ちをするが、それは何一つ意味をなさない。状況を打開出来ない限り、俺を待っているのは日常エンドではないのだ。
 ――遡ること二週間前。それは起きた。


 まずいことになった。今までは看過できていたが、今回は流石にまずい。いや、それを言ったら性犯罪者に仕立て上げられた方がまずかったんだけど、あれは、まあ否定することが許されない状況だったのでしょうがない。
 っじゃない。そんなことを考えている暇があったらこの状況をどうにかしよう。そう思い、俺を取り囲んでいる奴らを睨み付ける。
 一見して爽やかそうなスポーツ男子や、見るからにごっつい柔道系男子が皆、いかつい顔をして立っている。誰も彼も背が高いので完全に四方八方を囲む壁のようだ。逃げ場がないので、彼らと自分の身長の差が絶望的に思える。
「よくも俺の彼女に手を出してくれたな。チビが」
 そのどす黒い声と共に、痛みが全身に走った。仕草早の攻撃なんかより、ずっと高威力の攻撃。無論、副校長なんかよりも強い。そして、スピードも速い。


「痛っ……チビとか、言うん――」
「――うっせぇな。チビだろうが」


 言葉を遮るために放たれたパンチを、俺は何とか避けようとするがその異常なスピードを超えることが出来ず、もろにくらってしまった。これは確実に回避不可能だ。抑えることも、避けることも不可能。パンチの衝撃によって吹き飛ばされる中、打開策を考えるも勝ち目がない。
 勝ち目があるとすればブレザーを使って撹乱し逃げる方法くらいだが、たった今、俺を囲んでいる壁によって奪われてしまった。目の前にいる、怪物級の力を持つ男子生徒から逃げる方法は、もはやない。
 と、なれば戦うしかない。前世で、アニメの中の一幡山のやっていたようにテクニックを駆使して戦う。ひとまず、退路を切り開くくらいのことはしなければならない。歯を食いしばって、脚に力を込める。


「チビじゃねぇ。そこは譲れない」
「うっせぇ。お前に発言権なんてねぇんだよっ」


 その言葉と共に、尋常じゃないスピードとパワーのパンチが襲い掛かってくる。それを放っているのは、二年生で生徒会長になったという、噂の超人イケメンだったはずだ。友達がいない俺でも、小耳に挟んでいた。
 イケメンだったはずの顔が、怒りと殺気に満ちているのを見ながら俺は上手く攻撃を往なすために集中する。
「ふぅ、危ねぇ。死ぬかと思――」
「――死ねよ」
 往なせていたはずなのに、第二撃が横っ腹に入り、吹き飛ばされる。確実に往なし切れていたせいで、油断していた。激痛が、頭を貫くように全身に響き渡る。骨の髄まで染みる痛みのせいで、目に涙が滲む。
 油断は禁物、気をつけなければならない。歯を食いしばり、横っ腹を押さえていると彼は、追撃してきた。吹き飛ばされ、壁を作っている男子に蹴られていた体を襲う超人の攻撃を往なすため、意識を集中させる。


 第一撃、往なし成功。第二撃、後退することで回避。空気が酷く冷たく感じ、肌がぴりぴりと痛むものの次ぐ第三撃も何とか往なす。が、第四撃を第二撃と同様に後退して回避しようした瞬間、首筋におかしくなりそうな衝撃が走った。下手をすれば泡を吐き出してしまいそうな威力だ。
「スタンガンかよ」
「うぜぇな。罪人が避けやがったからだ」
 その言葉を聞いた瞬間、意識が落ちかける。なんとかスタンガンを首から遠ざけようとするも、怪物級の力には敵わない。ここで落ちたら、死ぬ可能性すらある。なんとか意識を離さないようにしていると、突然、後方から声が聞こえた。
「なっ、やめっ――」
「――……」
「なんだ、お前」


