ライジング・サーガ ~初心者エルフとチート魔人~

秋原かざや

SAVE EX-3 あなたはおぼえていますか?

 ラナとサナの二人がデートをしている頃。
 こっそり二人を見守っていた、カインとセレは、二人で雑貨屋を見ていた。
 というか、夢中になってしまって、仕方ないので、ミスティに言って、ここに残ることを伝えていた。
「カインさん、カインさん! これ可愛いよー!!」
 セレが呼び止める。その手には可愛い犬を模った帽子。被ると可愛いわんわんになれます的な、愛らしいデザインだった。
「セレ嬢にぴったりですね。買ってあげましょうか?」
「ううん、これくらいなら自分でも買えるから大丈夫」
 ありがとと言って、セレはさっそくお買い物。
「そんな君も可愛いよ……」
 そう呟いて、カインはセレの後姿を見送った。




 実はカイン。
 セレに一度、会ったことがあった。
 まだカインが魔法剣士ではなく、戦士ファイターだった頃……。
「はあ、やっぱりパーティ組むべきだったか……」
 当時のカインはビキニアーマーな(けれど、凄く効果が高い)格好で剣に盾と、オーソドックスな格好をしていた。
「周りに言われるままに、この格好にしてたけど……」
 それが嫌になったのだ。ゲームの中まで思想を押し付けられるとは想定外。
 前に入っていたパーティを外れたのだ。
 この格好にしたとたん、パーティの視線が変わった。じろじろ見られることが多くなった。果ては、手を止める者まで現れて。だから、アーマーだけでも変えようかと提案したとたんに。
『いや、君はそれを着た方が良い。むしろ着るべきだ!!』
『キミ以外、そのアーマーを着こなせるものはない!!』
 そういえば……あのパーティ、女キャラいなかったな……。


 いや、そうじゃない。
 今をどうにかしなくてはいけない。
 なぜなら……体力も残り僅か。しかも頼みの綱のポーションも1個。
 そんな状態で……レベル上げにと入ったダンジョンに入って、迷子になっていた。
「こりゃ、一度死ななきゃダメかな」
 せっかくお金もかなり貯めていたのにと呟いてしまう。ふうっと、何度目かのため息をついたときだった。
「ぐきゅるるるる……」
 なんと、ウルフマンに遭遇!! しかも自分のレベルよりも上で強い!!
 カインは咄嗟に盾と剣を構えた。と、そのとき。
「ホーリークロスジャッジーっ!!」
 十字型の白い軌跡がウルフマンを直撃。その一撃で、あっという間に消滅してしまった。
 ……確かあの呪文、一番弱い白魔法攻撃じゃなかったっけ?
「あ、こんにちはー☆ もしかして、迷っちゃった?」
「え、あ……はい」
 そこに現れたのは、可愛らしい白帽子と白ローブ姿の女神官さん。
「ここって、ホント迷いやすいからねー。ボクも慣れるのに20回もかかったよ」
「えっ!?」
 今、何気に20回って……。
「あ、名前言ってなかったね。ボクはセレスティーア。セレって呼んで。それと……実はライジングサンに所属してるんだ」
 ものすごく納得。
 そうか、あの『噂の』ライジングサン所属なら、これくらい強すぎてもおかしくはない。
 ……あれ? 確か……あのパーティ、女性は怪しげなミスティという人しか居なかったかと思ったんだが……。
「ボクね、最近入ったんだー。だから、こうして一人でレベル上げ中ー。しかもここ、合成用アイテムがごろごろゲットできるから、お得なんだよね♪」
「いえ、ここ、一人でクリアできませんから」
 いったい、どれだけやれば、そんな化け物になれるんだか……。
「あっ、そっか! パーティとはぐれちゃったんだ!!」
「へっ!?」
 思わずカインが変な声を上げた。
「だって、ここ一人じゃクリアできないんでしょ? うんうん、入り口付近は弱いモンスターばっかりだけど、奥になると、ドラゴンもいるもんね、ここ」
「いやそれ、初耳です」
 マジですか!? 私まだ、ドラゴン倒せるレベルじゃないんですけどっ!!
「って、もしかして、初心者さん? いるんだよねー、ちょっと入って、弱い敵だからって、思わず奥まで行っちゃって、後悔するってパターン。でも、ダンジョンの推奨レベル、ちゃんと見てね? 5~80ってあるから。80。ちゃんと書いてあるからね?」
 そういえば、始めの数字しか見ていなかったように思う……危ない、ここって、本当に危険なところだったんだ……。
「と、いうわけで♪ 出口まで案内してあげるよー♪ ちょっと遠いけど、セレさん強いからだいじょーぶ!! あっと、HP減ってない? 回復してあげるよ?」
「でも、MP減りますよ?」
「でしょー? でも、この回復の杖があるから、MPなしでも回復魔法が唱えられるのです。ラナン君さまさまだよねー」
 確かラナンって、化け物と呼ばれてるおっそろしいPCだったような……。
 カインはセレに促されるまま、回復をしてもらい、復活を遂げたのだった。


