私、これでも副会長なんだけど!?

秋原かざや

【番外編】それぞれの思惑と

「そんな……嘘、嘘、嘘だと……言ってっ!!」
 深紅のラインディーヴァがゆっくりと空から落ちて、爆ぜた。
 瓦礫に挟まれるかのように、美柚は血溜まりの中、真っ青な空を見上げる。
「神……様」
 必死に空に手を伸ばす。
「もし、この世界に神が……いるのなら……」
 最後の言葉は声にならなかった。


 ―――お願い、助けて。






 ぱたぱたと幼い足音が廊下に響く。
「どうした、騒々しい」
 幼い少女は、その声の主を見上げた。持っていたボードに文字が浮かび上がる。
『お兄ちゃん、助けて』
 涙で潤んだ瞳で見上げられて、声の主……いや、少女の兄は、小さなため息をつく。
「何があったんだ?」
『えっとね、えっとね……』


 少女はとある世界を管理する神だ。
 もちろん、その兄も神である。
 記すことがあるのなら、どちらも実は若いということだ。
 他の神は、既に一つだけでなく数多くの世界を管理し、その世界に住む者達を導いている。
 しかし、この兄はこの前、やっと2つめの世界を作り出したところ。
 ついでにいうと、少女はこの前、やっと1つめの世界を作り出したところだった。
『世界が、バグっちゃったの。それでね、敵が強くなりすぎちゃって、強い子を呼んだんだけど、だめだったの。だから今は、世界の時間をちょっと止めてる』
「大なり小なり、バグは存在するからな。けれど、それはちょっと厄介じゃないか。それに俺じゃなくて、他の兄達を……」
『グランマの出産が近いのに?』
「………」
 そういえば、グランマがまた子を授かったと言っていた。
 グランマの維持している世界を制御するためには、数多くの兄や姉達の力が必要だ。少女のように時間を止めることも可能だが、そうなれば、大なり小なり世界に影響をもたらす。しかもグランマの世界はどれも古い世界ばかり。繊細なしかも古い世界を維持するには、グランパだけでは、難しいのだ。
「状況はわかった。まずは、そのバグをなんとかしよう。敵を倒せばいいのだな?」
『そうすれば、世界が落ち着くから』
 こくこくと少女は嬉しそうに頷いた。
「かといって、俺がお前の世界に干渉することは不可能だ。わかるよな?」
『うん、下手したら世界が壊れちゃうんだよね?』
「そうだ」
『じゃ……じゃあ、どうするの?』
「俺の世界の者を派遣しよう。大丈夫、あいつは頼りになるからな」
『わあ、やっぱりお兄ちゃんに相談してよかった! ありがとう、お兄ちゃんっ!!』
 少女は手元のボードをぽんと捨てて、兄にぎゅっと抱き着いてきたのだった。




「……で、僕がその世界に行くことになったってこと? こっちもいろいろ忙しいんだけどねー」
 兄神の前にいるというのに、敬うことなく、いわば同等のように話しかける青年がいる。どうやら、兄神は、この青年を妹神の世界に送るようだ。
「世界が安定するまでだ。ついでにその状況をしばし、この世界で再現してもいい」
「ほう。で、向こうはどんな世界なの?」
「簡単に言うと、乙女ゲーだ。前半は学園モノでぬるいが、後半はハードなSF」
「どんなゲームだよ」
 思わず青年が突っ込む。
「まあいいよ。ちょっと引継ぎがあるから、それが終わってからね」
「よかった、助かる」
「それと、一つ条件があるんだけど」
 青年はにやりと笑みを浮かべて、その条件を口にした。
「僕の愛しい人も一緒に連れて行ってくれる? ついでにここで得た力をそのまま向こうでも使えるようにしてくれると嬉しいなぁ~」
「おい、一つじゃないぞ、コラ」
「だって、ハードなんでしょ? それなりの特典は欲しいよ? その代わり向こうの世界を救ってあげるんだし」
「……わかった、何とかしよう」
「ありがとう、神様。それじゃあ、このままやっちゃって」
「って、引継ぎはどうしたっ!?」
「いやだなぁ、そんなのカリスに頼んだのに決まってるよ。僕の分身なんだし。あ、サナにはこのこと内緒ね。絶対、怒るから」
「後で怒られろ。ほら、やるぞ」
「了解、行ってくるよ」
 こうして、青年はサナという少女と共に、とある世界へ向かう。
「……これで、よかったんだろうか……」
 一抹の不安を感じた、兄神であった。