 無言で壁をしていた男子の声を遮断したのは文月だった。意識が落ちかけた状況でも紫色の目が見えた。
「…………」
「おい、なんか話せよ。どうして俺の可愛い可愛い後輩を殴りやがった」
 気付くと、彼女は周囲の男子を蹴散らしていた。気絶している男子には見向きもせず、真っ直ぐ生徒会長を見ていた。生徒会長が、俺よりも文月に興味を持ったおかげで俺は、スタンガンを離され、床に放られた。
「…………」
「悪い、今日は不機嫌なんだ。女子だろうと容赦しない。特に俺の後輩に攻撃するような奴はな。許せよ」
 言いながら、生徒会長は文月に攻撃をしかける。そのスピードは半端無く、もろに攻撃をくらってた。文月は、勢いよく後方に吹き飛ばされていく。マジで容赦が無い人だ、この人は。ほぼ確実に俺じゃ勝てない。
 でも、だからと言ってここで退くのは一幡山の名が廃る。ラノベ主人公の名前と体と声を貰ったからには、文月に痛い思いをさせておいて、ただ逃げるなんてことできない。
 痛みを抑えながら、俺は文月が飛ばされたところまで走った。倒れているであろう文月を抱きかかえて、一旦逃げるしかない。逃げて、作戦勝ちできるような場所に誘い込む。
 そう思っていたのだが、文月は倒れていなかった。堂々と仁王立ちしていたのだ。それで思い出した。魔王眼は戦闘状態になるために魔王の力を全身に循環うんたらかんたら、だと文月は言っていたはずだ。もしそれが本当ならば、今の文月は戦闘状態にいる、ということ。眼帯をつけていない時点でそれは確実だ。
「おい、それ使っていいのかよ」
「…………」
 流石にスマホを触る余裕はないらしく、文月は無言で首肯するだけだった。彼女は目を右手で押さえると左手で大きめの制服をたなびかせた。刹那、世界が紫色の光で包み込まれる。
 窓から差し込む夕日が紫色の光に溶け込み、金色の光を発した瞬間、目を開けていられないくらいの強力な光が体を包み込んできた。
 目を開くと、そこは不思議な世界だった。魔王の城のようなものがあり、俺達はその門前にいた。蒼い月が漆黒の大地を照らしている。俺は、遠くから二人――生徒会長と文月――と眺めていた。
「なんだよここ」
「…………」
 答えない、というより答えられないのであろうが、文月は無言で生徒会長の方に歩いていた。白かった神の一部が禍々しい黒に染まり、紫と赤、そして黒の大剣を右手で軽々と持っていた。
 すげぇ、と純粋に思う。俺だって男だ。ああいうのに憧れないかと言ったら嘘になる。中二病を発症したことこそなかったが、その代わりにああいうのが出てくるラノベをたくさん読んでいた。
「な、何すん――」
「――……」
 生徒会長の言葉を遮って、彼女は生徒会長に攻撃をした。何か、電流のようなものを生徒会長にくらわせると、それだけで生徒会長は気絶し、文月は眼帯をした。それにより、髪の色は戻り、武器が消えた。
 一瞬、強烈な光が発生したかと思うと俺達は先ほどいた学校に戻っていた。生徒会長や他の男子達も皆、気絶していた。これを文月一人でやったかと思うと、ぞっとする。
「あ、ありがとう」
「…………」
 俺の感謝の言葉を聞いた文月は、無言でふっと僅かに微笑みながらスマホを取り出し、操作した。おそらく、ラインだろうと思った俺はスマホを取るため奪われていたブレザーを取りに向かった。
『部活になかなか来ないので心配していたところ、とある方があなたがここでリンチに遭っている、と教えてくださったんです。感謝は私ではなくその方に。今、部室で待っていただいていますから』
『お、おう』
 ラインを見て、もう真実の姿の文月はいないんだなぁと思い残念な気持ちになりながらも、部室がある方角に進んでいく文月を追いかけた。

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