翼なき少年の童話

黒虱十航

翼なき少年の童話

 少年がいた。
 少年は信じていた。
 手を伸ばせばどこにでも届くのだと信じていた。
 自分は優れているのだと信じたかった。
 しかし、そうではないのだと理解した。


 少年には、翼がなかった。
 空を羽ばたけないのだから、いくら手を伸ばしたところで、天に届くはずがない。
 少年は翼がほしかった。けれども、翼は手に入らず、いつしか翼を羨むようになった。
 いや、そのような凝り固まった比喩で表現するのはやめにしよう。少年は凡人で、天才を嫉妬した。それだけだ。
 プロの書いた小説を読んで、いつしか少年は妬み、だめなところを見つけるようになった。才能に打ちのめされるがゆえに身を守るため、少年は才能を卑下した。往年の名作を、少年はつまらないと断じた。
 プロの書いた本を読んで、なぜ自分は称えられないのだろうと思うようになった。
 少年は妬み、心を腐らせる度に面白い小説が書けなくなった。凝り固まった、面白くないものばかり書いて、それなのに少年は評価されないことに嘆いた。


 いつしか、少年は手を伸ばすこともできなくなった。
 才能のせいなどせず、努力したつもりだ。けれど、それでも才能に勝てなかったのだ。


 だから、イカロスのように太陽が近づくことさえできざ、少年は消え去った。

「翼なき少年の童話」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「童話」の人気作品

コメント

コメントを書く