dis 3011

秋原かざや

◆開かれる聖櫃(アーク)

◆開かれる聖櫃アーク


 暗がりの中、動いているのは、コンピュータだけであった。
 コンピュータが動く機械音だけが、聞こえる。
 側に置かれたモニターには、心電図が表示されていた。
 それは、かなり微弱なものであったが、それでも、確かな鼓動が見れた。
 その横に、棺を思わせる『モノ』があった。
 その中には特殊な気体に満たされていて、中に何が入っているのか、外側からでは見られなかった。


 と、ぽーんという、小気味いい音が響き渡った。
『申請承認。アークを起動させます』
 女性の機械的な声が響いた。
 ぷしゅーという音と共に、噂の『モノ』が開いた。
 中に満たされていた白い気体が、外に溢れる。
 完全に開いた後で。
「……よっこいしょ」
 中から人が現われた!
 病院にいる患者が着るような、白い服を着て、銀髪の青年が現われたのだ。
「全く……僕を起こしたってことは、そんなに酷いことが起きてる訳?」
 茶色の瞳を細めて、側にあった黒縁眼鏡を掛けると、彼は誰かに語りかけるかのように言葉を発する。
 それに呼応したかのように、心電図が写っていたディスプレイの画面がぱっと入れ替わった。そこには、二人の男性の姿が見えた。
「ごめん、直接話したいんだけど、いい? どうも、機械とか苦手なんで」
 画面内の男性達が頷いて、ディスプレイが音を立てて切れた。
 同時に、『モノ』の右隣にある円盤のような二つのプレートから、二人の男性が現われた。先ほど画面に映っていた男性が、一人ずつプレートの上に乗っている。
みこと~! 手を貸してくれっ!!』
 チャイナ服を着た金髪のオッドアイの男が、眼鏡青年……いや、尊と呼ばれた青年にすがりついた。
 が、それは、実態を持っていなかった。
 ホログラム。
 そう、立体映像であった。
『憂苑、それが人に頼む態度か? 仮にも相手は海棠かいどう博士、なんだぞ』
 思わず、中年を越えた老人が頭を抱えてツッコんだ。
「いいよいいよ。憂苑がそういうってことは、この都市まちに緊急事態が起きたってことだろうし」
『さっすが、尊!! やっぱり、頼りになるっ!!』
『コラ!』
「アステリクも、抑えて」
 憂苑に説教しようとする老人、いやアステリクを手で制すると、尊はもう一度、告げた。
「とにかく、状況を教えてよ。考えるのはそれから」
 尊に言われて、二人は顔を見合わせ、同時に告げた。
『このままだと……この東京が、滅びる』と。





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