dis 3011

秋原かざや

◆名も無き楽園

◆名も無き楽園
 

 飛び込んでくるのは、輝かんばかりの緑。
  そして、色とりどりの花達。
  ガラス張りの温室の中には、人が楽しめるようにと、白いテーブルクロスの掛かったテーブルに、細かい細工が施された白い椅子が5脚置かれていた。
 

 そんな、素敵な庭園で、二人の少女が楽しそうにティータイムを過ごしていた。
 「ねえ、トゥーラ? カリス姉さまが、お疲れなんですって」
 「ええ、シャーナ。だから後継を探しているって」
  どうやら、その二人は双子のようだ。
  お揃いのドレス、お揃いの帽子、お揃いのバッグ。
  けれど違うのは、その色。
  一人は鮮やかな赤。
  もう一人は、艶やかな黒。
  楽しそうに笑いながら、ひと時のお喋りを楽しんでいる。
 「でも、カリス姉さまの後継ってだあれ?」
 「姉さま以上のヒトっていたかしら?」
  ねえと、声を合わせて、同じ紅茶を飲み干した。
 「姉さまも限界よね……」
 「ずっとわたしたちを見ながら、あんなにたくさん働いているんだもの」
 「他のヒトたちにも、姉さまの爪の垢を飲ませたいくらい」
 「そうそう、それくらい働いてみなさいってものよね」
  くすくす笑いながら、同時に同じ、クッキーを口に入れた。
  ぱりぱりと美味しそうに頬張って。
 「かといって、わたしたちじゃ、姉さまの足元にも及ばない」
 「仕方ないわよ、わたしたちはそういう立場には、絶対になれないもの」
  二人は同時に、紅茶にミルクを入れた。
  同じように紅茶に白い円が出来上がる。それを二人は満足げに眺めていた。
 「早く姉さまの後継が生まれるといいわね」
 「ええ、そしたら、姉さまの代わりに一緒に遊んでもらわなくっちゃ」
  にこっと微笑みあって。
 「「楽しみねっ♪」」
  二人の笑いが庭園に響き渡る。
  ふと、二人は同時に空を見上げた。
  ガラス越しに見える、どこまでも澄んだ青い空を。
 「あらやだ」
 「姉さまのところにお客様っ」
 「わたしたちもお迎えしなくっちゃ」
 「遅れたら姉さまに叱られるわ」
  ばたばたと慌しく、庭園の外へ向かう。と、一人が振り返った。
 「やだ。鞄忘れちゃった」



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