ライジング・サーガ ~初心者エルフとチート魔人~

秋原かざや

SAVE31 黒き山の洞窟からSOS

 彼らは黒き山脈の洞窟に来ていた。
 洞窟に設定されている推奨レベルを超えていたし、更にレベル上げ、イベントをこなすにも良い場所だと思い、そこを選択した。


 しかし、誤算はあるもの。
 間違って、洞窟のトラップを発動させてしまった。
 しかも、運が悪いことにモンスターを大量発生させてしまうもの。
 それ幸いとレベル上げに翻弄してみたら……。


 リザードマンの爪を見事に避けて、獣のような耳をぴんと立てるのは、短いライトブロンドの髪の少女。長い深紅のマフラーをつけて、毛皮の胸当てとパンツ、ブーツを履いている。服は露出度高めだ。ちょっぴり胸は残念な大きさであったが。
「MP使うから、あんま使いたくなかったんだけどっ!!」
 右手首につけたルーン文字の刻まれたアミュレットが深紅に輝き。
「武器生成!!」
 その腕に獅子を思わせる鉤爪のついた小手が装着された。
 この技の嬉しいところは、すぐに次のスキルを発動させることができること。
「そのまま、くたばれっ!! 紅蓮拳っ!!」
 炎の力を帯びたその爪が、リザードマンを一瞬で消滅させた。
 獣耳の少女と入れ替わりに前衛に加わるのは、青緑色の髪に真紅の瞳、整った顔立ちで、赤い筋の入った深緑色の角を持つ少女。黒のスーツに若干違和感を感じたが……。
「まったく、数が多すぎるよね」
 どこからともなく取り出したのは、杖のようなバトン。迫り来るリザードマンの攻撃を。
「シールド・ユー」
 バトンを振り発動させた魔法で、別のリザードマンを自分の前に転移し盾にして、その攻撃を防いだ。
「これで少しは減ってくれるといいんだけど」
 角の少女はふうっとため息を零す。
 そこに、杖を持ったリザードマンが魔法を唱えた。
 狙っているのは、獣耳の少女と角の少女。
「おやおや、いけませんねぇ」
 彼らの前に出て、ばっと、手に持っていた傘を開いた。
破壊クラッシュ
 消えうせたのは……リザードマンの放った魔法。
 傘をたたんで出てきたのは、道化師そのもの。銀髪に頬には涙のペイントを施されており、右目を常にウインク状態にしていた。
「さあ、今のうちに」
 道化師の導くままに。
「こっちは任せろっ!!」
 道化師の声に応えたのは、一人の中年。慣れた手つきで、背から矢を取り出しボウガンにセット。
 オールバックの茶髪を後ろで短く束ね、濃いひげ。ブラウンの瞳はまるで獰猛な肉食獣のような鋭い視線を投げかけていた。
「連撃っ!!」
 6本の矢の攻撃に、杖を持ったリザードマンはあっという間に消え去る。
「ま、こんなも……」
 彼の格好いい姿は、すぐに一変。
「ぐおっ!!」
 死角から飛び出してきたリザードマンから痛恨の一撃を貰ってしまった。
 即座に動いたのは、黒いマントに白い杖を持った少女。さらりと艶やかなセミロングの金髪に蒼色の瞳を輝かせ、質素だが気品ある黒のワンピースを着ていた。
「慈愛」
 杖から放たれた白い光が、ボウガンを持った男のキズを癒していく……。
「サンキュー、助かった」
 その男の言葉に、杖の少女は。
「こんなところで怪我をされては、困る」
 ぷいっと顔を背けていた。その様子に男は苦笑を浮かべ、頭を掻いた。
 状況は正直、良くない。
 今のところリザードマンを少しずつ減らしているが……ぞくぞくとやってくる敵に梃子摺っていた。
 このままでは、こちらのスキルが使えなくなって、ジリ貧になってしまうだろう。
 そうなれば、ここを脱出することも適わなくなってしまう。
 事の重大さに、後方で控えていた弓を持ったエルフの青年が魔法を発動させた。
光の先 ライティング・オブ!!」
 敵に向かって射すように眩しい閃光が放たれる!
「皆、こっちだっ!!」
 リザードマン達が怯んだ隙に、彼らは急いでその場を逃げ出した。




「安全な場所まで逃げられたな」
 くるぶしまで伸ばした髪を揺らし、深緑色の瞳。エメラルドグリーンのローブを身にまとう、先ほど、 光の先 ライティング・オブを放ったエルフの青年が告げる。
 幸いなことに、飛び込んだ道の先、少し開けた場所には守護の結界が張られていた。この結界内にいれば、モンスターに襲われることはない。
「これで一息つけるね。さっきはありがとう、フォン」
 バトンをどこかに仕舞い込むと、角の少女は礼を述べた。
「礼はいい、ユノ。それよりも、偶然、ここを見つけることが出来て幸いだ」
 どうやら、エルフの青年はフォン、角の少女はユノというらしい。
「それよりもどうすんだ? あたしたち、戻れなくなってるぞ」
 爪にしたアミュレットを戻し、獣耳の少女が言う。
「サンディの言うとおり……だな。手持ちのアイテムも残り少ない上に、洞窟の奥まで入り込んでしまった」
「ああ、頭の痛い状況だぜ、リリー」
「何気に触ろうとするな、セクハラレオン」
「セクハラは余計だろ? いいじゃないか」
 獣耳の少女はサンディ、マントの少女はリリー、そして、ボウガンを持った中年は、セクハ……いや、レオンというようだ。
「まあまあ、いちゃつくのも良いですが、運営に助けを呼んだ方がいいと思いますよ」
 道化師はにこにことそう告げる。
「そうだな、エド。さっそく救援を求めよう」
 連絡用のウインドウを呼び出し、フォンは運営に助けを求める。
「早く助けが来るといいんだけど……」
 リリーは不安そうにレオンの腕にしがみ付いたのであった。






 そんなことが起きてるなんて、私はちっとも知らなかった。
 そして、これからあんなことが起きるなんて……。


 とにかく、その救援は私達、ライジングサン……ううん、そのリーダーであるラナ君の元に届けられたのです。









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