どういうわけかDS〈男子小学生〉の俺は、高難易度青春ラブコメに挑んでいる。

黒虱十航

俺、ラブコメ(高難易度)に挑むらしいです。①

「天国でいいでしょう? 彼は、それなりの善行をしてきたはずです」
「でも、その分、悪行だってしてきてるだろう? 罪があるんだったら、その10倍は善行をしてないと地獄だ、地獄」


 ……俺は死んだんだろうか。それにしては随分と騒がしいが。いや、でも死んだんだろう。まったくあの親父が憎い。もし同じところに送られたら、絶対あいつをぶん殴ってやろう。どうせ、俺もあいつも地獄行きだ。


「それは厳しすぎます。善行も悪行も同じ重さであるべきです」
「んなわけないだろうが。だったら、一度人を殺しても、一度善行をすればチャラっていうのか? ありえねぇだろうが」


 怒号が鳴り響いていた。親父のあの声なんかよりもずっとどす黒い、けれど親父のような濁った声ではなかった。強い男の声だ。イメージ的には熱血教師ドラマの主人公(元ヤン)の声だ。


「そういうことを言っているわけではありません。彼はそんな重大な罪を犯していないでしょう? 人並みの善行と人並みの悪行を犯していただけです。そんな彼が地獄に送られるのは理不尽ですよ」
「理不尽? んなわけないだろ。あいつは地獄に送られるべきなんだぞ。最期のあいつの瞬間、見てなかったのか? あいつは親の勇気を踏み躙ったんだぞ。その時点で、あいつは罪を犯してる。親を二人死んでも、自分だけは生きようとした。その時点で大罪だ。地獄行きに決まってる。むしろ、無限地獄に行くべきだろ」


 無限地獄? 聞こえたワードに少しばかり驚いてしまう。本当に地獄に種類があるんだなぁと思った。別に俺が無限地獄に行く事には驚かない。俺が無限地獄なら親父だって無限地獄だろうし、そこで無限に復讐できるっつうなら問題ない。
 少しずつ視力が戻ってきた。瞼を開けると、今、俺がどこにいるのかが少しずつ分かってくる。別に必要性はないのに、きょろきょろと周囲を見て情報を得ようとしていた。 俺はベッドで眠っていた。ぼろぼろとは言えない、けれど新品とも言えないような中途半端なベッドだった。寝心地もやはり中途半端。普通の俺にはぴったりな、普通のベッドだった。


「無限地獄ですって? そんなことしたら、彼は輪廻の輪に入ることも出来なくなるじゃないですか。そんな権利の乱用、ありえないですよ」
「乱用なんかじゃねぇよ。正当な判断だ。お前は、そんな判断も出来なくなったっていうのか。まったく、これだから天国暮らしのゆとり神様は」


 声ははっきりと聞こえるけれど、周囲には誰一人いなかった。スピーカーみたいな部分があるわけでもないし、音の源になるようなものも一つもなかった。
 この空間には、ベッドと俺と空気以外、何もなかった。床も天井も奥行きもない。ただベッドと俺と空気が虚しく浮遊しているだけだった。そんな空間に音の源なんてあるはずもない。じゃあどこから声が聞こえてるんだろうと不思議に思った。
 文学を研究する学者として、好奇心は消えていなかったようだ。
「ふわぁぁ。うるさいなぁ」
 明らかにそれまで聞こえていたような声とは違う声が聞こえ、俺は半ば無意識に声が聞こえた方を見た。それまでの声はどこからともなく聞こえてきたものだったが、今回の声はすぐ傍から聞こえたものだった。
「あ」
 見るとそこには、神っぽさを全面に押し出したニートがいた。大事なことなのでもう一度言っておこう。ニートがいた。
 服装とか髪型からして、都会のギャル(前時代)か神様だったので、消去法で神様だと思った。いや、こんな訳の分からないところに都会のギャル(前時代)がいるはずがないだろう。いたらそれこそ革命だ。
「あ……、目が合っちゃたじゃん。ああ、あっちがうるさいからってこっちに来たのは失敗だったかなぁ」
 目をこすりながら言っている彼女がふよふとと、何もないところに浮かび、欠伸を連続でしていた。うとうととしているのを見るに、彼女は睡魔と闘っているらしい。
「うんにゃ……」
 訂正。闘っていない。完全に共存しちゃってるよ、この人。いや、人なのか定かじゃないけど。
 どうにもだらしが無いのに、神々しいオーラが出ているのできっと人ではない。それに俺はさっき死んだはずだ。それが夢だったとは思えない。


