NO LOVECOMEDY NO YOUTH
ねりねり2
「おぼえ、とけよ」
如月さんがぼそりと呟くが、金本は何も言わない。無言で彼を、前髪の隙間から僅かに見える不気味な瞳で覗くだけだった。
ワーカーズ、文章作成担当Wこと金本冷斗。彼はどうやら、文章担当というだけでなくシナリオ作成が得意らしい。自分の目的を果たす為のシナリオをよく理解している。本当に怖い人だ。
しかし、それと同じように怖いと思ったのは集団の変わり身の速さだ。この一時間も満たない間に、一人の人間に恐怖し、かと思えば蔑む。そんな変わり身の速さは、きっと俺以外なら予想できるだろう。そういう点で、俺は本当に欠けている。
まあ、それを補助してくれるのが翼なわけだから、劣等感を感じることはない。俺たちは二人で一人なのだ。
そうこうしていると、会議室は俺たちが来たときと同じように雑談で満ちていく。だが金本は、一切動じない。うるさい会議室に対して、何かを言うわけでもなく目を瞑って座っている。堂々と、頬杖をついていた。
それからしばらくの間、会議室は雑談まみれだった。生徒会役員の人達が会議を始めるな様子もなく、ただ、お喋りタイムが始まっていた。中には駄弁りながら昼食を堂々と食べはじめる者もいた。さっき、雑談でぽろっと聞いた感じだと休み時間終了の十分前には終わって、そこから実行委員は昼食を食べるようになっていたそうだが、今は、もう、休み時間終了の二分前。誰も、昼食を食べはじめる人を責められる状況ではなかった。
そしていつしか、昼食を食べ終えた者や、雑談をしていた者は口々に言い出した。
「なんで俺たち、ここに集められてんの?」
「ほんとそれ。私、よねっちのところ行きたかったんだけど」
「せっかくの話を止めたの、誰だよ」
「あれでしょ。あの、二年の」
「あー、あいつか」
「ほんと最悪」
金本を蔑む声。それは、どんどん熱を帯びていく。
彼は、実行委員を恐怖政治で支配する暴君を追放した。それは、称えられる事はあっても蔑まれることではない。
そのはずなのに、実行委員はほぼ全員が、金本を罵倒し尽くした。
ふざけるなよ。何でだよ。お前ら小学生かよ。金本はお前等の為にやったんだろ。そう叫びそうになるのを止めたのは自分だった。しかし、俺ではない。
もう一人の自分だった。
否定を、手で何度も、何度も俺に伝える。そして、俺に強い眼差しを向けてくる。宝石のようなその眼が伝えようとしていたのは、金本の感情だった。
見返りを求めないその行動。それが、自己犠牲のように俺には見える。が、翼にはそうは映っていなかったのだ。それが彼女の眼を見れば分かった。金本は決して自己犠牲なんかではない。おそらくこうなることを計算に入れた上で、こうなってほしいとさえ願っていたのだ。
こうなることが、何よりの得なのだ、彼にとって。そして彼にとって、こうして罵倒される事は何ら損ではない。あ、いや別にMってワケじゃないと思うけどね。
その証拠に、金本は長い前髪の奥でほくそ笑んでいた。そっと、気色の悪い笑顔で。自己犠牲なんかじゃないことは、その表情が何より示していたのだった。
チャイムが鳴る。すると、解散という宣言もされずに、各自が自分のクラスに戻っていった。ここで出来た関係性を保つかのように、くっちゃべりながら歩いていく。俺も、それに倣うように席を立つ。
「なあ、翼」
俺が言うと、翼は何も言わずに静かに肯定の合図をした。それで安心した。俺の今の考えは正しいということなのだろう。
感情の計算にかけては誰にも負けないであろう翼が言うのだ。俺のこの考えは、誰かに迷惑をかけるようなものじゃない。
「翼。今日から毎日、俺に教えてくれ。色んなことを」
俺の言葉に、翼はおそらく計算することも無く肯定した。
彼女は感情を分からない。けれども、俺のことならば別。彼女はおそらく、本気で俺がしてほしいことを拒絶する事はない。俺だってそうだ。
俺と翼は、お互いにお互いを最も大切に思っているから。
