もう一度 I love you

秋原かざや

キライなアイツが、気になるアイツへ

 好きに理由なんてナイなんて、誰が言ったんだろう?


 それは突然起きた。
 ある日の放課後。
 書き終えた日誌を、職員室に置いてこようと、廊下を歩いていたときのこと。
「危ないっ!!」
 一瞬、誰の声かわからなかった。
「えっ?」
 振り返る。
 よりも、引き寄せられる力が強くて。


 抱きしめられた。


 瞬間、カシャーンという、ガラスの割れた音と、目の鼻の先で野球のかったいボールがすっとんでいくのが見えた。
 ぼんぼんぼん。
 廊下の壁にぶつかって、ボールはとたんに勢いを無くして。
 私は知らない誰かに抱きしめられて。


 どくんどくんどくんどくん。


「大丈夫か?」
 優しい声が、頭の上から聞こえた。
 聞き覚えのある声。
「あら、た……?」
 見上げて気づいた。
 それが、新だってことに。
「よかったな、あのままあそこにいたら、ボールとガラスの餌食になってたぞ」
「う、うん……」
 私はいつものように鞄を……いや、手元にあるのは日誌か。
 それを振り回す元気がなかった。
 いや、元気はあったけど、それ以上に。


 どくどくどくどくどく……。


 胸の鼓動が早くて。


 どどどどどどっ……。


 背中に感じる、新の温もりが、私の怒りを別のエネルギーに変えてしまった。


「あれ? 沙奈、顔赤いけど、大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫。ちょっと、びっくり、しただけ」
「だよな、あんなこと目の前で起きたら、鈍いお前でも流石に驚くよな」
「鈍いは、よけい……」
 ぽふっ。


 叩けなかった、いつものように。
 新の顔も、見れなくなった。
「日誌、早く置いてくるね」
「あ、そっか。気をつけてな」
 新の視線を背中に感じて、私はまた、その鼓動を早くさせた。
 --------新が見てる。
 そう思うだけで、心臓が早くて苦しくて。




 好きに理由なんている?
 だって、あっという間にもう……恋、しちゃったから。





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