「あのっ」
「ん? ふわぁぁ、やばい。話しかけられちゃったよ。面倒だなぁ」
 スローペースで酷い事を言ってんな、この人。もうちょっと神様の威厳を見せてほしかった。普通、女神ってもう少しテキパキしてて、誇り高いものなんじゃないの? ライトノベルとかアニメも年相応にかじっていたので、にわか知識なら豊富な俺が言うのもなんだけどさ。
「ここ、どこなんですか?」
「ここ? あれだよあれ。なんか、今君が天国と地獄どっちにいくか決めてるの」
 言ってから、彼女はまた眠り始めた。別に俺、今何をやってるのか訊いたわけじゃないんだけどな。でも、今何をしているのか知れたのはでかいのでよしとしよう。もう一度起こせばいい話だし。
「すみません、ここどこですか?」
 さっきよりも大きな声で言う。これでしっかり目覚めてくれれば少しは長く対話が出来ると思ったのだ。


「あー、ったくこれだから神様は嫌なんだよ。適当に座って寝てればいいだけの仕事だと思ってたのにさぁ。職場じゃ、派閥争いが激しいし、死者はどんどん増えていくし。おまけに、輪廻の輪に入った人は、ラブコメの世界に必ずいくもんね。そりゃそうだよ。ファンタジーの世界に転生しちゃったら、ハーレムなんて作れないもんね。ファンタジー係のあいつ、真面目だから世界の概要をほとんど話しちゃうしね。そのせいで、皆ドン引きしてこっちに来るんだもん。しかもさぁ、こっちはファンタジー系とは違って一人につき世界を一つ作んないといけないから、超ハードだっていうのに。記憶失くすんだからどこに転生したって変わらないでしょ、普通。あいつらのためのいぬるいラブコメを考えて、お望みどおりの世界を作ってやるのとか、もう面倒臭いんだよね。ラブコメに適正ある奴、全然神様試験を合格しないしさ。そのせいで休暇取れないんだから、ちょっとくらい試験をゆるくしてくれたっていいでしょ。試験作ってる奴らは、現場の気持ちが分かってないんだよ」


 起こさなければよかった、と心底悔やんだ。まさか彼女からこんな長々とした愚痴がこぼれるなんて予想もつかなかったのだから、悔やんでも仕方が無いが、それでも後悔の念は消えない。


「まあ、それで駄目な奴が来て、指導しなきゃいけないってのも面倒だからそこは、許してあげてもいいけどさ、だったら職場の派閥争いを失くせって話だよね。それくらい、上の奴らならちょろいんじゃないの? 天国行こうが地獄行こうが別にいいでしょ。どっちにしたって最終的な仕事はこっちに回ってくるんだからさ。っつうか無限地獄行く時に、永久輪廻の輪侵入不可の書類を書くのがこっちっていうのもおかしいよね。ただでさえ、輪廻の輪に回ってる神、少ないんだからさ。その辺を考慮すべきでしょ。まあ、いいよ。上への文句を言ってもしょうがないし。でも、ああやって折角やっとのことでゲットした休暇なのに、派閥争いでうるさくして眠りを妨げるのはやめてほしいよね。そのせいでこうやって、非難する破目になるんだからさ。非難した挙句、魂に発見されちゃうんだからさ。っていうかぁ、あいつらが騒いでるのって、君が中途半端な人間だったからじゃないの? ねえ、君のせいでしょ?」


 突然、肩を掴まれ、前後に体を揺さぶられた。とんでもないパワーだったせいで振り払うことが出来ず、なされるがままに頭が揺れる。それでも気持ち悪いと思わないのは、死んでいるからだろう。
「ああ、そうらしいですね。なんかすみません」
 俺が死んだのは俺のせいじゃないのだが、ああも長々と愚痴っているのを見てしまっていると、謝らなければいけない気がしてたならなかった。駄目親父と同様に、誠心誠意謝罪をした。
「悪いと思ってる? ねぇ、悪いと思ってるの?」
「はい、悪いと思ってます。マジすみませんでした」


 声があまりにも鬼気迫ったものだったので、半ば叫ぶように謝った。すると、彼女は舌打ちをしながら肩から手を離し、俺を睨んだ。




「じゃあ、もう面倒臭いからラブコメの世界に飛んじゃってよ。輪廻の輪とか入んなくていいから。あいつらが静かになるんだったら、一人送るくらい、なんてことないし」

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