如月さんがぼそりと呟くが、金本は何も言わない。無言で彼を、前髪の隙間から僅かに見える不気味な瞳で覗くだけだった。
ワーカーズ、文章作成担当Wこと金本冷斗。彼はどうやら、文章担当というだけでなくシナリオ作成が得意らしい。自分の目的を果たす為のシナリオをよく理解している。本当に怖い人だ。
しかし、それと同じように怖いと思ったのは集団の変わり身の速さだ。この一時間も満たない間に、一人の人間に恐怖し、かと思えば蔑む。そんな変わり身の速さは、きっと俺以外なら予想できるだろう。そういう点で、俺は本当に欠けている。
まあ、それを補助してくれるのが翼なわけだから、劣等感を感じることはない。俺たちは二人で一人なのだ。
そうこうしていると、会議室は俺たちが来たときと同じように雑談で満ちていく。だが金本は、一切動じない。うるさい会議室に対して、何かを言うわけでもなく目を瞑って座っている。堂々と、頬杖をついていた。
それからしばらくの間、会議室は雑談まみれだった。生徒会役員の人達が会議を始めるな様子もなく、ただ、お喋りタイムが始まっていた。中には駄弁りながら昼食を堂々と食べはじめる者もいた。さっき、雑談でぽろっと聞いた感じだと休み時間終了の十分前には終わって、そこから実行委員は昼食を食べるようになっていたそうだが、今は、もう、休み時間終了の二分前。誰も、昼食を食べはじめる人を責められる状況ではなかった。
そしていつしか、昼食を食べ終えた者や、雑談をしていた者は口々に言い出した。
「なんで俺たち、ここに集められてんの?」
「ほんとそれ。私、よねっちのところ行きたかったんだけど」
「せっかくの話を止めたの、誰だよ」
「あれでしょ。あの、二年の」
「あー、あいつか」
「ほんと最悪」
金本を蔑む声。それは、どんどん熱を帯びていく。
彼は、実行委員を恐怖政治で支配する暴君を追放した。それは、称えられる事はあっても蔑まれることではない。
そのはずなのに、実行委員はほぼ全員が、金本を罵倒し尽くした。
ふざけるなよ。何でだよ。お前ら小学生かよ。金本はお前等の為にやったんだろ。そう叫びそうになるのを止めたのは自分だった。しかし、俺ではない。
もう一人の自分だった。
否定を、手で何度も、何度も俺に伝える。そして、俺に強い眼差しを向けてくる。宝石のようなその眼が伝えようとしていたのは、金本の感情だった。
見返りを求めないその行動。それが、自己犠牲のように俺には見える。が、翼にはそうは映っていなかったのだ。それが彼女の眼を見れば分かった。金本は決して自己犠牲なんかではない。おそらくこうなることを計算に入れた上で、こうなってほしいとさえ願っていたのだ。
こうなることが、何よりの得なのだ、彼にとって。そして彼にとって、こうして罵倒される事は何ら損ではない。あ、いや別にMってワケじゃないと思うけどね。
その証拠に、金本は長い前髪の奥でほくそ笑んでいた。そっと、気色の悪い笑顔で。自己犠牲なんかじゃないことは、その表情が何より示していたのだった。
チャイムが鳴る。すると、解散という宣言もされずに、各自が自分のクラスに戻っていった。ここで出来た関係性を保つかのように、くっちゃべりながら歩いていく。俺も、それに倣うように席を立つ。
「なあ、翼」
俺が言うと、翼は何も言わずに静かに肯定の合図をした。それで安心した。俺の今の考えは正しいということなのだろう。
感情の計算にかけては誰にも負けないであろう翼が言うのだ。俺のこの考えは、誰かに迷惑をかけるようなものじゃない。
「翼。今日から毎日、俺に教えてくれ。色んなことを」
俺の言葉に、翼はおそらく計算することも無く肯定した。
彼女は感情を分からない。けれども、俺のことならば別。彼女はおそらく、本気で俺がしてほしいことを拒絶する事はない。俺だってそうだ。
俺と翼は、お互いにお互いを最も大切に思っているから。
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