「……って、そのパーティ、最低だねっ!! ボクだったら、真っ先にホーリーインフェルノぶっ放して、さよならだよ」
 その呪文、神官さんの最強魔法の一つだったような気がするんですが、気のせいですか?
 出口に向かう間に、いつの間にか、人生相談みたいになっていた。
 思わず、今までのことを話してしまったのは、セレの持つ独特の雰囲気のせいかもしれない。
「まあ、それで外れたんですけどね」
「あ、そうなんだ。正解正解。その方がずっといいよー。早くその装備、別のに出来るといいね」
「あっ……はい」
 思わず笑顔になってしまう。
「んーでも、なんで、男の人の視線が気になるの? 普通ならこう、もっと見てーとかなっちゃうんじゃないの?」
 セレの疑問にカインは答える。
「本当は、男になりたかったんです。でも、性別決めるときに、間違えちゃって」
「……うっかり屋さん?」
 セレの指摘に思わず、苦笑を浮かべた。
「でも、最近、性別を変更できるアイテムがあるって聞いたんで、それまではこのままレベルを上げてたのしもうかと思うんです」
 それはそれで、楽しいかもしれない。
 まるで、自分の人生をなぞるように見えて……このキャラに愛着を持ち始めているから。
「応援するよ。アイテムで男の子になれるといいね!」
「あの……気色悪いとか、思わないんですか?」
 以前、現実でカミングアウトしたとき、友達は手のひらを返すように態度を変えた。
 その後、連絡が取れなくなってしまっていたり、疎遠になることも多い。
「え? どうして?」
「だって、その……」
「キミはキミじゃない」
 セレはにこっと微笑む。
「人の心は人それぞれだよ。私の知り合いだって、オカマさんとかいるし。それに、他人のことを気にしたらキリがないんじゃない?」
「それは、そうですけど……」
「なりたい自分になるのも、大切なことだと思うよ。だからって、気色悪いなんて思わないもん。男の子も女の子も、同じ『人』でしょ? ね?」
「はい」
 なんだか、セレの言葉に勇気付けられた気がした。


 気づけば、もう出口。
「この次は迷子にならないよう、ひとりで入らないようにね?」
「はい、ありがとうございました!!」
 その後、カインは決めたのだ。もう水着アーマーなんて着ない。
 自分らしく、自由にするのだ、と。




「カインさん、お待たせ!!」
 買ってきた帽子を被って、セレが戻ってきた。
「セレ嬢、可愛いよ。もう付けてるんですね」
「うん。でも、いつもの帽子の方が強いから、今だけだね」
 そう、今だけの『特別』。それがカインにとって嬉しいことだ。


 -------また、逢えて嬉しいです、セレ嬢。


 心の中でそう呟いて。
「さて、セレ嬢。次はどこに行きましょうか? お付き合いしますよ」
「いいの? じゃあ……」
 彼らの『特別』な『お買い物』は、まだまだ続くのであった。















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