NO LOVECOMEDY NO YOUTH

黒虱十航

革改

 馬鹿と天才は紙一重。
 そんな言葉をよく聞く。けれど、そんなものは嘘っぱちだ。天才は端から天才であり、馬鹿な要素なんてない。天才を見て、馬鹿だ、とは決して思わないのだ、人間って言うのは。
 天才を見ると、人は必ずその才能に打ちのめされる。この俺でさえそうだった。他人と自分を比較することの無い俺でも、才能には打ちのめされた。絶対敵わない、と本気で思ったのだ
 でも、凡人ってのは往々にして天才に憧れる。そして、天才を妬む。天才の行動を奇行として捉えることで、自分は正常だ、正常こそ正義だと思い込もうとし、天才に対して馬鹿か、と冗談混じりに言うことで自身の価値を確かめるのだ。
 はっきり言おう。そんなものは、悪だ。そんな、才能を、優れた人間を潰すような正義なんてあってたまるものか。優れている人間は得をすべきだ。集団に混じり、集団のトップになる人間が〝強者〟になるのは、許しがたい。そんなものが強者であって、たまるものか。
 本当の強者って言うのは、孤独で戦うものだ。たった一人で、自身が優れていることを隠すことなく、孤独に正義を貫くことの出来る者だ。
 集団に迎合される奴こそ、真の弱者であって然るべきだ。
 だからこそ、俺は集団から攻撃され、敵意の対象となっている奴を哀れまない。そういった奴こそ強者だと、切に信じているから、俺は真の強者に敬意を払う。
 その点では、彼と彼女は、強者と言ってもいいのかもしれない。
「さて、と。じゃあ、会議を始めましょうか。実行委員長・・・・・の赤木原勇人です。あ、因みにこの子は副実行委員長・・・・・・の、青木翼です。まずは今後の予定について説明しますね」
 運動会実行委員会が開かれ、全員が揃ってから雑談タイムが始まっていた時。唐突に彼は立ち上がり、コの字形の線がないところまで移動し、当然のように彼は言った。
 片手で松葉杖をつき、もう片方の手で少女と手を繋ぐ。
 そんな彼の容姿を正しく形容することが出来るのは、おそらく〝人形〟という言葉であろう。整った容姿はまるで人形のようだ。全女子の理想像、と言ってもいいくらいのイケメンっぷりである。体を見ても、なかなかに筋肉質で背も高い。俺が心が清らかな人じゃなければ、その完璧っぷりに死ね、と言いたくなるところだった。それにしても早くあいつ死なねぇかな。
 と、そんな完璧超人な彼のことは俺も流石に知っている。我が校の有名人だ。
 赤木原勇人。アイドルにしてトップカースト。二年生なので一応先輩だから、赤木原先輩と呼ぶことにしよう。まあ、呼ぶことなんてないだろうけど。
 赤木原先輩は、今日、何故か松葉杖をつき、謎の美少女と共に遅刻してきたらしい。なんか、廊下で噂していた。……それをチラッと聞いただけなんだけどね。しょうがないと思うのよ。だって俺、この学校に知り合いとかいないし。入学したばっかりだから、仕方ないよな。うんうん。
 ぶっちゃけた話、俺はぼっちだ。そして、入学して一ヶ月も経っていない現在、かなり嫌われている。だから、友達なんているはずないし、噂とかを話してくれる奴もいない。そんな俺でさえ知っているくらいだ。彼は相当な有名人なのだろう。
 が、その隣の美少女は有名ではない。はっきり言って情報なし。もしかしたら、噂を話せる関係を持っている奴なら情報を持っているのかもしれないが、生憎と俺はそうじゃないので、彼女については、赤木原先輩が紹介していた名前しか分からない。まあ、リボンの色から察するに二年生なので、一応彼女にも先輩とつけておこう。
 そんな風にして彼ら二人を自分なりに分析していく中で俺は直感する。
 こいつら二人は強者だ。集団に迎合することも無く、自分の正義を貫ける奴だ。
 そして、二人は貫こうとしている。だから、担任に半ば強引にやらされた実行委員に興味を持つ気になった。
「文句あるんですか? さっきからべちゃくちゃ喋って会議を進めようとしないくせに」
 そんな赤木原先輩の言葉に一部の男子はカっとなった。出る杭は打たれる。それが社会のルールだから何ら違和感はない。理不尽がルールとして認められている時点で違和感マックスではあるが。
 赤木原先輩が反感を買う事に違和感はない。が、別の点において俺は違和感を抱いた。
 異様なほどに、赤木原先輩は女子からの反感を買ってはいなかった。出る杭を打っていいというルールがあるのにも拘らず、出る杭である彼を女子は叩こうとはしない。
「皆さん、俺と一緒に運動会、成功させましょう」
 その甘い囁きに会議室のほとんどの女子が落ちた。もう、これで赤木原先輩に歯向かうのは難しくなる。恋心、というのは時に国家さえ滅ぼすほどに強大な力を持つのだ。それをおそらく、赤木原先輩は理解した上でやっているのだろう。
 それを見て、落胆する。
 二人には、実行委員全員を敵に回しながらも運動会を成功させるという正義を貫いてほしかった。そんな風に、低レベルな集団を味方にしてほしくなかった。それでは、二人の正義がいつの間にか霞んでしまうかもしれないじゃないか。
 何より、人の感情を利用するようなのは、もう正義じゃない。
 残念だ。折角、強者を見つけたと思ったのに。
 けれど、それで落胆するのは身勝手というものだ。
 知っていた。強者なんてそうそういない。他人にそんな正義を強要するのは傲慢というものだ。
 ぼっちたるもの、他人に何かを求めてはいけない。他人に何かを求めて傷ついたから、もう俺は人と関わりたくないと思ったのだ。
 俺だけが強くて正しい。少なくともこの学校では。
 精神的に強いだけじゃなくて、それを貫くに匹敵するだけのスペックがある。膨大な文字の海で身に付けた知識と、そこから生じる思考。そして、一人だったが故に身についた運動能力。それなりな容姿だってある。俺は、強い。気高い。
 その上で、一切集団に媚びないのだ。誰かの協力を得ることもない。哀れまれることもなくたった一人で生きていける。
「さて、と。じゃあ、俺たち二人と一緒に運動会を成功させましょう」
 その言葉が酷く気持ち悪い。
 もう、赤木原先輩と青木先輩の言葉は虚ろにしか聞こえない。彼らの言葉は欺瞞だ。正義を貫くためだとしても、偽りの台詞を吐くならば、それはもう強者とは言えない。むしろ俺の敵だ。
 一番の敵だ。
「と、いうことで先生。やることを教えていただけますか?」

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