親父様とまじかる☆すとーん
小話 白衣の記憶と人騒がせな人違い
森で出会ったリルティーシャ・クレメンスとカマラ・アンダーソニアは、二人そろって薬草を抱えながら、一路、親父様達がいる宿へと向かっていた。
「あ、あの……すみません。宿まで持ってもらって……」
俯き加減でリルティーシャがそう話し出す。
「だから、いいって。あたしが勝手にやっていることなんだからね」
「あの、本当に……」
「それ以上は言わない! しつこいよ?」
「あ、す、すみません!」
カマラの声に驚き、急いで頭を下げるリルティーシャ。とたんに抱えていた薬草がぱらぱらと道に落ちてしまった。
「ああっ!」
その様子を苦笑しながら、カマラはリルティーシャの拾う手を手伝っていた。
「すいません……」
そう落ち込むリルティーシャに。
「ふふふふ。何だか似てる」
笑みを浮かべるカマラ。
「え?」
きょとんとするリルティーシャを前にカマラは語り始めた。
「昔、さ。火事で火傷したことがあるんだよ。酷い火傷でね、傷が残らないかってかなり心配していたんだ。そんなとき、あたしを看てくれた看護婦さんが言ったんだ」
「な、何て?」
「『私の病院の先生は魔法使いだ。どんな病気も魔法の手でちゃんと元通りにしてしまう』ってね」
「わあ、すてきなお話ですね……」
そのカマラの話にリルティーシャは笑みを浮かべた。
「そうそう。笑っているとそのときの看護婦さんとそっくりだよ。あの看護婦さん、笑顔が一番綺麗だったから」
「え?」
きゅうにそんなことを言われて顔を真っ赤にさせるリルティーシャ。カマラは豪快に笑って見せた。
「だからかな……リッティを尊敬しちゃうよ」
「そ、そんな……私……」
「そう自分を卑下しない方がいい。さっきのように笑っていれば、いいよ。だって、こんな薬草をたくさん見つけることが出来るんだもの。あたしには真似できないよ」
「カマラさん……」
「自信を持った方がいいよ。それは誇れるものだから」
そう元気付けられて、リルティーシャはもう一度微笑んだ。
と、町の中へ入ったとき。目の前に見知った少女が横切った。ライアだ。
「おーい、ライ……」
カマラが声をかけようとしたが。
「プーーーリーーームーーーーッ!」
別の所から、まるで闘牛のようにすさまじい勢いでかけてくる男がライアに向かって来た! しかも、ライアに抱きついた!
「きゃあ、な、な、何ですか?」
そのライアの声にカマラはいち早く反応する。
これは明らかに……!
「こらー! お前、不埒な変質者だな!」
驚愕する男を有無を言わさずに。
「問答無用っ!」
カマラは華麗な足裁きで、踵落としを見事に決めたのであった。
「カマラさん……かっこいい……」
リルティーシャは思わず呟いた。
哀れ、男は地に伏せ。
「大丈夫だったか? ライア?」
「あ、はい。……でも、この方、どうやら人違いしていたみたいですよ?」
「え? 変質者……じゃないのか?」
倒れた男の名はヴォルール・ヴァレ・ティラォン。ヴォルールは行方知れずになった妹を捜していたという。
カマラは大層、ヴォルールに頭を下げると、ライアも引き連れて宿へと向かったのであった。
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