「それにしても、たまにはこういうのもいいよね! もう見ることないと思っていたサナの可愛い学生姿が見られるんだもの」
『マスター、後で怒られても知りませんよ?』
 眼鏡の青年の側には金髪の美しい美女がいる。
「大丈夫、そこら辺は何とかするよ。この世界を救ってからね」
『で、何から始めますか?』
「まずは、このラインディーヴァの強化だね。なかなかユニークなシステムを積んでいるのに、それが役に立っていないから、それを補強かな。あ、一応、君もそれっぽい形になっててもらえる? サナと一緒に乗るから。相手はバグった敵らしいからね。まあ、君がいれば、問題ないだろうけど」
『了解しました』
「それと、あの学園に入れるよう裏から手配して。んー設定は先生でいいか。あ、担任でよろしく」
『畏まりました』
 こんなことになっているとは、沙奈もとい、サナは知らなかったのである。


「やっと逢えた。意外にラインディーヴァ作成に夢中になっちゃったのは、ちょっと誤算だったけど……はあ、サナに逢えるだけで癒されるよ」
 桜を見上げて転びかける沙奈を、青年が受け止める。
 ちょっぴり恍惚な表情を浮かべているのは、たぶん、気のせいということにしておこう。
「大丈夫?」
「え、あ、そのっ!! だだだ、大丈夫、ですっ!!」
 その様子に彼は、くすりと微笑んだ。


 その後、この世界のヒロインだという美柚に出会った。
 ヒロインの割には、発展途上的な能力だった。
「あの子が、この世界のヒロインか……ラインディーヴァをもう少し強化しないと難しいかもな」
 どちらにせよ、アウトオブ眼中なのは、言うまでもないが。


 そして、眼鏡の青年の怒りが若干、解き放たれたのは。
「これはどういうことなんだよ、もう!」
 誰もいない個室で、彼は書類をテーブルの上に投げ捨てた。
『マスター、サナ様のポジションを適当につけたじゃないですか』
「ヒロインの側にとは言ったけど、こんな風にしろなんて言ってない」
 ハンパでない怒気に女性はたじろぐこともなく。
『とにかく、また倒れられたら大変ですよ』
「言われなくても何とかする! 全く、ラインディーヴァの開発も若干遅れてるってのに。これで倒せなかったら、僕の所為じゃないからな!」
 そう言いながら、てきぱきと指示を出していく青年に、女性はホッとした表情を浮かべたのだった。


 ちなみにラインディーヴァの開発は、とあるイベントをこなした後、急激に速度が増した。どのイベントとはいわないでおくが。




 そして、全てが終わった後。
「……ねえ、先生。どうして、ずっと側にいるんですか?」
 もうすぐ卒業を控えた彼女の側に、ぴったりと寄り添うように眼鏡の青年はいた。
「そりゃ、君がそこにいるからだよ」
「それは聞き飽きました。それに私はこれでも忙しいんですよ? 副会長で数少ないラインディーヴァのパイロットなんですから」
 そう、あの敵がたまに学園の空にやってくる。
 それを倒せるのは、今のところ、美柚とここにいる沙奈しかいない。
「そろそろ僕と一緒に帰っても平気なんだけどな」
「何かいいました?」
 こう怒られるのも新鮮だ。いや、それよりも、ミニスカートの制服から見える白い長い足がなんとも……。
「いいえ、何も。でも忘れないで。僕は君だけを愛しているってことを」
「ちょ、せ、先生っ!?」
 深い深いキスを交わして、青年は満足そうに。
「じゃあ、後は家でね」
「や、やりませんってばっ……!!」
 どうやら、青年は、もうしばらく、この世界を満喫したいようだ。
 果たして、二人が帰るのは、何時の日になることやら……。

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