dis 3011

秋原かざや

◆僅かな綻び

◆僅かな綻び
 

 薄暗い部屋。
  その中で、音も無くコンピューターが動いていた。
  繭のような、空中に浮かぶイスに、彼は体を預けている。
  と、顔全体を覆うヘッドマウントディスプレイの中、彼は首を傾げた。
 「ディヴァス、レミド、フォーガレア」
  ぴぴぴと、コンピュータが反応し、ディスプレイの内側で答えを返している。
  彼は眉を顰めると。
 「……わかってるよ。けど、もう少しで終わりでしょ?」
  先ほどの言葉が、別の言葉へと変わった。
 「このボクが、そんなヘマやると思うのかい? ボクはこの都市の創設者の一人。最高の地位を持っているんだ」
  不服そうな顔で続ける。
 「それにそっちでも、それなりの地位を築いているつもりだよ。そのために、単身でこの原始的な星に来ているんだからね」
  ぽぽぽ……とコンピュータが何かを返している。
 「とにかく、ここのことは、ボクに任せてよ」
  乱暴にコンピュータを落とすと、彼は苛立ちながら、被っていたヘッドマウントディスプレイを放り投げた。それでも壊れることはないのだが。
 「……何だよ。ボクにその力が無いって言ってるわけ? あいつらは」
  イスから降りて、彼は部屋の窓に近寄り、カーテンを開いた。
  とたんに差し込むのは、陽の光。
  彼はその眩しさに瞳を細めて言った。
 「変な小娘がいたけど、それだって想定内だ。計画は順調に進んでる」
  彼の眼下には、いつもの営みを続ける東京都市の姿があった。
 「もうすぐ、この星は……ボクらのもの、なんだからね……」
  あざ笑うかのように、彼は嗤う。
  その顔に、異常な幼さを残して……。 

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