ライジング・サーガ ~初心者エルフとチート魔人~

秋原かざや

SAVE EX-1 ラナの憂鬱~ご乱心?~

 どうしてだ?
 戦争イベントを起こして、勝利をもぎ取るつもりだった。
 そうすれば、我がパーティに箔がつく。また、パーティに称号も付けられるようになる。
 わざわざ拠点を要塞にして、罠も課金アイテムを使って大量に取り付けた。
 パーティメンバーも500レベル以上の者を10人、それ以外を50人集めた。
 最高の作戦も与えた。
 だからこそ、とても優勢だった。
 そんな要塞に、相手はたったの5人で挑んできた。
 相手のパーティ名だと? 所詮、捨て駒になる奴らだ。覚えてやったら、可哀相というものだ。
 だから気にすることなく、作戦を展開していた。
 そう、我らが勝利するのだ!!


「怯む気ないねー」
 たったの5人でやってきた無謀なパーティの一人。
 治療専門のセレスティーナは、思わず苦笑を浮かべた。
「こりゃあ、思った以上に固いな」
 武道着に身を包んだ武道家、アルフ・ローランもため息混じりに口を開く。
「でも、もうすぐミスティ、戻ってくる」
 言葉数少ない武士、早雲銅山そううんどうざんが要塞を見つめながら、そう告げた。
「うん、ミスティが戻ってきたら、一気に行こう」
 膨大な魔力を備えた魔人であり、魔法剣士のラナン・ユエルは、神妙な面持ちで彼女の帰還を待っていた。
 この場に居ない、ミスティ。盗賊の彼女が抜け道を見つけて戻ってくることを信じて。


 しかし、彼らの思いは、敵の周到な罠により、打ち砕かれることとなる。


「ご、ごめんなさい……」
 駆けつけたときには、遅かった。
 セレスティーナが傷だらけのミスティを抱える。急いで回復魔法をかけようとしたが、それはできなかった。そう、もう彼女は戦闘不能だったのだ。
「ミスティ、ごめんね! もっと早く行けば……」
 涙を零すセレスティーナの頬に、ミスティは血だらけの手で触れる。
「いいの。ちょっと無理しすぎちゃったのよ。だって、こんな大仕事、めったにないでしょ? ……ラナン、みんな、一足先にファーストレインに……行ってるわね……」
 そう微笑んで、彼女の体が消えた。残るのはキラキラと輝く残滓のみ。
「……皆、作戦があるんだけど、いいかな?」
 静かにラナンは告げる。口元に冷えた笑みを浮かべながら、そのオッドアイには復讐の炎が燃え上がっていた。
「いいぜ、言ってみな?」
 アルフの促しによって、ラナンは続ける。
「みんなはこのまま、前進してってくれる? 裏からボスの思惑を打ち砕いて」
「ラナンは?」
 心配そうに銅山が尋ねた。
「僕は表で敵を惹き付ける。大丈夫、これくらいどうってことないから」
 ラナンを見送って、3人はミスティの見つけた裏道を行く。
「……ねえ、あれって、切れてるよね?」
「どうだか?」
「それに煽ったの、セレ」
 アルフと銅山がセレを見た。
「だってさー、ミスティがやられちゃったんだよ、むかつくじゃん!! このままクリアしても、ミスティにはお金は入るけど、EXPは半分だし、可哀想だよ」
「だから、泣いた?」
「うん。その身で思い知るといいんだ」
 セレはにこっと、小悪魔的な笑みを浮かべる。
「あれか……『無敗の鬼神』」
「そ、それにボク達、こうして『安全な道』に進んでるわけだし。傍観しちゃってもいいと思うな」
「南無三」
 思わず銅山が手を合わせた。


 気が付けば、要塞は瓦礫の山になっていた。
 何が起きたのか、分からなかった。
 味方はもう、3人しかいなかった。
 煙だけが、今の状況を教えてくれている。
「ねえ、『俺』の仲間をヤってくれたの、君?」
 冷えたオッドアイが、怪しく光る。
「お嬢、逃げてください!」
「ここは我等が食い止め……ぐおっ!?」
 あっという間に、前に居た3人は、双剣の餌食になった。
 残るは、たった一人。
「もう一度、聞いていい? 君だよね? これ、作ったの?」
「……は、はい」
 震える声で、そう答えた。足も手も震えていた。
 気絶できないのは、これが偽りのファンタジー世界だからだ。
 涙が、こぼれた。
 どうして、どうしてこうなった!?
 ただ、自分のパーティを強化したくて、がんばっただけなのに。
「凄かったよ。いろいろ。課金罠も山ほどあったしね」
 ざりっざりっと音を立てて、彼はゆっくり近づいてくる。
「だけど、罠にかかった盗賊を、寄ってたかって倒すのはどうかと思うよ?」
「え? ど、どうして……それを……?」
「さあ? どうしてだろ?」
 微笑んだ。その瞳を細めて、にっと。
「さようなら。悔やむなら、自分の行いに」
 一瞬で、世界が暗転した。




「っていう、凄い人が」
 セレはふうっとため息を零した。
「まあ、いいんじゃない。こういう方が健全よ」
 ミスティは楽しげにその様子を眺めている。
「でもそろそろ止めた方がいいんじゃね?」
 可哀想に思ったのか、アルフが声をあげた。
「仕方ない。相手が相手だから」
 とうさんが目を瞑った。
「サナが、サナが……また消えたっ!!?」
 ファーストレインの町から船で移動する途中で、サナと迷子になった。
 辺りを入念に探していたら……サナは時刻になったので、船に乗っていた。
 それに気づいたのが、サナの乗った船が出港した後。
 翌日、一番早い便で、町に向かったというのに。
「どうして、またクエスト受けちゃうんだよぉおおおーー!!」
 びえええんと言わんばかりにラナは、大混乱。
「もうもう、こうなったら、見つけたら絶対に『エンゲージ』するっ!! 絶対だ!!」
「ちょ、ちょっと待って、本当にするの!?」
「お前、『エンゲージ』の意味を知ってていってるんだよな?」
「わかってるさ!! もともとするつもりで誘ったんだからなっ!!」
 涙目で訴える。
「こんな想いするなら、最初っからすればよかったーっ!! 『エンゲージ』すれば、アイテムなしでも遠距離で会話できるしっ!!」
 ある意味、暴走している。隠しスキルは発動してはいないけど。
「僕のサナを帰せぇぇぇーーーーっ!!!」
 アクアバランの冒険者ギルドで、化け物といわれた男が、泣き叫んでいたのは言うまでも無く。
 果たして、彼は彼女と無事に合流できるのか……それはまた、別のお話。



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