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約束したかった。

黒虱十航

約束したかった。

 スマートフォンの画面に触れた。送られてきたメールに添付されているURL。それがなんのURLなのか考えることもなく、ぼんやりと触れた。
 出てきたのはメールの送り主の書いてきた小説だった。ネットに投稿されていたそれは、本当にリアリティに満ちていた。きっと、これはリアルだろう、とさえ思う。同時に、URLと一緒に送られてきた文に心臓を握り締められる。
 メールの送り主。それは、僕の彼女だった。
 そして彼女は今日、休んだ。
 インフルエンザなのかもしれない、と不安になった。焦って登校して事故に遭ったのかもしれない、と不安になった。いつも彼女が支えてくれた。だから心細くもなった。死ぬほど辛くて、頭が狂ってしまいそうで、それなのに自分の無力をまざまざと見せ付けられて空虚なお世辞を言われたから苦しかった。
 それで、つい、彼女に当たってしまった。
 僕は分からない。どうしても分からないのだ。頑張れない、ということが。だって僕の中では頑張ることは当たり前で、義務だったのだ。そして容易いことだったのだ。だから嫌なことでも頑張れていた。その上で僕をはるかに越える結果を出す人はたくさんいる。彼女だってその一人だった。大抵のことで僕よりも上手くやれていて、ずっと憧れていた。彼女になってくれたときはとても心強かったし、協力するといってくれたときは死ぬほど嬉しかった。
 なのに彼女は頑張れない、といった。頑張れていない、と。
 僕は理想を押し付けられることの苦しさを知っている。だから、自分の罪の重さは重々理解出来た。彼女をどれだけ苦しめていたのか分かった。僕を『頑張ってる』と言っていた彼女の気持ちを察することさえ出来ていない自分に腹がたった。自分の理想を押し付けていた。全部僕が悪かった。
 熱中できるもの。そんなの本当は僕だって無いのだ。それは実は誰も気付いていない。彼女でさえ。


 僕はなにをやっても面白いとは思えない。いや、思っていてもすぐに空しくなる。いつの間にか自分を客観視していて、嘲笑ってしまう。でもって、どこか周りとは生きる世界が違うような感覚に陥る。


 そんな僕に寄り添ってくれたのは彼女だったのだ。
 彼女は僕と二人で一人だといってくれた。だから彼女とならかけている部分もなんとかなると思っていたのだ。
 何より彼女と一緒のときは空虚な時間も少なかった。


 それでもなお、羨むというならきっと僕は嘘を吐かれて来たんだろう。



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コメント

  • ノベルバユーザー603642

    もっと二人のラブラブも見たい!
    構想は長いストーリーなのかな?

    0
  • ノベルバユーザー602339

    こういった話がテーマだと応援したくなっちゃいます。
    はまってく様子がキュンとします。

    0
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