ライジング・サーガ ~恋するオトメのオンラインゲーム~

秋原かざや

SAVE4 ちょっと待って! 魔王さまと救世主

 え、えっと……。
 確認してもいいですか?
 一番最初のログイン……転生っていうんだけど、それが終わった私。
 さっそくこれから、ゲームが始まるっ!!


 って、わくわくしてたんだけど。
 おどろおどろしいお屋敷に来ちゃったり。
 外では稲光がぴかぴかしてるし。
 しまいには……。


 目の前にね。
 紅に染まった大きな玉座に座っている、でっかい角を付けた、とってもグラマラスで美人の……。


「私は、この城の主、『魔王』だ」


 あのそのっ!!
 ここここ、これって、いわゆる『死亡フラグ』達成ってやつですか!?
 こっちは、まだ何にも知らない超! 初心者なんですけどっ!!


 なんていうか、冷や汗だらだらで。
 あ、とはいっても、実際にはバーチャル世界なんで、汗なんて出てこないんですけど!
 っていってる暇じゃないよ!!
 もうどうしたらいいか、パニックしてて、無言になっていたら。


「……ん? ちょっと待て。なんで、レベル1の初心者がここにいるんだ?」
「へ?」
「まさか、違法ツール使ったんじゃ……」
「ち、違いますっ!!」
 即座に私は否定した。
 そんなんあったら、ラスダン来てませんっ! たぶん。
「えっと、転生したらなぜが、こっちに来ちゃったんですーーー!!」
 最後の方は、涙目だ。
 ふんふんと魔王さまは、話を聞いてくれてる。
 もしかして、実は、良い人かもしれない。
 魔王だからって、人を差別しちゃだめだ。そう思う。
「転生事故か……ベータ版のときに修正したはずなんだがな……」
 でも、こうして、現に事故ってます、私が。
「まあ、お前の事情は分かった。本来ならば、ここでボス戦なんだが、今回は見逃すことにしよう」
「あ、ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げる。
 ……ここの魔王さま、絶対良い人だっ!! ありがとう、神様!!
 羅那君、私、無事に帰れそうです、よかったーっ!
「で、では、私はこれで……」
 と、帰ろうとしたんだけど。
「ちょっと待て。その前にお前の話を聞かせてくれ。そうだな……ここでは話しづらい。もしかしたら、別の勇者も来る可能性もあるからな……」
 呼び止められました。ついでに魔王さまは少し思案した後。
「私の部屋に行こう」
 なんていうじゃないですか!!
「部屋に、ですか?」
 不安そうに尋ねてみると。
「事故前の様子を聞きたい。何か操作の具合で事故ったのかもしれないからな」
 ああ、なるほど。バグの原因を知りたいと。
 よかった、変なことされるのかと思って、びっくりしちゃったよ。
「分かりました。そういうことなら、行きます」
「ああ、助かる」
 魔王さまはすぐに立ち上がり、私を招く。
「部屋はこっちだ」
 導かれるままに、私は奥にある魔王さまの部屋へと入っていった。


 普通、魔王さまの応接間って、凄いゴージャスなソファーセットがあると思っていました。
 もしくは、悪役っぽい凄い会議室とか想像しちゃうじゃないですか。
 それとは、全く違っていました。
 なんていうか、その。
 予想に反してというか、その想定よりも斜め上45度いっちゃったみたいな?


 まず……なんで、ここにソファーがないんですか?
 それはまあ、良いとして。
 なんで、ビロードの天蓋があるんでしょ?
 そいでもって、何で、ご丁寧にでっかいキングサイズのベッドがあるんですかっ!!??


 頭が真っ白になる。
「どうかしたのか?」
 ちょっと待って、ここって、もしかして……。
「私の寝室だが?」
 のおおおおおおおおおおっ!!!??
「すみません、部屋、間違えました」
 くるりと回れ右をする私を、魔王さまが止めます。
「いや、間違ってない」
「でも、ここって、話を聞く場所じゃないですっ!!」
 無情にも魔王さまはこう言ってくれました。
「部屋、ここしかなかったから」
 のおおおおおおおおおおっ!!!!!
「それに勇者もここには入れないしな」
 がちゃり。
 ……、今、何しました?
「これで、勇者も入れない」
 がちゃりって、鍵、かけませんでしたか?


 ………羅那君、私、貞操の危機を迎えてます。どうしたらいいんですかぁあああ!!
 良い人だと思ってたのに、魔王さま、レズでしたっ!!


「いや、俺、ホントは男だし」
「へ?」
 間抜けな返事しちゃったけど、今、魔王さま、何ていいました?
「だから、男。まあ、魔王は女だけどな。操作してるのは、男だぜ?」
 にっとニヒルな格好いい笑顔を見せてくれます。
 ……ちょっと待った、どこからツッコメばいいですか!?
「まあ、そんなに怖がらずに、こっちに来い。ここに座って、話を聞かせてくれ。な?」
 そこって、ベッドじゃないですか!!
 やっぱり、私、お嫁にいけなくなっちゃうかもぉおおお!!!
 誰か、助けてーーーっ!!


