dis 3011

秋原かざや

◆闇の中で輝くレッドアイ

◆闇の中で輝くレッドアイ


 そこは、とあるホテルの一室。
 薄暗い中、バイオレットの明かりだけが、その場を照らしていた。
「それで……ここに来たって?」
 上半身何も纏わぬ彼は、ゆっくりと身を起こし、ベッドの背に体を預ける。
 その彼の傍らには、美しい女性がいた。


 どこの誰だかは、彼自身もよく知らない。
 ただ、この喉の渇きを癒してくれるのなら、誰でも良かった。
 この苦しみをつかの間でも、忘れてさせてくれるなら、誰でも良かった。


 ベッドの中で、彼女は気持ち良さそうに微睡んでいる。
 生まれたままの、その姿で。
「ええ、これは契約にはなかったものですから」
 ベッドの側で立っていた、不思議な仮面をつけた男が、ぺこりと頭を下げた。
 ---------まるで、道化だ。
 奇妙な目が描かれたピカソのような仮面に、その仕草、口調に。
 道化をそのまま実体化したような、そんな男だった。
 仮面の男の隣には、あの旬を狙ったフィレールの姿も。
「そんなこと言われても、オレは知らないんだよね」
 彼は赤い髪を掻きあげて、面倒くさそうに答える。
「報酬、少し上げるから、まとめてやっちゃっていいよ」
 枕元にあった契約書のカードの数値を追加すると、それを仮面の男に投げてよこした。
 仮面の男は、そのカードをしっかりと受け止める。
「……確かに」
「じゃあ、頑張って。これでも君達には期待してるんだから」
「ありがとうございます、咲様」
 そういって、下がろうとする仮面の男を咲と呼ばれた赤毛の彼が呼び止める。
「そうそう、そこの彼女。飽きたらオレに知らせてよ。優しく可愛がってあげるからさ」
「わかりました、覚えておきましょう」
 仮面の男の言葉を聞いて、咲は側にいた彼女の唇を奪うと、仮面の男はもう用無しと言わんばかりに、ベッドに潜り込んだ。
 仮面の男とフィレールは、ぺこりともう一度、頭を下げて、部屋を出て行った。




 外はすっかり夜模様。
 ネオンサインが眩しいホテル街を抜けて、ショッピング街へと向かう。
「………あのひと、嫌い」
 仮面の男の服の裾を握って、フィレールは呟いた。
「そういうなよォ~、あれでも良い金鶴なんだからさァ」
 いつもの口調で、仮面の男は言う。
「だって、僕のこと……ねえ、カスラ様、僕のこと、あの人に渡さないよね!?」
「何言ってんだ、お客に合わせてやっただけだ」
 仮面の男、カスラはそう答えた。少しそれが本音のようにも聞こえる。
「よかったぁ~!!」
 ほっとした顔で、フィレールはそのままカスラの腕に抱きついた。
「まァーとにかく、金も増えたんだ、良いもん食ってから、もう一度トライすっか」
「あ、待って」
 フィレールは少し背伸びして、カスラの仮面を少しずらして。
 ちゅっ。
 唇を重ねた。
「お、おいおい」
 すぐさま、仮面を元に戻すフィレール。
「だって、したかったんだもん」
 またカスラの腕にしがみつき、上目遣いで頬を染めながら微笑んだ。
「ま、いっか。減るもんじゃねェ~し」
 二人の足音が、星空の下、ゆっくりと遠ざかっていった。



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