 と、そのときだった。
 爆風と共に、壁が、吹き飛んだ。
「こぉーーーんの、バカ親父っーーー!!」
 そこから、誰かが飛び出してきて。
 ううん、壁を蹴破ってきたみたい。
 そのままの勢いで、魔王さまに強烈な一撃をどっかーんとしてきました。
 魔王さまは、その誰かの強烈なアタックにより、後ろに吹っ飛んで……あれ、吹っ飛んでない?
 ああ、そっか。これくらいのアタックで吹っ飛んでいたら、ラスボスじゃないもんね。
 っていうか、私の記憶が確かなら!!
 さっきの人、『親父』って言ってなかった?
「何してんだよっ!! 初心者相手に、×××なことや、△△△なことをしようとしてたってのは、噂じゃなかったのか!!??」
「いやいや、あまりにも可愛い子が来たんで、つい」
「ついってもんじゃないだろっ!?」
 激しい攻防は、止まることを知りません。っていうか、なんかその、揺れてません? ココ?
 私の目には、彼らの攻防は、見ることはできません。なにやら、凄い蹴りとかパンチとか剣戟とか行われてるみたいだけど、早すぎて、よく見えないってのがホンネ。
「けど、俺は話を聞くためにだな」
 彼は魔王さまの話なんて、聞いていない様子。
「問答無用っ!!」
「!! 待て、早まるなっ!!」
 きゅいいいいいんと何かがチャージされてきます。
 あ、剣が光ってます! それだけは私にも見えました!!
「サウザンド・ソード・ライジング・ブレイカーーー!!!」
 何ですか、その中二病っぽい、強そうな技名はっ!!


 そして、部屋は、大変なことになりました。


「ふう、悪は滅しておいたよ」
 にこっと彼は私に微笑みかけてきて。


 どきっ!!


 なんていうか、すっごく、格好いいんですが、がっ!!
 こっちの顔が火照ってくるというか、なんというかっ!!


 あ、ちなみに彼はというと。
 サイドの耳に近いとこだけ、少し長めの銀髪。
 鼻もすっと通っていて、目はオッドアイ。左目が金色で、右目が蒼い色。
 背は高い。180センチくらいあるんじゃないかな。私は157くらいだから、凄い差になってる。
 彼は持っていた二つの剣を腰の鞘に戻すと、言いました。
「遅れてごめんね、サナ」
 ……………!!!?
 ももも、もしかして、もしかすると。
「僕だよ、羅那。あ、ここではラナン・ユエルって言ってる」
 っていうか、すごく、飛び切り、美形なんですがっ!!!
 肌も白くて、耳も少しとがってる。私よりも長くは無いけど。
 体もすごくがっしりしてて、でも、太ってなくて、しっかり引き締まってる。アスリートってこんな感じなのかなって感じ。


 どくんどくんどくん。


「サナ?」
「ら、羅那くん?」
 こくりと、静かに美形の彼は頷いた。飛び切りの笑顔で。
「えっと、は、初めまして」
 ぎこちなく、ぺこりと頭を下げた。
「やだなあ、そんな他人行儀しないでよ。ちょっと傷つく」
「だ、だって……だってっ」
 真っ赤になってたと思う。だって、普段の羅那君は、その普通っていうか、話しかけやすいオタクっていうか、その、気兼ねなく話せるって言うか。いつもの羅那君も格好良いけど。


 でも、目の前に居る羅那……いや、ラナン様は、私の理想をそのまま、具現化したような、美形さんなんだものっ!!
 普段どおりに話せませんっ!!


 なんて、思ってたら、くすくす笑われてしまった。
「よかった、サナの好み通りに外見作っておいて」
「へっ?」
「こんな可愛いサナが見られるんだもの、ホント、よかった」
 ちょ、ちょっと待って、こっちに来てくれるのは良いけど。
 ぎゅっと抱きしめられた。
「それに、サナも僕好みに外見、作ってくれたんだ」
「いや、その、金髪好きだって言ってたし……その」
「ありがと、サナ」
 羅那君もとい、ラナン様は、またハグしてくれました。
 っていうか、その美形顔、近づけないで!! 心臓に悪いですっ!!


「さーて、そろそろいいか?」
 あ、魔王さま、復活した。すごい。あれ喰らっても平気なんだ。
「まだ居たの、親父。死んでなかったの?」
「あれくらいじゃ、まだ死なん」
 ……そういえば、さっきから、親父って言ってるけど……。
「ああ、ごめん。言ってなかったね。あれ、僕の父さんなんだ。外見はアレだけど」
「えええええええっ!!!???」


 あの魔王さまは、羅那君の、お父さんでした。
 って、嘘嘘嘘嘘っ!!!??

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く